第20話 柴咲さんの真意③


 

「……それで、具体的に俺にどうして欲しいんだ? 柴咲さんともっとイチャイチャすればいいのか?」


「も、もっとって、今よりも!?」



 どうやら、柴咲さん的には今まででも十分にイチャイチャしているつもりだったらしい。

 甘いな。俺が本気を出せば、バカップル顔負けにイチャイチャしてみせるぞ。

 ……まあ、やり過ぎると上司から叱られるだろうが。



「そ、そうじゃなくてですね、もっと静香ちゃんとしっかり向き合って欲しいんです」


「……今でもしっかり向き合っているつもりだが」


「それは、えっと、主君? としてですよね」


「まあ、意識はしている。柴咲さんに悪いからな」



 俺の恋人はあくまでも柴咲さんであるため、他の女性とは一線を引くようにしている。

 白鳥さんとも、なるべく男女としてではなく、主っぽく接するようにしていた。



「その気持ちは嬉しいんですが、それだと余計に静香ちゃんがなりきっちゃいますから……」



 柴咲さんの考えでは、白鳥さんは主従プレイに熱中することで、自分の気持ちを誤魔化しているのだそうだ。

 確かに、白鳥さんの行動からは時折、主従を超えた愛情のようなものを感じることがある気がする。



「私、そういうのもニオイでわかるんです」



 共感覚は、本来の感覚で知覚したものを別の感覚で知覚することが可能という。

 共感覚を持たない者でも、感じ取ったことを「臭う」と表現をすることがあるくらいなので、柴咲さんであればより正確に嗅覚で感じ取れるのかもしれない。



「たとえば、どんな風に感じ取れるんだ? 嘘とか隠し事のニオイ?」


「いえ、そういう具体的な内容じゃなくて、実際どう思ってるか感覚的にわかる感じです。静香ちゃんの場合、愛情が漏れているのが感じ取れるんですよ」



 万能とまでは言えないが、ある程度の嘘であれば見破れる可能性が高いということか。

 しかしそうなると、俺の内面まで見え見えなのか?



「ちなみに、以前俺のニオイを心地よいと言っていたが、今はどうなんだ?」


「それは……、今でも心地よいですけど、最近はそれだけじゃなくて……、その、愛情が溢れかえっているというか……」



 つまり、バレバレだったというワケか。

 ならば、もう隠す必要はないな。



「バレているのであれば告白してしまうが、俺は柴咲さんのことを、もう滅茶苦茶好きになってしまっている。はっきり言ってメロメロだ」


「っ!?」



 柴咲さんの顔が急激に赤くなる。

 改めて口にされると、やはり恥ずかしいのだろうか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る