第120話 月に沈む


濃藍色の空に手を差し出して

今にも触れそうな薄い雲

輝き始めた月を隠すかのように

ゆるく淡く渦を巻く


その中心から溢れだす

白く柔らかな光が

とてつもなく優しく見えて

焦がれるように指を伸ばした



ああどうしようもなく触れたいの



限りなく姿を変えるあなたの

変わらない光に憧れる私が

私であることの根源みたいなもの

それすら差し出してまで叶えたい願い



届かないならせめて月に沈みたい



あなたの中に溶け出して

その体を包んでしまえば

きっと一つになれるでしょう

あの魅せられてやまない光と


遮ろうとする雲でさえ 

もう私を止めやしない

だって沈み行く私はあなたで

あなたは私になるのだから


濃藍色の空に手を差し出して

今にも触れそうな薄い雲

その中心にある光に今夜も

私は恋い焦がれ触れようとする



そして私は月に沈む



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