第72話 人形
戸棚の奥にしまわれた
綺麗なドレスの人形は
かすかな笑みを浮かべながら
ひっそりそこにたたずんでいた
感情の読めない瞳は
輝くけれど熱はなく
きらびやかな衣装は
美しいけれど薄汚れ
泣きたいときに泣けもせず
笑いたいときに笑えもせず
たくさんの痛みを抱えたまま
そこで笑っているのだろう
きっと諦めてしまったのだと
表に出ることも再び輝くことも
全部諦めてしまったのだと
なぜか突然腑に落ちて
そんなことを考えていたら
ひどく切なくなってきて
人形をそっと抱き締めて
代わりにほんの少しだけ泣いた
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