第4話 初めての錬成とキャラバン
素材屋を出ると、俺は再びメニューを開き、クエストの詳細を確認する。
詳細の内容が更新されていて、「次はスキルを使って素材を錬成してみましょう」と表示されていた。
俺はメニューから「キャラクター」のアイコンを開く。すると、俺の姿をしたマネキンが映し出され、その横に「ステータス」「スキル」「装備」といったアイコンが表示された。
迷わず「スキル」をタップすると、2つのスキル名が表示される。一つ一つタップしてみると、詳細が表示されたため、確認してみた。どうやら俺が使えるスキルはこういうものらしい。
・『錬成』:物体の形状を変化させて組み合わせる。複数のアイテムを1つのアイテムに変化させることができる。生産道具を用いれば、特殊な錬成を行うことができる。また、アイテムと素材があれば耐久値の回復も行うことができる。
・『分解』:アイテムを部品ごとに分解し、素材アイテムに戻す。
今から使うのは『錬成』の方だろう。俺は『錬成』をタップして、表示された「スキルを使用」ボタンをタップしてみた。すると、薄緑色の新しい画面が表示される。画面左には四角いマス目状のボックスが縦4×横4の形で並んでいて、画面右にはアイテム一覧が表示されている。
戸惑っていると、メッセージが視界に表示された。
《アイテムをマス目の中に入れて、『錬成』と唱えてみましょう》
言われたとおりに、木材(小)と鉄材(小)をドラッグしてマス目に投入し、『錬成』と唱えてみた。
すると、マス目に入れたアイテムが目の前に現れる。そして、アイテムを覆うように黄色い光が放たれ、光がやんだ次の瞬間には、目の前に斧のようなアイテムが宙に浮かんでいた。
「お、おお。これが錬成か……リアルな映像で見るとすごい光景だな」
斧を両手で持つと、重さが発生する。少し振ってみるが、ちょうどいい重さだ。
斧を鑑定してみると次のように表示された。
・名前:木斧
・品質:低
・重量:10キログリム
・耐久:100
・説明:木こり用の斧。攻撃力はほとんどないが、木を切り倒すことができる。
なるほど、木を切るのに使うアイテムか。こうやって道具を増やして素材を獲得していって、錬成したアイテムを売るってのが錬金術師の行動パターンってことかな?
そう考えていると、また新しいメッセージが届き、「アイテムを売ってみよう!」というクエストを受注した。
さて、どんどん進めていきますかね。ああ、はやく観光したい。
◇ ◇ ◇
現実世界で17時。
ゲーム世界は現実の3倍の速度で進むので、俺がゲームを開始してからゲーム世界では15時間ほど経過したことになる。始めたころは真昼だったので、現在は早朝の5時である。
あれからいくつかのクエストをこなしたが、全てアイテムを作って売却するクエストだったため、効率重視でさっさと終わらせた。夜の中の作業だったが、星明りが結構明るいので、作業自体はなんとかできた。まぁ、それでも結構苦労したので、これからは夜中にあんまり活動しないつもりだが。
クエストのことはさておき、現在は、新規プレイヤーが最初に降り立つ広場で駿と待ち合わせているところである。
あたりを見回していると、東の方から一人の男がやってきた。プレイヤーネーム『シュンシュン』。駿のキャラクターである。
「お、拓実か?」
「そうだよ。駿だよね?」
「そうそう。いや~会えてよかった」
駿……いや、シュンシュンは金髪に金眼のイケメンで、水色のロゴ入りシャツと茶色いズボンに革のブーツを身に着けており、背中には一本の剣を下げていると言った格好だった。まあ、ゲームなので奇抜な格好でも割と周りになじんでいたりする。
「ところで、駿のことなんて呼んだらいいんだ?」
「ゲーム内だし、シュンシュンって呼んでくれ。リア友同士だとちょっと恥ずかしいけど」
「オッケー。じゃあ俺もトトローって呼んでくれ」
「了解!」
互いの呼び名を確認しあったところで、シュンシュンは本題を切り出した。
「で、これからお前に色々教えようと思うんだけど、職業は何にしたんだ?」
「えっと、錬金術師だけど……」
「ま、マジか⁉ お前錬金術師にしたのか⁉」
シュンシュンはものすごく驚いた表情を作って、頭を抱え出した。
「え、錬金術師って問題のある職業なのか?」
「いや、まあ、普通は問題にならないんだが……お前の場合は問題かもな」
そうして、シュンシュンは錬金術師の現状について語り出した。
「生産職全般に言えるんだけど、生産職は戦えないから、素材を加工して売りに出すしかないだろ? でもエルティア王国の錬金術市場では独自のレシピを開発しているクランが結構あって、そこからしか買い付けないっていう業者が結構いるんだ」
「つまり……そのクランのどこかに所属しないと買ってくれないってこと?」
「そういうことだな。皆その独自の素材アイテムを売ってくれなくなることを怖がっていて、クラン以外の他のプレイヤーから買おうとしないらしい。だから、もし何か商品を売るなら原価割れを覚悟して売らないと売れないっていう話だ」
なるほど。独自のアイテムという武器を使って、他のクランやソロプレイヤーから買わせないようにしているってわけか。
「じゃあ、そのクランに所属するっていうのじゃダメなのか? クランに所属すれば商品を買ってくれるんだろ?」
「それもそれで問題があるんだ。クランっていうのは大抵ノルマを持っているから、加入するとクランのノルマに行動を制約されることになる。お前は観光目的でゲームしているんだから、そういうのは困るだろ?」
「確かにそうだな…‥」
そうなると、どうすればいいんだ?
今から戦闘職にするっていう手もあるけれど、チュートリアルをやり直すのは面倒だし、そもそも戦闘はなるべくしたくないんだよなぁ。かといって、金を稼がないと道中の宿泊代とかを稼げなくなる可能性がある。この世界はリアルに近い世界なので、夜中に野宿するのは結構厳しいし、ログアウトすると、アイテムボックス(プレイヤーのメニューに表示される「アイテム一覧」をそう呼んでいる)に入れていないアイテムはその場に残るので、盗賊に襲われないように護衛を雇う必要があるのだ。
俺が悩んでいると、シュンシュンが逡巡しながらも、一つの提案をしてくれた。
「ただ、観光したいだけだっていうんなら、一つ手がないこともないぞ」
「本当か⁉ どんな方法だ?」
「それはな……」
俺はシュンシュンの次の言葉を待った。
◇ ◇ ◇
「なるほどな。それで俺のところに来たってわけか」
場所はフレンツェルの東門付近。2階建ての石造りの建物の1階部分で、俺とシュンシュンはガタイのいいおじさんプレイヤー『ハバネロ農家』さんに俺の事情をはなしていた。
彼はシュンシュンが懇意にしている農民プレイヤーで、自分で飼育している馬や農作物を使って行商にも手を出しているらしい。
部屋の中は木製で、火をともしたランプが光っている。季節が夏なのか、外は未だに明るいが日がかなり傾いているので、火を起こしているのだろう。
「行商人だったら金を稼ぎながら観光することもできると思うんだが……そっちでどうにかならないか?」
「んー、今運営している商隊は定員がいっぱいだしなぁ。今ある商隊に乗せるのは無理だ」
ハバネロ農家さんは心苦しそうにシュンシュンの頼みを断った。
しかし、ここで諦めても他に道はないのだし、俺はもう少し強くお願いしてみることにした。
「あの、別に一人旅でもいいのですが、それならどうでしょうか?」
「それならいいが……大丈夫か? 失敗すると全財産なくなる業界だぞ?」
「まぁ、俺はどちらかというとエンジョイ勢なので、その時はやり直せばいいだけですよ」
「そうか。まあ、そこまで言うならいいだろう。俺はちゃんと使用料を収めてくれればそれでいいしな」
そういうと、ハバネロ農家さんは画面を操作した。ちなみに相手の画面は俺からは見えない仕様になっている。彼の画面操作が終わると俺の視界にも画面が表示された。
《ハバネロ農家から馬×6と馬車×3の貸し出しを申し込まれました。受諾しますか? YES/NO》
俺は迷わずYESを選択。
こうして俺は行商を営むことになった。
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