二十八話 少年の姉
簡単なあらすじ『ニブリックは……何と、ロフター君の姉でした』
いきなり外へと飛び出して行ったロフター。
そんな彼を俺とジェリアは心配し、少年の執事であるトーバスさんに捜索の協力を要請したのだが……
どうやら普通に帰宅(?)していたらしく、捜索する必要は無かったそうなのだ。
これはまた、人騒がせな……
とは思うが、まあ小僧が無事だったのならば良しとしよう。
少年探しは開始前に無事終了し、焦る必要も、すべき事も無くなった俺とジェリアはその足でそれぞれの居場所へと帰る。
その道すがら、俺達は色々な話をした。
「……ハァ、これでクボタさんの事を悪く言えなくなってしまったわね。
私まで緊急招集を別の目的で使ってしまったんだもの……何だか罪悪感が凄いわ」
「……ま、まあ今回ばかりは仕方ないでしょ」
困り顔で言うジェリアを俺は宥めた。
トーバスさんに連絡を取る際、緊急招集を使った事を彼女はまだ気にしていたのだ。
でも。
彼女は前にもそこまで緊急でない用事でそれを使用した事を俺は覚えている。
忘れてしまったのだろうか……?
だとしたら変な所で図太いというか何と言うか。
……まあ良いや。
俺も忘れる事とした。
「でも、ロフター……
アイツは多分、まだ諦めてないと思う。
もしかしたらまた近いうち……いや、今日にでも家を抜け出して姉を探しに行くんじゃないかな?
……大丈夫かな?
一応、トーバスさんにもその事を伝えておいた方が良い気がするんだよね……ジェリアちゃんはどう思う?」
「う〜ん……大丈夫じゃないかしら?
多分、ロフター家の方でもお姉さんがいなくなった事には気が付いているはずよ。私も軽く話しておいたし。
それに、あそこはウチと違ってお抱えの魔物使いが沢山いるから、あの子がもし家を抜け出してもすぐに見つけてくれるはずよ。
……きっと、お姉さんの方もすぐにね。
だから今後は私もそれを待つ事にするわ。」
ふむ……そう言う事なら心配要らないか。
俺は話を続ける。
「そう言えばなんだけどさ。
ジェリアちゃんもロフターに協力していたのって、やっぱりあの人がアイツのお姉さんだから?」
「ええ、そうよ。
あの人は私の師匠である前に、私の本当の姉みたいな存在だったから……
クボタさんは驚くかもしれないけれど、あの人も昔は厳しい中にも優しさがあるような人だったのよ?
……今は、ちょっと変わってしまったみたいだけれどね」
ジェリアは遠い目をして言った。
ニブリックは慢心が無ければ、『ジェリアの優しいお姉さん』のままでいられたのだろうか……今となっては考えても仕方が無いのだが。
「……でも、どうしてあの人はいなくなったんだろう?
まあ、俺達と色々あったのが原因かもしれないけど、それは一旦置いておくとして……
もしその理由が『生活に困っていた』とかならさ、親御さんやロフターのいる実家に戻れば良かったんじゃないかと思うんだよね」
「どうしていなくなったのか……
それはやっぱり〝アレ〟が関係しているとは思うわ。
だってあの日私が家に戻った時にはもう、あの人は一人暮らしをしていた自宅から姿を消していたらしいから……
なかなか家に来ないのを不思議がった家の者が連絡を取ろうとして発覚したのよ」
……そうなのか。
ニブリックはあの日既に行方を眩ませていたのか。
だとしたら俺のせい……
やはり、あれは流石にやり過ぎだったのかもしれないな。
いや。そんな事は無い。思ってはダメだ。
アイツだけは未だに許せないのだから、そんな事思う必要など無いのだ。
考える必要もな……俺は頭を振った。
「それともう一つの方だけど……
例え本当にあの人が生活に困っていたのだとしても、生家を頼る事はしなかったと思うわ。
あの人、自尊心が強いから……
そんな事をしたら街で噂になりかねないでしょう?
だから、そういう選択肢は最初からあの人には無かったのよ」
ふむ……まあそれは何となく分かるな。
いやすぐに分かるか、あの女がプライドの高いタイプの人間であるという事は。
そしてそのプライドが邪魔し、彼女は自分自身を苦しめる事となった……姿を消したのは俺が原因のようだが、生活に困窮していたのは恐らくそれも原因の一つだと見て間違いは無いだろう。
「……」
そこで俺達は話すのを一旦止め、三叉路の中央で立ち止まった。
ここが丁度俺とジェリア、互いの家の文字通り別れ道となるからだ。
だが……最後に聞いておきたい事がまだ一つ残っている。
別れの挨拶をする前に、俺はこう切り出した。
「ジェリアちゃん、最後に一つ聞いても良いかな?」
「ええ、何かしら?」
「ジェリアちゃんはニブリックが行方不明だって言う話を俺にする前にさ、『クボタさんにはどの道、私から話すつもりだった』みたいな事を言ってたよね?
……それは、なんでだろうなと思って。
探すのを手伝ってもらいたいとかそう言うのなら分かるけど、そうじゃなかったら正直な所、あんまり俺に関係無い話ではあるじゃん?
だからちょっと、気になってたんだ」
俺がそう言うと、ジェリアは溜め息を吐いた後にこう話し始めた。
「ハァ……クボタさん貴方、ちょっとは危機感持った方が良いわよ。
良い?よく聞いて?
あの人はどちらが悪いとかはともかくとして、十中八九貴方が原因で姿を消したのよ?
だとしたら……復讐しに来るかもしれないでしょ?
だから私は話すつもりだったのよ。
気を付けた方が良いって事を貴方に教えるためにね。
分かった?」
彼女は言いながら俺の顔に右手の人差し指を何度も押し当てるようにして迫り、まるで子供に言い聞かせるかのような態度、行動をもってそれを俺に伝えたのであった。
「ちょ!分かった!分かったよ!
……君が心配してくれてたって事もね。
ありがとうジェリアちゃん」
「……まあ貴方に何かあったら、色々と困るからね。
仕方なくよ……じゃあクボタさん、また会いましょ」
「ああ、またね、ジェリアちゃん」
そうして挨拶を済ませた俺達は今度こそ別れた。
ジェリアは俺に手を振った後、背を向けて歩き出す……だが俺の方はまだその場で立ち止まり、思案していた。
復讐……か。
確かにその可能性は充分にあると思う。
何せ俺自身も、同じ事をしたのだから……復讐は復讐を呼ぶものだと考えた時もあるしな。
しかもニブリックが行方不明となった今、それはいつ行われるかも分からない……
……それまでに俺達も成長しておかないとな。
またアイツがやって来たとしてもそれを打ち払い、今度こそ仲間達を守れるだけの力をつけておくのだ。
どの道、そうする事しか出来ないのだから。
じゃあ、力試しにそろそろ大会や依頼を……あ。
…………依頼!!
「ジェリアちゃんちょっと待って!!」
「え……何?」
「依頼!受けるの忘れてたんだよ!!
戻って一緒に探そう!
抜け駆けはダメなんでしょ?
あ、でもザキ地方のやつにしないとダメだよ?
サチエにもアライアンスの件、話しておきたいからさ!
さあ戻ろう!」
「えぇ!?嫌よせっかくここまで来たのに!
せめて明日に……ちょっと!!引っ張らないで!!」
こうして依頼を受けていない事を思い出した俺は、ジェリアの手を無理矢理引いて元来た道を戻るのだった……
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