百二十三話 Eランク昇格試合!

簡単なあらすじ『昇格試合の相手も魔物も分からないクボタさん……ですがとりあえず、今までどおりの練習を続けておく事にしました。クボタさんらしいね!』




それから昇格試合が行われるまでの日々を俺達は普段通りに、だがしかし全力で駆け抜けた。


またその間、サチエとナブスターさんが偶然出会って思いの外仲良くなったとか、久しぶりにミドルスライム、チビちゃん達と会って練習したとか、エリマの動きも悪くないので俺はとりあえずこのままの教育方針でいく事にしたとか……


あとルーは本当にいつも通りだったり、練習を少しキツめにしたにも関わらずプチ男と、あと勝手にソレと同じ練習をしていたケロ太は案外普通にそれをこなしたりしていて、他には……いやもう良いか。


とまあ、色々あったのだが。

俺達は誰一人として欠ける事もなく、全員が無事に昇格試合当日を迎える事が出来ているぞ。


『無事にも何も普段通り過ごしているんだから有事が起こるはずもないだろう』と言われればそうなのだが……


まあ良いじゃないか。言葉の綾ってヤツだ。


さて、じゃあもうそんな話は置いておくとして、そろそろ会場に向けて出発するとしよう。


……別にバツが悪いからさっさと行こうとしているワケではないぞ?




そうして俺達は今回行われる昇格試合の会場となる場所、Fランク闘技場へとやって来た。


そう、伝え忘れていたが会場はここであったのだ……まあ、魔物同士を戦わせるなんて事は闘技場でしか出来ないのだから言わずとも分かるかもしれないが。


それにしても……今日の闘技場はいつもよりも何だかうらぶれているというか、燻んでいるというか、とにかくそんな風に見える。


観客がいないというだけでこの場所がこんなにももの寂しくこの目に映るとは思わなかった。


いや、もしかしたら俺がそのようなフィルター越しに見ているからこそ、闘技場がそんな風に映し出されている……というだけなのかもしれないな。


まあ良い。この場所が心ぶれていようが何だろうが、ここで今日俺達が大事な試合をするというのは変わりない事実であるのだから……


そう自身に言い聞かせた後、俺達は手続きを済ませるべく闘技場の内部へと進んだ。


すると、そこには思っていたよりも沢山の人々がいた。それは大体にして三十、四十人くらいであろうか。


そこから察するに、『本来の昇格試合』とはある程度秘密裏(?)にでこそあるが、その開催日一日で複数の者達が試合を行う、というようなスタイルであったようだ……確かに、ただ一人のために会場を貸切にするというのは贅沢が過ぎる。


ちなみに……

『彼等はもしや観客なのでは?』という可能性も考えはしたのだが、そんなはずはないので疑うのはすぐにやめた。


何故ならばそこにいる全員が口数も少なく、しかもそれでいて少し苛立っているような、不安を抱えているような、そんな落ち着きのない様子でいたからだ。


それは後に大切な試合が控えているからであろう……そう、表情からして既に彼等が観客でない事は明白だったのだ。


それに、観客は本来いないはずだし。


しかし、それにしても……何だかそんな人々の様子を見ていると俺まで緊張してきてしまいそうだ。


せっかくここまでの道中ずっと、プチ男をぷにぷにとつついて平常心を保ってきたのに……


そこで俺は再び手元のぷるぷるだけに視線、そして感覚を集中させてどうにかその場をやり過ごす事とした。


ちゃんとそう出来るか心配ではあったが……




結構沢山の人々がいたせいで手続きするだけでもなかなかの時間が掛かってしまったが、漸くそれも終わった。


というワケで控え室の用意が終わるまでは外に出ているとしようか、ここにいると周囲の緊張が伝染してしまいそうだし……


と、思ってはいたが人が大分減ってきた。

やっぱりこのままここで待っている事にしよう。


「あの、クボタさん。

結局、魔物の選出とかは聞かれませんでしたけど……大丈夫なんでしょうか?」


隣に立っていたコルリスが控えめな声でそう言う。


そう、彼女の言うとおり、今回どの魔物で試合に挑むかと言う事を手続きの際何一つ聞かれなかったのだ。


だから俺もすっかり忘れてい……何も言わずにいたのだが、確かにそう言われると、それで良いのかと思う所ではある。


では聞いてみるとしようか。

うん、それが良い。俺は昇格試合は初めてみたいなものなんだからな。


それに、ここで覚えておかなければいつか何処かで恥をかいてしまうかもしれないし……


そう、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥なのだ。


俺はコルリスに一言告げて立ち上がり、暇そうな……声を掛けても問題なさそうな会場のスタッフ的な人を探し始めた。


「あの、すみません……」


そうして見つけたスタッフ的な人に、俺は質問する。


すると、その人は「少々お待ち下さい」と言って会場の奥の方へと入っていった……


のだが、何とそこから俺達は、周囲にいる人々が全ていなくなるまで。


つまり、最後の最後まで放置されてしまうのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る