百二十二話 茶番(?)を終え その2

簡単なあらすじ『茶番(?)終わりました……台所の片付けをしましょう』




まあ、どんなに先が見えなくとも、やり続ければいつかはゴールが見えてくるワケで。


俺達は協力して片付け、そして食事の支度を完了させて漸く朝食に有り付く事が出来たのだった。


(ちなみにここで言う『俺達』とは俺+コルリス+ジェリアの事だ。あとエリマも自分に出来そうな事はちょこっと手伝っていたな)


ただそれはもう、『酷く遅めな朝食』であったのだが……


そしてこれは余談だが。

最も大変だったのは『食い意地の張った奴らをどうにかする事』だったと俺は思う。


あの時だけは俺が何度制止しようが、誰一匹として食べるのを止めようとはしてくれなかったからな。


エリマがいてくれて本当に助かった。

プチ男なんか数回ど突いてきたし……アイツの練習は今日から少しキツくしてみるとしようか。




「あら?この手紙ってクボタさん宛てですか?」


時間としてはもう昼食な朝食が終わり、一息入れているとコルリスがとある手紙を持ってこちらに歩いて来た。


それは例の案内状だった。勿論原形は留めている。

色々あったのですっかり存在を忘れていたが、どうやら無事だったようだ。


「ああそれはね、うわ……」


俺は彼女から手紙を受け取り、その内容を軽く説明する。


(ちなみに『うわ……』と最後に言ったのは案内状がほんの少しベタつき、そしてザラついていたからだ。


恐らく、今ジェリアから貰ったお菓子をコルリスが食べているのでその粉が付着したのだろう。まあちょっとくらい汚れても読めれば良いけど……)


「えっ!?じゃあクボタさんはもう……Eランクなんですね!!スゴい……スゴいですよクボタさん!」


それを聞いたコルリスは大興奮のご様子だ。

もう俺が昇格したとかどうとか言ってその場でぴょこぴょこと跳ねている。


そうやってテーブルを揺らすと、スライム二匹の体表に波紋が広がってちょっと可哀想だからやめてあげてほしいのだが……ああでも、コイツらは好きでプルプルしている時もあるから別に良いのか。


「コルリス、落ち着いて。

まだよ。まだ昇格はしてないわ。それはそのための案内状よ」


「え!?あ……ち、違うのジェリアちゃん!

それは分かってるの!


これはその、ただの言い損じというか……

とにかく違うの!」


そこにジェリアの訂正、もといツッコミが入りコルリスはたじろぐ。


まあ、言い間違いとかそう言うのだろうとは思ってたけどね。でも、ジェリアのようにツッコミたくなる気持ちは分かる……


俺は何度も頷きながら、プチスライム二匹がぷるぷるしているのを手で無理矢理止めた。特に意味も無く。


「……まあいいわ。

それで、どうするのクボタさん?


対戦相手も、その魔物すらも分からない。

そんな状況で貴方はどう、試合の日までに自分の魔物達を〝仕上げて〟おくのかしら?」


何だかオドオドしているコルリスをよそに、ジェリアは俺にそう問いかけてきた。


先程までは投げやりな態度をしていた彼女だがその発言から察するに、やっぱりちょっとくらいは、その辺りの事が気になっていたようだ……多分。


だが、俺は……

なかなかそれに答える事が出来なかった。


〝どうするのか?いや、どうしたらいいのか?〟

そんな事は俺が一番聞きたいからだ。


前の時は相手が先遣隊ゴブリンだったと分かっていたから出来た事も確かにあった。


やはりジェリアの言うとおり、最低でも相手の魔物くらいは分からなければダメだな……何を、どう対策すれば良いのか、それすらも分からないのは不安でしかない。


しかも、しかもだ。それでいて相手の方が格上というのだから、もうこれは勝つ方が難しいのでは……うーん。ネガティブな事しか頭に浮かばない。


まあでも逆に言えばそれは、『期限までにやれる事は一つだけ』と言う事でもあるか。


「うーん…………そうだね。


ルー、プチ男、ケロ太、エリマ……

ひとまずは皆の事を信じて、今まで通りの練習を続けておくよ」


というかむしろ、それくらいしか出来ないのだがな……とにかく、俺はそのように言ってみせたのだった。


「まあ答えは分かっていたわ。そりゃあそうなるわよね……でも、貴方らしくて良いと思うわ。


もし助けが必要なら言ってね。ウチのスライム達も協力するわよ……それに、私も。


ええ、そうよ!

こうなったらむしろ徹底的に鍛え上げて、こんなふざけた案内状を送ってきた奴らを打ち倒してやりましょう!


……フフ」


ジェリアは最初に少し、先程の予想通りだと言う俺の発言をイジった後で彼女としてはこれまた珍しい物言いをした。


まさかこんなにも彼女が協力的な姿勢を見せるとは……しかも何だか、俺よりやる気になっているみたいだし。


「……?


何だかよく分かりませんが、頑張りましょうクボタさん!ジェリアちゃんも協力してくれるみたいですし!」


コルリスもそれに感化されたのか、元気にそう言う。

復活してくれて良かった。やはり彼女は『元気いっぱい』が良く似合う。


そして、そんな二人に俺もまた感化され……


「……そうだね!二人ともありがとう!

よし!そうとなれば俺も最後まで頑張ってみるよ!」


自身を鼓舞する事で、不安など消し飛ばす事が出来た。




「じゃあ早速、今から練習を始めようか!」


二人のお陰でやる気の出てきた俺は、早速練習を開始しようとそう言う。


「よし皆!外に……あれ?」


しかし続けてそうも言うが、それを聞いて動こうとする者は誰一人としていなかった。


「み、皆?どうしたの?」


それを不思議に思った俺が皆に問いかけると……


「あ……いや、クボタさん?

それはまた後にしましょう?私まだ動きたくないわ」


ジェリアはそのように。


「私もジェリアちゃんに賛成です……


クボタさん、やる気があるのは良い事ですけど、何も今すぐやらなくても……」


コルリスからはそのように。


「むぅ……」


ルーはそのように……


〝僕お腹いっぱいで動けないよ。

クボタ、そんなにやりたいなら一人でやってれば良いんじゃない?〟


エリマからはそのように言われた。


何だコイツら、俺をやる気にさせといて。

でも、まあどちらかと言えば俺もまだ動きたくないし、練習はもう少し後で良いか。


そうして俺達は、試合までの日々をいつも通り(?)に続けてゆくのであった……


……こんなんで本当に大丈夫だろうか!?

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