九十一話 お客様の来訪(いつもの人)

簡単なあらすじ『チームクボタ特訓中!(怪我人一名)』




内臓が飛び出るかと思った。


〝思った〟だから本当に飛び出たワケではないが、それでも物凄く痛かったのは確かだ。エリマのボディプレス(故意ではない)は。


「うっ……イタタ」


その時の事を考えていたせいか、全身がまた痛くなって来た。いや、別に考えなくても痛かったわ。


「クボタさん!」

「む〜!」


コルリスと、ルーの声が聞こえてくる。

寝床で唸っている俺を心配してくれているのだろう。


だが俺はもう、ダメかもしれない…………




と、思っていたが翌日には普通に動けるようになったので今日の練習には俺も参加する事にした。ちなみに本日は『大会出場選手』達の教官としてだ。


この身体で助かった……

多分、あんなものを一般人が喰らっていたら最悪死んでいただろう。


それにしても、アルワヒネにはもう少し周りに注意して戦って欲しいものだ……まあ良い。雑念は頭から振り払い、レッスンに集中しようではないか。


俺は魔物達に視線を移す。

今は三匹全員にシャドーボクシングの指示を出しているのだが、皆サボらず真面目にやってくれているようだ。


ここからは個別にその様子を見ていくとする。

まずはルーだ。


ルーは……

正直、上手過ぎて何も言えない。


ならばもう免許皆伝を与え、練習は実戦メインにした方が良いのだろうか……最近、俺はその事で少し悩んでいるのである。


まあ、それはまた後で考えるとして……

次はケロ太だ。


彼はスライム最大の強みである、次の行動を全く相手に予想させないような動きで跳ね回っている。


プチ男と違ってすぐサボろうとしないのがこの子の良い所だ……実はここだけの話、ケロ太をもっと強くすればプチ男が対抗心を燃やし、アイツも真面目に練習してくれるようになって良いのでは……とかそんな事を俺は考えていたりもする。


最後はエリマ……

彼は俺の教えた技の中に、自身の尾、片翼を使った攻撃を加えた非常に応用的な練習をしていた。


ただ、そのような練習をするのはまだ少し早いような気もするが……まあ確かに、彼の持つそれらの武器を使わない手はないと思ったのでとりあえずそのままにしている。


「うん……良い感じだな」


俺は呟く。

ルーはほぼ完璧と言ってもいいくらいで、ケロ太もかなり上達してきた。そして、エリマも最近始めたワリにはかなり上手くなっている……これならば、来る日の大会でも必ず良い結果を残してくれるだろう。


「クボタさ〜ん!」


そう考えていた時、コルリスの声が聞こえた。

「お昼ですよ〜」とかではなく名を呼んでいる事から察するに、俺に何か用があるのだろう。


ただ、魔物達の練習が……とは思ったが、何だかんだもう昼時である事に気が付いた俺は魔物達に休憩の指示を出し、家から少し離れた場所にいる彼女の元へと向かった。




「コルリスちゃんどうかしたの?」


俺がそう……言うが早いか、今まさに声を掛けた少女の背後からジェリアが顔を出した。


「どうしたも何もほら、こうしてお客様がいらっしゃってるじゃないの。こういう時はしっかりと持て成さないといけないわ」


「ア、アハハ……まあそういうワケでお呼びしました」


ジェリアはさも当たり前のようにそう言い、次いでコルリスが苦笑しながら答えた。


そうか、客人か。でもこの客人はだいぶ前から既に充分なおもてなしを受けていると思うんだがな。そろそろその礼の一つでもしてくれて良い気がするが。


まあそんな事を考えても仕方ないワケで、とりあえず俺はジェリアに「じゃあ……もうすぐお昼だけど一緒に食べようか」と言い、その後で勝手に増やした一食分の負担を自らで背負うためコルリスと共に厨房へと向けて歩き出した……


が、ジェリアに引き止められた。


「流石クボタさん、話が早いわね。

でも、その前に……はいこれ」


そう言ってジェリアは一通の手紙を俺に手渡す。

彼女はサンディさんの元で郵便配達のバイトでも始めたのだろうか?


「それが何だか分かってないみたいね……それはね。ほらあれよ、ロフターの。


あの子大会が近いから最近は鍛錬に忙しいみたいで、私にそれを貴方の所に届けて欲しいって頼み込んできたのよ」


なるほど、要約するに……


・ロフターがジェリアから『例の件』についての話を聞かされる

・連絡しなければ……でも自分はいけない……

・なら伝えたい事を手紙に書いてジェリアに渡して来てもらおう!


というワケでこうなったのだろうな。多分。


「ああ、じゃあこの手紙には大会の日程とか、ゴニョゴニョ(ロフターがルーの事を思って綴った文章)……とかが書いてあるのかな?とにかく、届けてくれてありがとうジェリアちゃん」


「どういたしまして。

それにしても……私の知り合いは皆人使いが荒くて嫌になっちゃうわ」


彼女はそのような事を口にする割には満更でもなさそうな様子であった。


が、元々は俺達がジェリアに例の件を頼んだ事がきっかけで彼女は今不満(そうでもないとはいえ)を漏らしているのだから……


『礼の一つでも寄越せ』とは口が裂けても言えなくなってしまったな。そう思い、俺は先程の発言を撤回するのだった。


勿論、口にしてはいないのでそれは容易……どころか、撤回する必要性すらも有りはしないのだが、一応。




じゃあこれは後で読ませてもらうとして、ひとまず今は昼食の準備を……


と、思い動き出そうとした俺は再び停止させられてしまうのだった。


手紙の封が切られている事に気が付いた……


いや、正確に言えば『切られたそれが再び何者かによって閉じられた形跡』がある事に気が付いたからだ。

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