七十一話 忘形見

簡単なあらすじ『なるほど、アルヴァークがいたのにはそんなワケがあったんですね』




〝……今更だが、何故君はアルヴァークの事を知っていたんだ?〟


話が一段落つき、魔物は俺へとそんな事を聞いてきた。


確かに、そっちからすると気になるだろうな。

俺は自称神様との話を盗み聞き(したくてしていたワケではないが)したり、夢で本人と話したりして知っていただけなんだから、そんな事が他人に分かるわけが無い。


そう思い、俺は答えた。

夢の事までもだ。嘘なんてついても仕方ないからな。


それに何と言うか、『彼に嘘はつきたくない』。

そんな気分になったからだ。


「ああ、それはあの時、たまたま二人の会話が聞こえたので。それに夢でも話して、彼自身がそう答えていたんですよ……まあ、これは僕が勝手に見ただけですけど。でも、不思議な夢でした」


もしかすると笑われるか、呆れられてしまうかな……?


と、思ったが魔物は俺が話すのを真剣に聞き、難しい顔をしていた。変な事を言うものだから困らせてしまっただろうか。


「あ、なんかごめんなさい。夢の事は忘れてください」


〝それは、どんな夢だったんだ?詳しく教えてくれ〟


しかし、彼から寄越されたのは意外な返答だった。




俺は夢で見た事を全て魔物に話した。


すると、魔物は酷く驚いた様子でこう言った。


〝目の色や口調でもほぼ確定だが、息子がいると言う『その時の君では知るはずもない話』をしていたのだ。間違いはないな。


どうやったのかは知らんが……それはアルヴァーク本人だ。私が保証する〟


やけにリアルな夢だったのでもしやとは思っていたが、やはりあれはただの幻ではなかったようだ。


……まあ、それを知った所で「じゃああれは一体何だったんだ?」としか言えないのだが。


「やっぱり、そうでしたか……でも、そうだとしたらあれは一体何だったんでしょうね?」


俺は上記したような事を話した。

先程も言ったが、知った所でそんな事くらいしか言えないのだからな。


〝うーん。君は身体の無い状態で気を失った……つまり『死んだような状態』となっていた訳だろう?そして、アイツもそうだったのだから……そこはもしかすると三途の川、のような場所だったのかもしれないな〟


「なるほど……納得出来る考えですね」


そのような仮説が彼の口から飛び出してすぐ、俺達はどちらがという事もなくその話を自然とやめていた。


推測の域を出ないとはいえ、その意見がなかなかまともなものであったからだろう。それに、どれほど話そうとこれには絶対に、答えが出ないのだからな……


〝さて……君、傷の具合はどうだ?〟


それから少しして、魔物は俺にそう言った。


彼とは沢山話したのであれから結構な時間が経っているだろうが、流石にまだ何ともなっていないのでは……?


とは思いつつも、俺は自分の腕に視線を移した。


すると。


「え!?」


もう殆ど治っていたのだ。


そういえば、この身体になってからというもの……

軽い怪我程度なら、大体寝ればすぐに治っていたのは覚えているが、まさかここまで再生能力が高かったとは……自称神様、恐れ入ったぞ。


〝大丈夫そうだな。では行こうか〟


驚く俺を見た魔物はそう言うと、すぐさま踵を返して扉の前まで進み、こちらを振り返って視線をくれる。


付いて来い、と言いたいのだろうか。

しかし、何処に?


「あ、あの。一体何処に……?」


〝決まっているだろう?今度は君が約束を果たす番なのだからな。


さあ行こう。『アルヴァークの忘形見』の所へ〟




……これは。


『さあ行こう。アルヴァークの忘形見の所へ』

と言われてからほんの数分後の、それも移動している最中の話だ。


彼、そして俺はそこで漸く自分達が自己紹介をしていないのに気が付き、それについて会話した。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね……僕はクボタトシオって言います」


〝確かに、そうだったな。

そうか、クボタか…………何だか懐かしい響きの名前だ。


ボソリ……(同郷の、それも奴が連れて来た者になら、話しても良いだろう)


ではクボタよ、覚えておいてくれ。

私は『ザキ地方の守り神』だの、『魔王城の主』だのと呼ばれているようだが、本当の、人間だった頃の名前は…………


尾崎。

尾崎剛尊おざきごうそんだ。よろしく頼む〟


「……え!?貴方も人間だったんですか!?」




そうしてとんでもない事実を聞かされ、とんでもなく驚いた俺ではあったが、今思えばそれはただの序章でしかなかったのだ。


この後に俺自身が調べ上げた『彼という魔物』について書き記されていた事全てが、驚きの連続だったのだから…………

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