第三章:カミナリノモン国(前編)

第49話『運命』


 またしても複数人の衛兵たちは、人の首だけ出したまま土に埋めていた。

 もう何人目なのか、ずいぶんと変わったことをしている。


 このまま続くかと思いきや、衛兵たちはあっけにとられる行動にでた。

 近場に海や湖や川がないこの場所で、頭上から雨以外の物が降り注ぐと誰が予想できただろうか。

 

 どう考えても爽快にはなれない物が頭の上から浴びせられるのを皆で目撃した。

 それは城門をくぐる、ほんの数分前のことだった。



 ――和の国。

 

 いよいよカミナリノモン国に到着だ。


 目の前に広がる王国を囲う白い石垣たちは、視界に広がるコバルトブルーの空とコントラストが映える。

 空は、雲ひとつない快晴で、湿り気の無い弱めの微風が心地いい。


 今やもう目と鼻の先なのでゆっくり歩いていると、石垣の手前で奇妙な何かが行われている光景にでくわした。


 爽やかな気分を突然スコールに襲われてひっくり返すかのようだ。

 

 どういうわけか、次々と首から下をすべて地面に埋められている人らがいる。

 よく見ると、どこかでみたことのある姿格好をしている。


 たしか覚えのある姿は……。紛れもない、桃太郎だ。


 黒に近い袴姿で京紫色の陣羽織を羽織るチョンマゲ姿の男は、どうみても良く知られている桃太郎の姿だ。


 俺たちが訪れた国は、日本を祖国にもつ勇者により、遠い昔の神話の時代に立ち上げられた国だと聞く。

 

 そのためなのか、おとぎ話にでてくる桃太郎はなんらかの理由でいるのかもしれない。


 物語で語られるような者が何をしでかしたのか、生きたまま地面に埋めらていることに、理解がまるで追いつかない。

 ただし物語は、あくまでも俺がいた世界での話でここでは事情が違うのかも知れない。

 

 一部始終を見ていると、新たに連れてこられたもう一人の同じ姿格好をした者が現れて、また首から下を地面に埋められていく。

 

 なぜか代わる代わる何度も連れてこられ、総勢10人近くになった時、一連の動きが止まった。

 

 まったくもって、わけがわからない。


 衛兵たちがある行動にでたタイミングでリムルは目ざとく見つけて、棒立ちのまま不思議そうにしている。


「キョウ、あの人たち、何しているんだろうね……」

 

 ルゥナは、空に浮きうつ伏せで寝そべりながら、何かを見たのか笑う。


「うわっ、アイツらヤッベーぞ。黄金水を頭からかけているっ! 埋められたやつの頭にかけるって、男どもはどういう心境なんだ?」


 なんだ? ルゥナがいうとどこかサド的な卑猥さがあるな……。


 腕を組んで足を止めているアリッサもまた、思わず見てはいけない物を見てしまったと言わんばかりの表情を浮かべていう。

 

「なかなか原始的な国だな……」


 リムルとアリッサは普通の反応をしていて、ルゥナはまた別のところに反応している。


 反応はともかくとして、頭からかけられるのは厳しい……。

 しかも衛兵らしき者たちが寄ってたかって、上から注ぐ行為を繰り返している。


 俺たちは可能な限り目を合わせないようにして、石垣で囲まれる町の中に入っていく。

 町をぐるりと囲む石垣は、人の背丈の五倍はありそうで非常に強固な作りに見える。魔獣対策にも良さそうだ。


 門を通過する際、とくに衛兵から呼び止められることもなく町に入ると、視界に広がる世界はまさに江戸の町と言った風情だ。

 道は砂利が敷かれており、土の道だった江戸とは違い少しばかりは発展しているかのように見える。

 長屋がつながる街並みは、どこかタイムスリップしたかと思わせた。


 ところが大きく違うところがふたつある、魔法と髪型だ。


 マゲをしている者は先の桃太郎以外にはおらず、普通に伸ばしている。きている衣類は和装ではあるものの、適度に皆着崩している感じだ。

 人の往来も多く、獣人族や他にはダークエルフ族もおり、多種多様な様子が窺える。


 まずはギルドを探すべく、出入り口近くの大通りに向かう。

 大抵どの町も出入り口付近にある物だ。


 見渡す限り建物は大体3階建てで、町人地では江戸とは違うのだろう。


 赤い瓦がおそらくはギルドの目印。

 俺たちはさっそく、屋根の色を目印にして歩いていく。

 今回は紹介状などもないので、普通に窓口で確認するつもりだ。


 大通りに入ってすぐの場所のため、数分で着けるのは探し回ることもなく助かる。


 京也は思わず金沢の風景を思い出して、感傷めいたことを吐露する。

 

「茶屋街か……。本当に違う国に来たんだな」


 まるで金沢のひがし茶屋街で、道幅は比較すると2倍ほどの幅広い場所を散策しているような気分になる。

 

 リムルもめずらしそうに辺りを忙しなく見渡しいう。

 

「屋根がしっかりした作りの家が多いね」


 瓦は見慣れないとたしかに頑丈そうな物に見えるのだろう。


 やはり目につくギルドの出入り口は、スイングドアなのは変わりない。

 暖簾だと武器などを背負う人らが引っかけるんだろう。


 中に入るとギルドはどこも作りは似たり寄ったりなのか、受付は3人で捌くぐらいのカウンターがあり、買取窓口が別途ひとつある。

 どうやら酒場はないギルドのようだ。


 賑やかなギルドの中で目を見張る者がいた。姿格好がどうみてもかぐや姫だ。

 ただしいくつかおとぎ話と異なり女性の髪型は、ふんわりひし形の輪郭を見せる。


 長さは鎖骨丈ぐらいまであり、色は柔らかそうで上品な薄茶色で透明感があり軽やかな感じだ。

 

 魔法を中心とした世界でも髪を切る技術は高いのか、ひし形の輪郭になるように、あご下から上は短く下が長くなるように、緩やかな段差をつけて切っているようだ。


 前髪は眉下で切られ、目尻からこめかみ上に落ちあたる部位は、頬骨から口元のあたりで髪の長さを揃えている。前髪とこめかみ上に落ちあたる部位を自然に繋げている。

 

 こぼれ落ちそうなほどの大きな目に、丸い顔の輪郭。 黒目がちな大きな瞳は潤い、どこか妖艶ささえあるようにも見える。

 

 遠目からみても、はっきりとわかるほどのたぬき顔の美少女だ。


 あまりにも美少女なため目の前にいるのに、京也は突っ立ったまま、思わず口をついて出た。

 

「なんでかぐや姫がギルドにいるんだ?」


 京也の声は相手に届き、普段から警戒しているのか俺の声に反応し、当人と取り巻きが瞳を限りなく絞り、俺の全身をくまなくみる。


 なんだ? 何かしたっけ?


 ぼんやりと思っていると、男が一切視線を俺から離さず、脇目も振らず一歩ずつ床を踏み締めるようにして、力強く歩み寄る。

 まるで満月の色の律装束を纏う姿は、どこか異質な坊さんにあったような感じがした。


 背丈二メートルほどの筋骨隆々にみえ、頭は禿頭で油を塗ったように輝き、顔つきは二十代後半を思わせる。

鋭い眼光は、獲物を狙う狼のようだ。

 

 風貌や雰囲気から察するに意外にも向こう側から会釈をし、見かけによらず低姿勢で尋ねて来た。

 開いた口から発する声は、低く響き渡る低音だ。

 

「突然なことですまない。気になる言葉を耳にしたので尋ねたい」


 京也はとりあえず、相手の態度を見てから答える範囲を考えようと思い言葉を返す。

 

「ああ。内容によってな」


 禿頭の男は、幾分緊張した顔つきで質問をしてきたせいなのか、口調がやや早くなる。

 

「先ほどかぐや姫との発言、相違ないか?」


 京也はまさか発言した名前その物を聞かれるとは思わず、質問を質問で返してしまう。


「ん? かぐや姫とは言ったけど、違うのか?」


 禿頭の男は、どこか恐る恐るといった感じで、聞いてくる。

 一体どうしたんだか……。


「名を……。どこで知った?」


 とくに何も問題のない内容なので京也は、素直に答えた。


「俺のいた国では、おとぎ話として伝わっている古い話さ。出てくる人物に酷似していたから思わずな」


 邪気もない素直な気持ちで答えたことに虚を衝かれたのか、禿頭の男は目を見開き、口を半開きにするという。


「なんと、誠であるか?」


 京也は、肩をすくませる。本当に大した内容ではないので嘘をつく必要がない。


「ああ。嘘ついてもしょうがないだろ?」


 どこかこわばった顔つきは、幾分安堵しているのが伺える。

 禿頭ゆえか、先の顔つきと今では変化が激しい。


「なるほど、それであればたしかに驚くな。急なことなのにかたじけない」


 一体何を心配していたのか、聞きたい気持ちを抑えた。

 今、納得した相手に対して変に首を突っ込んだら、得体の知れない何かに巻き込まれると思うからだ。


「いや、そんぐらいなら問題ないさ」


 気軽に答えたつもりとの意味で話を京也は終えた。


「では」


「じゃ」


 気軽に手をやり、京也は別れた。


 禿頭の男は、再びかぐや姫に向かって踏みしめるかのように、歩いていく。

 あの歩き方は、クセなんだろうとぼんやり眺めていた。

 一体何を確認したいのやら、わからずじまいだ。


 ただ案外紳士的な振る舞いにも思え、ひとまずの危険はないかもしれない。


 男とかぐや姫は、何度か俺を見ながら話をしている。

 どこか噂されているような感じはするも、もう用はないかと考えギルドの受付に顔を出す。


 それにしてもこのギルドにいる連中は、まるで『おとぎばなし』から飛び出してきたような人らで溢れている。

 周りと比較すると反対に俺たちの方が浮いた感じがして、どこかまったく違う世界に来たのかと勘違いしそうになるほどだ。


 桃太郎を中心に、猿・犬・キジがいる。いずれも獣人の姿でいる。

 桃太郎は複数いるのを見ると、単なる衣装なのかとも思ってしまう。


 その他にも一目でわかる姿として、亀に乗る浦島太郎がいたり、牛若丸と弁慶もいたりと童話世界から飛び出してきたようだ。


 京也は、今度は声をかなり小さく意識したつもりだ。どう見ても姿格好からして……。

 

「うわっ、マジか……」


 思わず一歩ひいてしまうような姿を見た。

 腹掛けをした金太郎だ。しかも女性だ。露出狂じゃないよな?


 背は小柄な方だろう、腹掛けは背中もしっかりガードしているものの横乳は豪快にはみ出しており、なんとも言えない。


 ギルドのような場所なのに、過激な格好は他の荒れくれもの相手に大変そうではある。


 格好からは打って変わって髪型は、軽やかで段差をつけて切られたショートボブだ。

 

 ひし形のきれいな骨格に見えるので、髪を7対3くらいに分けて頬に顔周りがかかるせいか顔が小さく見える。

 大きめの金色のピアスをつけており、非常によく似合っていた。

 前髪は全体的に髪の下のほうが長く、上の方になるほど短くなっており軽く見える爽やかさがある。

 

 童話だと男なんだけど、魔法の世界では女なのだろうか。

 変だと思いつつ目を泳がせると、先ほどのかぐや姫が十二単の上に天の羽衣をまとい、地面から数十センチ浮いた状態で出口に移動していった。


 帰り際、俺を見て微笑むのは何やら今後があるのだろうか。

 律装束の奴が律儀にも遠くから軽く会釈して去っていくのは、なかなか紳士的だ。


 見渡す限り、まるで人種のるつぼと言わんばかりの状態で、なんだか本当にいろいろな人らがいて飽きない。


 いつまでも見学だけしているわけにもいかないのでギルドのカウンターへ向かう。

 ギルドには、挨拶だけでもするためカウンターについた。

 探索カードを手渡しながら伝える。


「アルベベ王国からきた。京也だ。しばらく世話になるかもしれない」


 京也はひとまず、きたぞと宣言したにすぎなかった。

 受付の女性は何やら思い当たるのか、最初の町の名前を出してきた。


「アルベベ王国? ゴウリ王都の京也様ですか?」


 俺は同意して答える。


「ああ。そうだ」


 すると、受付嬢は何か思い出したようだ。

 探索カードを何度か確認をしてようやく分かったのか、態度が変わる。

 妙に丁寧な態度になり、軽く会釈までされてしまい京也は少し面食らった。

 

「京也様の件につきましては、全ギルドが支援するよう仰せつかっております。何なりとお申し付けください」


 あまりの展開に、京也は思わず声が出た。


「あれ?」


 アリッサは何かツボに入ったのか興奮気味に、両腕をくの字に曲げて拳を握りめながらいう。


「京也すごいな! 長年探索者をしているけど、全ギルドの支援なんて聞いたのは初めてだぞ?」


 リムルは小動物のように小さくなって、ガッツポーズをとる姿が微笑ましい。


「キョウ、有名になったね!」


 ルゥナは何か思い当たるようで、考えごとをしながら尋ねてきた。


「京也、今回ここに長居する?」


 ルゥナの長居するかへの答えは即答だ。食もとても気になる。


「ああ。もちろんな」


 ルゥナはいつになく安堵していることに、京也は少しばかり気にしていた。

 

「なら、よかった……。なんか特殊なダンジョンがありそうなんだよね」


 特殊なダンジョンの発言で、些細な疑問は消えたのか、京也は思わず反応してしまった。


「おお。マジか! いいね」


 ルゥナはいつになく慎重な様子を見せている。

 いつもの自信満々な態度とは少し違い、どこか何かを非常に気にしている感じがする。

 訳についてルゥナは続けて語りだす。

 

「なんかさ、どうもいつもと反応がまるで違うんだよね」


 京也は今ままで反応なんて気にしたこともなかったので、疑問が沸き起こり聞いてみる。


「反応? いつもとどう違うんだ?」


 ――京也たちが会話をしていると、受付嬢が申し訳なさそうに声をかけてきた。


「あのぅ……。何かお困りのことがありましたら何なりと……」


 涙目の上目使いで視線を送る受付嬢は、俺たちが完全に無視した状態で話を始めたものだから、何も進まず困っていた。


 そりゃそうだろう。「仰せつかって」という以上、俺らが何も言ってこないと、受付の女性は何をしていたんだと大目玉を食うに違いない。


 なんだかかわいそうなことをしたので、ついでに聞いてみる。

 どちらにせよ、宿も取らないとならないし、ちょうどいい。


「町で最も安全性の高い宿があれば、紹介して欲しい。あと合わせてダンジョンの情報もあれば頼む」


 京也は安全性第一で依頼したのは、安全だとすべての設備と待遇がよいためだった。安全イコール豪華仕様というわけだ。

 

 どこのかの国では、水と安全はタダなんて遠い昔の記憶に感じる。

 特殊な場所以外の宿は、宿代が高ければ高いほど安全性は高い。

 ある程度の安全は金で買う世界なのだ。

 

「承知しました」

 

 妙に受付嬢の声が弾んでいるのは気のせいだろうか。

 ものの数分で確認を終えたのか戻ってくると淡々と説明をしていく。


「はじめにダンジョンは、120時間制限が二か所あります。大きいのですぐに見つかる位置で、北西と北東にそれぞれ位置しています。ただし同時なのでどちらかを選ぶ必要があります」


 京也は、同じタイプの物が二個あることに興味を惹かれた。


「なるほど、二個もあるのか。交互ならいいけど仕方ないか」


 受付嬢は、簡潔に回答をしてくれたものの、違いがないのは少し残念だと京也は感じていた。


「ダンジョンは、両者とも大きな違いはございません」


「なるほど。わかった。宿の方はありそう?」


「はい。宿はギルドのすぐ近くにありまして、白い石づくりの洋館がございます。近辺にはない作りなものですから、すぐ目につきます」


 京也は、江戸風の町に洋館があるのは、どこか場違いな感じを想像していた。ただ世界からすると無いのも変だ。

 周辺国は、まさに今示した洋館ばかりだからだ。


「なるほどな。どこへ向かえばいい?」


 さっそく向かいたく京也は尋ねると、受付嬢はカウンターの稼働する部分を持ち上げると通り抜け、京也の前に立つ。


 受付嬢はあらためて軽く会釈をすると、満面の笑みを向けてくる。


「はい、私めがご案内致したく存じます」


 突然のことで、目の前の仕事をほったらかして大丈夫なのかと、京也の方が思わず心配してしまう。


「え? 受付はいいの?」


「はい。京也様にご奉仕せよと仰せつかっておりますゆえ」


 受付嬢の言葉を聞いて、なんとも大層な指示が出ているものだと、京也は内心ため息をついてしまう。

 やってくれるのであれば素直に頼もうと考え、京也は受付嬢を労った。


「わかった。案内助かるよありがとう」


「勿体ないお言葉をいただき、ありがとうございます」

 

 なんだかよくわからない可愛らしいギルド受付の女性に、宿屋まで案内をしてもらうことになった。

 道中、京也は大事なことを聞きそびれていたので、あらためて聞いてみた。


「勇者の竜禅って知っているか? そいつがいるならどこにいるか知りたい」


 京也は今回来た大事なことの内のひとつが、勇者にあうことだったので少しでも情報が欲しくダメ元で聞いてみた。

 すると案外あっさり、受付嬢から答えが返ってきた。

 

「竜禅という名前の勇者でしたら、ギルドにはよくお越しになられます。最近ですと1週間前にもこられました」


 反対に、誰でも聞けば答えてしまうのかと、京也は少し不安になる。

 それはともかくとして、意外なところで情報が手に入ったので思わず両手で手を掴んで握手しまくると、なぜか受付嬢は頬を赤らめて目線を右斜め下に向けてしまう。

 

「おっ! 助かる。情報ありがとな」


「あわわわわっ」


 受付嬢の反応がおかしく、なんともおもしろい人だと、京也は気持ちが和やかになっていくのを感じた。


 ほんの数分、皆で進んでいくと何やら見えてきた。

 京也は第一発見者のごとく、声を出してしまう。

 

「おっ、アレか!」


 目の前には、洋館と呼ぶにふさわしい白い石でできた、白亜の御殿のような大きな建物が目に付く。たしかに他と比べたらまるで違う作りだし色も目立つ。


 俺たちは館のロビーで手続きを済ませて、部屋の準備ができるまで受付嬢と共に待っていた。

 

 すると何の縁か、京也は再びかぐや姫御一行にでくわす。

 かぐやの特徴的な喋り方は、どこか京也の耳をくすぐる。


「あらあら、うふふ。先ほどの殿方ではありませんの?」


 京也は思わずといった感じで言葉を返す。初対面なのに気軽に接してしまう。


「あれ? かぐや姫もこの御殿に?」


 かぐや姫もやな顔ひとつせず、気軽に受け応えてをしてくれる。


「そうですのよ? あら、可愛い3人を連れていらしたのですね」


 この時京也は、リムル・アリッサ・受付嬢の3人をさしているものだと思っていた。


「あっ、この人はギルドの受付の人で……」


 そこで、受付嬢は案内役であることを京也は説明しようとしたところ、思いがけない言葉で返される。


「ええ。ですのでその方を省いて3人と」


 京也はかぐやの言葉を聞き、瞬時に戦闘態勢へ気持ちを切り替える。

 なぜなら、ルゥナは本人が認めた人以外へは、認識できないようにしていたはずだからだ。


 ルゥナの存在を看破するぐらいだと、何か得体のしれない力をもち、かつ敵対する可能性をも考えてしまっていた。

 

 京也はルゥナの名をよび、臨戦対応を促す。


「ルゥナ!」

 

 ルゥナは一瞬反応するものの、どこか違うと感じたのか少し安堵した様子で京也に声をかけた。


「京也! まだ、大丈夫。敵ではなさそうだよ?」


 京也は今、目の前に危機という名をした化け物がいるのではないかと考えていた。

 ルゥナの存在を初めて看破した人物に強い警戒感をもつ。

 看破のスキルを使う人を初めて目の当たりにしたことで、奇妙な緊張感を生み出していた。

 

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