第35話『天使』

「悠久の間という……。精霊もたまに訪れる場所だよ?」


「人が入っても生きていられるのか?」


「呼吸という意味なら大丈夫かな?」


 ルゥナと会話している場所は、今まで見たことがないし似た場所もなかった。

 

 俺たちは再び教会に戻ってきたつもりが、不可思議な場所だ。

 周囲が果てしなく遠く白一色の世界で、一体どこに出てきたのかと見渡した。


 しばらくすると新たな魔法陣が光だし、黒目天使がやってくる。

 しかも一体だけでなく、合計三体もいた。


 俺たちにすぐに気がつくと、口角を上げて薄笑いを浮かべるだけで何も声を発してこないし何もしてこない。


 むしろ興味本意で観察している目に見えた。

 まるで、見世物小屋にいる動物状態だ。


「さて、始めちゃおうか?」


「ん? どうするんだ?」


「こうする! ダークレイン! アハッ」


 いきなりやりやがった。

 

 俺とリムルはあっけに取られてしまう。

 短剣を急ぎ構えてから毒蛇を放ち、リムルは氷結魔法で身動きを防ぐ。

 運よく、三体とも足から腰まで凍らせて動きを止めた。


 ところが毒蛇がたどり着く前にダークレインの洗礼を受けて、全身に黒い穴を開けられてしまい、下半分が凍ったまま肉片になってしまう。


「もう、終わりか?」


「いんや、これからだよイヒヒヒ」


 するといった通り、今度は倍の6個の魔法陣が現れて中から黒目の天使が現れていく。


 すでに毒蛇は力を持て余しているのか、大きく口蓋を開け現れた天使の頭を片っ端から掬い上げるようにして食らってしまう。


 残りは首無しの天使が現れて倒れていく有様だ。

 再び現れた魔法陣はまた倍の数の12個だ。今度はリムルが氷結で足止めして俺の毒蛇が颯爽と食らいつき足だけしか残らない。


 そしてすべて死に絶えると、再び倍の数の魔法陣が現れてと繰り返し討伐する機会に恵まれる。


 どれぐらい繰り返していたのか、体感的に1時間以上は経過し、相当数の天使を屠った。


 狩すぎたからなのか、それとも警戒したからなのか、もう天使は現れなくなってしまった。


「順調だったのにな。狩もう終わっちゃったね」


「今回はかなり美味かったな。こんなに簡単だと腕が鈍りそうだよ」


「それならよかったよ。イヒヒヒ」


 なんだかあまりにも簡単すぎて楽勝すぎる戦いだった。というより、狩りだった。練習なのかというぐらいの難易度の低さだ。


 あまりにも楽すぎて、ダンジョンでの狩り方を忘れてしまいそうになるほどだ。

 

「一通り狩った感じだな。今日は、もう終わりか?」


「始まりだよ? 今までのは準備運動みたいな物。これからが本番、稼ぐよ! イヒヒヒ」


「おー!」


 リムルは元気いっぱいだ。

 

「おー?」


 俺もとりあえず、返事を合わせてみた。


 一体なんなんだ? あまりにも楽すぎてまるでモグラ叩きその物だ。

 

 基本的に魔法陣は床と思わしき場所から、無数に輝き出しゆっくりと頭から出てくる。

 魔法陣の動きがまさに、穴蔵から出るモグラそのもので頭がでた瞬間には、毒蛇が食らいつくという半自動化状だ。


 「こいつらアホだなー。ビクビクしながら顔を出しやがる」


 ルゥナは変わらずの毒舌で大いに楽しんでいる。

 とはいえ、俺も毒蛇と共に大剣を振り回しながら周っている。

 リムルは奴らを凍らせて頭を固定化したり、氷の槍を無数に降らせて殲滅したりと各々が好きに討伐を楽しんでいる。


 俺はどこか間違った世界に来たのではないかと錯覚するぐらい、命が軽く辺りには首が多数転がる。


 もはや元人の天使というよりは、遊戯機器の人形程度にしか見えなくなってきた。


 それにしても一体何体いるんだか、数えきれないほど倒していくとしまいにはウントもすんとも言わなくなり、何も現れなくなった。


「もしかしてすべて俺たちで倒し切ったのか?」


「かもね? 京也の闇レベルがおそらくは、凄いことになっているんじゃない?」


「おっ。だよな! 見てみる」


「キョウどう?」


「おっ! マジか! すげー」


 俺は今の状態をリムルとルゥナに伝えると、ルゥナは考え混んでしまった。


 今の状況だ。

 

【名前】九条鳥 京也

【性別】男

【種族】”理人りじん” 理外の人

【年齢】16

【レベル】0

【闇レベル】47⇨83

【状態】耐久中

【能力】完全耐久

【特殊】言語理解

【闇スキル】闇闘気(完全認識阻害)

【混沌タル深淵ノ闇ヲ解放】

 ・門 (未解放:条件が足りません)

 ・狂奏(未解放:条件が足りません)

 ・闇閃光(未解放:条件が足りません)


 変わらず、闇スキルは増えていないけど、新たな項目が加わった。

 記載がある物は、スキルとどう違うのかがわからない。

 

「神どころじゃないと言っていたの、覚えている?」


「ああ、たしか言っていたことがあったな」


「ん〜なんと言ったら……」


「なんかまずいのか?」


 妙に神妙な顔をして語り出した。


「よくもあり、悪く? はないかな? 普通? いや、難しい? かも?」


「え? 一体何が?」


「”混沌タル深淵ノ闇”、まずはこれね!」


「より深いところの何を指すんだ?」


 いまいち何を言いたいのかわからない。


「闇は深ければ深いほど、支配階級が違うのよ。深すぎて誰もこないところの支配者だと人恋しくて、離れてくれないなんてことも、あるかもよ?」


「マジか……。なんか憑依するみたいで、不吉でしかないな……」


「不気味よね……。気になるのは、支配階級の内の一人が行方知らずなのよ」


「いなきゃいないで、関係ないんじゃ?」


「ところがね、そうにもいかないんだ」


「どういうことだ?」


「抜け出してどこかにいるらしくてね……」


「どこか?」


「多分、あたしと同じ世界に……」


「え? それってここじゃないか」


「そうなんだよねぇ……。ちょっと不安」


 なんだか雲行きが怪しい。

 とはいえまだ先の話だと思っている。なぜなら、条件が足りないからだ。

 しかも条件はノーヒントで、一体どうすりゃいいんだという心境だ。


「条件がまったく検討つかないからな……。まだ先じゃないか?」


「んー。だといいんだけどね。当人が現れて解放条件を教えてあげるよと近づいてくるとも限らないからね」


「マジか……」


「最後に”解放”これね」


「今いる場所から解放されることと、単純に解釈できるんだけどな」


「うん、あっている近いわ。今言えることは、支配階級の力を呼び出せる可能性があって、呼び出したら最後。恐らくまとわりつくわ……。力としては優秀でもね困った人たちだから……」


 何んだか、どこか言いにくそうな様子で、歯噛みしていうルゥナに京也は、疑問に思えた。


「前提は、闇の住人をそばに呼び寄せることなのか?」


「多分ね……」


「そんなに困る人なのか?」


「困るというか……。ん〜京也が誘惑されるぅー。困るぅー」


 ルゥナが頭を抱え出した。両手で頭を抱えながら狼狽える姿があまりにもおかしくて思わず笑ってしまう。

 すると少しばかり涙目ながら、睨まれてしまった。


「いやさ、なんかルゥナにしては、珍しい狼狽えっぷりだなと思ってさ」


「ちょっとー。あたしはこれでも、心配してあげているんだからね」


「いやー、悪い悪い」


 目尻に涙を浮かべて、頬を膨らます姿がどこかかわいらしい。

 腰に両手を当てて、顔をこちに近づけると、ルゥナは唐突にいい出した。

 

「ねぇ、なのでなんでこんなに規格外なの? 京也だけズルイよー」


「キョウは、ほんと規格外」


 リムルも同調しておなじように言い出す。


「そうはいってもな……」


 実に京也は、今までにない歓喜が心の奥から溢れ出るようで、必死に表情として出さないように堪えていた。


 内心ヤッターと叫びたいぐらいの気持ちだ。

 

 なぜなら、闇レベルは上がるばかりか、強力だと思われるスキルの獲得機会も来た。

 さらに強さも増して、勇者パーティーをクビになってダンジョンで置き去りにされた時とは、まるで別人のようだからだ。


「とりあえず、もう天使もいないからもう1つ別の部屋があるから言ってみよー」


 今日はルゥナのテンションがかなり高い。一体どうしたことやら……。


「まだあるのか、こんなにも楽していいんだろうか……」


「キョウは普段頑張っているんだから、いいと思うよ?」


「リムルのいう通りね。京也? たまには欲張りなさいよね?」


 ルゥナを水先案内人として、次の場所へ移動することになった。

 本当に今いる場所は、教会なのだろうかと疑問がよぎる。


「キョウ早く!」


「京也いくよー」


 俺はせっつかれるまま、ルゥナとリムルと俺の3人で魔法陣に乗っかった。

 

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