第31話『手配』


 ――脱出だ。


 俺たちは、ようやく本物の空の下に戻ってきた。

 今は満月の月明かりが俺たちを照らす。

 

 ルゥナの案内を下に進むと、ちょうど食虫植物の真後ろに、メンテナス用の扉がひっそりと隠れるようにしてあったのだ。


 扉は施錠されており、リムルの氷結魔法で粉々にして侵入をしてみる。

 すると、5つの小部屋に分かれていた。

 左右に二つずつあり、最奥にある一際大きな部屋の中に、転送用魔法陣があった。


 考えてみたらリムルの転移魔法で脱出できるのではと思ったところ、遺跡内では弾かれて使えないらしい。


 そこで、最奥の部屋に集まると、リムルの魔力で転送用魔法陣を起動してもらいアルベベ王都近くにある丘の上に、転送された。


 ようやく、遺跡から脱出となるわけだ。俺たちは、やっと王都へ戻れることに安堵した。


 ――夜。


 夜のアルべべ王都は、人の出入りの多い時間帯だ。

 

 昼間の危険さを鑑みると、どうしても夜に行動を限定されてしまうことが多い。

 いくら黒目は陽射しを苦手としているとはいえ、夜間は黒目の天使が巡回しているのでいる方が安心できるのは理解できる。


 普通の町の住人では、戦う術もなければ武器もない。そのためか、夜になると町が賑わう。


 夜は当然のように上空で、黒目の天使が教会の聖なる警護を理由にして常に巡回をしているので平穏を維持している。


 とはいえ、元々自分達の失敗作をどうにかしたいだけのようにも見える。

 失敗作の鎮圧・排除が結果として、治安維持になっているという一石二鳥の状態だ。


 うまい! うますぎる! アルべべ教会宣伝の黒目天使巡回!

 

 ある意味、天使巡回の動きもあって夜はより、安全な町になっている。

 教会への信仰心と忠誠心を高め、さらに信頼性も高まるうってつけの宣伝場だ。


 人通りも多く、店も明かりをつけて開いていおり、昼間の静けさが嘘のようだ。

 当然、人の往来も増えれば商売も盛んになる。

 

 久しぶりに活きた町を見た気がした。


「なあ、ルゥナ」


「どうしたんさ? あらたまって……。もしや! とうとうあたしに告白する時がきたか!」


「いや、多分それはないな……。闇世界ってさ、どんな人がいる感じなのかなと思ってね」


 俺たちは、町を取り囲む城壁の上へ観光に来ていた。夜になるとなぜか解放される場所だ。

 馬車一台分の道幅しかない場所は、夜景を見るために人が多く訪れる人気の場所でもある。俺たちも集ま内の一部だ。


 ぼんやりと町の灯りを眺めながら、唐突にルゥナの故郷を訪ねたのだ。


「なんだ、闇のことね。基本的に変わらないけどね」


 いきなり、テンションがだだ下がりだぞ。また選ぶ言葉を間違えたかと一瞬焦った。俺は少し上げてみようかと試してみた。


「種族は”ルゥナのような美少女”ばかりが多いのか?」


「なっ! なんてことを言うのっ! そ、そんにゃこと言っても知らないからね」


「ん? 美少女なんて言われ慣れているだろうから、今さら気にもしないか……」


「まっ、まあまあ、あたしに匹敵するかもしれない人は、いるかもね!」


 どうやら反応は上々だ。


「種族ってさまざまなのか? 知る範囲だと人やエルフと獣人、他には妖精や精霊、魔族などもいるけど他にもいたりするのか?」


 種族についてはあまり知らないし、知識の無いままできてしまった。

 なので、種族間についての基本的な知識は無いに等しい。


「あっそうか、京也は元々魔法界の人じゃないもんね。比べたらね……。似たり寄ったり、かな?」


「大きな違いはない?」


「種族的には同じ感じかな? 大きな違いは魔法界では魔力だけど、あたしのいたところは闇力だよ。性質は魔力とは大違いだけどね」


 世界により、どうやら力の源は大きく違うようだ。

 

「なるほどな。魔核とかもある?」


「ないよ? あたしたちの場合、心臓が一番近いものに当たるかな?」


 だから魔核は、珍味な扱いなのかもしれないな。

 案外俺のいた世界でいうフォアグラ的な扱いかもしれないな。


「だとすると俺の元いた世界と同じだな。俺たちの場合、力は持たないけど、心臓が重要だという点は同じだな」


「ヘェ〜。京也のいたところは、力もないのにどうやって生きてきたの?」


 なんだか妙に感心したそぶりを見せる。


「ああ。俺たちはさまざまな物事の仕組みを解明して、再現性のある誰にでも扱えるようにした物があるからな」


「へぇ〜。便利そうな世界だね」


「たしかに便利すぎるぐらいだったな。ただ魔法はないから、病気や怪我はすぐには治らないぞ。時間さえかければ治るけどな。他には、戦争がエグイな」


「どんな風に?」


 力や戦いの話になると、ルゥナの食いつきがいい。


「一言でいうと、見渡す限りの大地を一瞬で消し去る力があるんだ」


「何ソレ? 闇の力でもなかなかないよ」


 なんだかさっきより目の輝きは強い気がする。


「だから、危険な力をお互いの国が使わせないように、牽制しあっているんだ」


 いわゆる冷戦というやつだな。


「難儀ね……」


「ああ、かなり難儀だな」


 意外と食い付かなかった。冷戦の話で食い付かれても俺が困るだけなんだよな。


「ねえ。闇世界が魔法界とつながったらどうする?」


 手すりによりかかるようにして、ルゥナ遠くの月を眺めながら聞いてきた。

 唐突に問いかけてはいるものの実は元から、つながることを画策しているのではないかと思っていた。


「なんだよ藪から棒に。どうなるかわからないのにどうすると言われてもな……」


 世界同士の衝突は対消滅をするかまたは、不均衡な干渉かバランスをとって共存するのか、素人考えでだといずれかな気がする。

 

「世界同士の対消滅はほぼないらしいわ。くっついたら、城門をくぐる感覚で渡れるね。ただし、力の優劣が大きく変わるわ」


 ルゥナが指す干渉は、世界の大きさと存在なんだろうな。まあ、世界自体が影響を受けたら、どちらかが崩壊しそうな気もする。


 隣り合わせでくっつくのかまたは、融合するのかの違いなどは、何がどうなるのやらよくわからない。


「そんなに違うのか?」


「ええ。おそらくは最低でも十倍は闇が強い」


 高い倍率の根拠は何かは不明にせよ、闇精霊が言うと説得力がある。

 元闇世界の住人なら、今の威力と比較できるからだ。

 

「ん? 十倍も差があると、不均衡な干渉にしかならないんじゃないか?」


 俺は素人ながら、互いの世界が存在するには、完全に飲み込まれるか、バランスよく隣り合わせしかないと思っている。


「今はあたしの持つ残存する闇の力と、京也から分けてもらう力で維持しているけど、本来ダークレインは遺跡で見せた威力程度じゃないんだよね。降った瞬間、地形ですら変わるよ?」


「なるほどな。やっぱり、大きな力に飲まれるんだろうな……」


「恐らくね。言えることは、繋がった後に力差が判明した時、各地で蹂躙が起きるわ」


「まさに、戦争だな……」


 想像しやすい結果でしかない。

 未知の者同士でどちらかが非友好的なら、力関係により蹂躙になる恐れがある。

 すでに歴史が証明していて、もし圧倒的な差があるなら今いる世界は負ける可能性が極めて高い。


「光と闇の戦いなんて言えば、わかりやすい構図だからね。あたしでもわかるよ」


「そして人は家畜になると……」


「あり得ない未来ではないわ」


 蹂躙劇が始まれば、世界はあっという間に支配されてしまうのが目に見えている。

 しかも力の象徴たる勇者が生捕りにされて、勇者の魔核が珍味扱いになる。

 当然、再生魔法が使えれば、何度でも収穫し放題になる。

 まさに卵を産むニワトリと同じくして、ニワユウシャとなるだろう。


「小競り合いが起きたら、俺がどちらにつこうともあまり、関係ないんでは?」


「え? 京也何言っているの? 今の力でそれだけのことができるなら、つながったら本来の力に戻るわ。しかも闇のオーラ付きでね」


「つまり、今の十倍か。闇のオーラ?」

 

 すでに俺の力が証明しているように、闇の力が抑えられていてこの破壊力だ。

 黒の閃光がもし、通常の威力になると軽く十倍は超える。

 つまり、瞬時にして王都クラスが蒸発するように消えてしまう。


 ん? 闇のオーラってなんだ?


「ええ。最低でもね。そうなると最悪の場合は、今の世界基準で見たら京也は、討伐対象の扱いでしょうね……。闇世界からしたら、懸賞金をかけられるほどの仲間が、先行して侵攻している! すごい! ぐらいの感覚だけどね。闇のオーラはね、全身から闇の黒い粒子が湧き出て、体をまとうようになるよ? イヒヒヒ」


「はぁ、黒をまとうならバレバレだよな。俺は、賞金首候補になるのか……。普通にダンジョン制覇して、無双したいだけだぞ? あと勇者殲滅もな?」


「アハッ! なるとも言えるし、ならないとも言えるね」


「ん〜。世界同士がつながるのか融合するのかは、いつになるとわかるんだ?」


「いつねぇ……。かなり近づいているのは感覚的にわかるけど、なんとも言えないかも……」


 さすがにルゥナが世界を掌握しているわけでないから、わかるはずもないか。

 感覚的に近づいているのを感じるのは、力の源と自身の本体があるからだろうな……。


「キョウ……」


「うあっ! どうしたんだ? リムル」


「私も参加したいよ……」


 俺の上着のはじをつまみ、涙目の上目使いで俺を見上げる姿は、かなり胸にきた。

 ついついルゥナと話し込んでしまい、リムルが会話に入れず、置き去りにされた状態だった。


「ごめんごめん。ついついルゥナと話し込んでしまったよ」


「ううん。いいの気がついてくれて嬉しい」


「アハッ! 京也はあたしの魅力で心を捧げているからね?」


「はぁ……」


「え? 何? その残念ため息は!」


「ああ……」


「え? ちょっ何っ! あたしのような美少女を前にして、照れているのね? 理解するわ」

 

「仲がいいね」


 リムルの満面の笑みが月明かりに照らされる。

 なんだか、こうした平穏な時間を過ごすのも悪くないなと、思わず薄笑いを浮かべてしまう。


「えー、なにヘラヘラしているの? 京也キモイ!」


 ルゥナの声がいつになく響き、なんだか騒がしい夜が続く。

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