第12話『技術力』
「かわすだと？」
直前まで引きつけたかと思うと毒蛇の射線上にいた魔族はすべて、京也の目の前に瞬間移動をしてきた。
毒蛇が出現している間は、他のは呼び出せない。射出後の制御は、毒蛇の意思に任せているのが現状だ。
一向に食らいつけないため、一旦解除して消失させた。その間も執拗に魔族は京也に迫る。左右からの同時にくる短剣による刺突が迫り、背後に飛び退けるとすぐさま体勢を整えるためか、相手も即時後退し互いに避ける。
ところが背後にいた魔族らは眺めているわけもなく、ガラ空きの背中へ魔法攻撃で魔力の球体を肩甲骨付近に着弾させる。
勢いのあまり前のめりのまま倒れそうになるも、表皮の負傷はない。ただし衝撃による肉体の疲労は蓄積されていく。
とはいえ、巨大な階層主との戦いでの状態なら絶望的になるけども、今ならなんとかなるかもしれないとも漠然とした考えが支配的だった。
なぜなら、まだ切り札があるからだ。
ただ困ったことに、毒蛇の攻撃がかすりもしない。彼らの洗練された動きに翻弄されるばかりか、もて遊ばれている始末だ。片や俺はサンドバックの状態でしんどさは、絶望級。
ステータス差がありすぎるのか、1つも攻撃が当たらない。その辺のゴロツキをやるのとは、訳が違うのはわかっているものの、今の力を生かしきれていない。いいようにあしらわれているのが現状だ。
最初に使った闇闘気の認識阻害は、一定の効果があるのはわかったものの、うまく使い切れていない。
今できることを最大限はなった。
魔法とも言えない奇妙な半透明の毒蛇は、短剣から二匹が絡み合うように射出される。大きさは、三メートル以上の背丈を持つ熊の胴体並みの太さで、大蛇が二匹となるとかなりになる。
ところが検討違いの場所に向かうばかりで、まったく当たらない。多少どのターゲットに向かうかは理解をしているように見えるも、当たらなければ意味がない。
考えようによっては、避けるのであるなら当たりさえすれば勝機は掴めそうだ。毒蛇の攻撃から神経質なまで避けていることを見るとどうやら、毒蛇の力は脅威であることを意味している。
今はなんとかして当てようとしても、簡単に避けられてしまい代わりに俺の傷が増える一方だった。
あくまでも耐久するのであって、無効というわけではない。この差はやはり体術という技術の差だ。方や魔族は、百戦錬磨の玄人でこちらはまだ立ち上がり始めた小鹿のような物だ。
どうしたって差が出てしまう。その差を埋めるためには点ではなく、面で攻めたくとも、その方法が見つからない。
耐久はあるにしても体力は確実に減る。減れば動きが鈍くなるし体のキレも悪くなる。このままだとまるで、終わりの見えない無限に続く地獄にいるようにすら思えてきた。
――数時間。
魔族たちとの攻防戦は続く――。
洞窟内の壁面がいくら一面光石でできていたとしても、昼間のような明るさまでには至らない。薄暗く肌寒さが残り、どこか湿度も感じることから、濃霧の中にいるような肌感覚でもある。
現状はというと、京也の上下する肩と呼吸のリズムから決して余裕があるとは言い難い。むしろ刻まれ続けるあたりは、自らの血と一緒に体力が滴り落ちるばかりだった。
いくら耐久するとはいえ、相応に疲労は蓄積していくし動きも当然鈍くなる。京也は明らかに動きは悪くなり、敵は歓喜して傷は増える一方だった。
傷だらけの状態でも致命傷には至らず、唯一魔力がなくとも可能な永遠なる闇の毒蛇を幾度も放っていた。狙うというよりは、どこか運よくまぐれあたりすればいいぐらいの程度だ。
毒蛇は持ち主の意図を汲み取り、ある程度は自ら考え突撃してくれる優秀な大蛇でもある。残念ながら意思の疎通はできず、あくまでも意図を汲み取る程度のようなものだ。
当然他人まかせのような攻撃の仕方だから、無駄撃ちは多いし、相手からすると想定外の場所に撃ってくるという見え方だろう。
毒蛇はまっすぐ飛び出していくだけでなく、ある程度意思を持って敵対する者に食らいつこうとする。
ただ相手側が一枚も二枚も上手で紙一重で避けられてしまう。あと少しだと思わせるところが、手の内でもあるんだろう。そうして何度も撃たせることで消費させ疲労を蓄積させて、なぶり殺しにしていく。
――何もかもが手詰まりだった。
どれだけ強い武器でも、技術に差があればいくらでもひっくり返るいい事例だ。状態を覆すには、今以上のレベル差で圧倒的で理不尽な力を得るのが近道かもしれない。技術は一朝一夕にあらず。ただし、レベルは地道にあげることが可能とまでは言える。
残る手段は、ダンジョンの時間制限による崩壊まで待つか、このまま不眠不休で戦うかどちらかしかない。どちらを取るにしても地獄だけしか見えなかった。
疲労は蓄積するばかりではあったものの、巧妙に隠していたことがあった。リムルの存在である。いまだに気がついていないばかりか、存在すら探知していない様子だ。
あとはタイミングを見計らっていた。
恐らくチャンスは一度だけで、その機会を逃すともうジリ貧でしかなくなる。どういうわけか奴ら全員正面に集まり、こちらに少しずつ距離を詰めていく。
獲物が疲弊した表情とその姿を楽しみたいために、正面に集まっているのだろう。厳しい視線を送っていると奴らの背後にふと見知った何かが一瞬見えた。
「……まさか」
（リムル、姿を隠したまま俺の動きに合わせて氷結魔法を放てるか？ 狙いは奴らの足元を凍らせて身動きを止めるのが目的だ）
（ええ。大丈夫よ。問題ないわ）
京也は手のひらを正面に構えた瞬間、ブリザードと叫ぶ。するとその動きに合わせてリムルは、まるで俺が放ったかのようにして、手のひらから白銀の瞬間氷結する吹雪を局所的に食らわせる。
魔族の足元を一気に凍らせて身動きを封じた。氷結していく姿は樹氷のように、足元から少しずつ腰の位置まで氷漬けになって、身動きが取れなくなっていた。
そのタイミングをまるで見計らっていたかのように、魔族の背後から鉄仮面が急速に接近して、魔族の首をはねて回る。最後の一体だけは心臓を串刺しにした。
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