第39話 キチガイ

 あの夢はなんだったんだろう?


 主人公補正? 物語を進めるための強制力が働いているのか?


 それともアランの特殊能力なのか?


 夢の場所へ向かう途中、いろいろと考えた。


 だが、情報が少なすぎる。


 考えたところで答えはでなかった。


 学園街の端にある、人気の少ない場所に来た。


 そこから先も体が覚えている。


 なにかに誘われるかのように歩く。


 地下に潜る。


 じめじめとした感じが夢の中と一緒だ。


 古めかしい扉を見つけた。


 ゆっくりと地下室に入る。


 すべてが夢でみた景色と一緒だった。


「下手な真似はするなよ? 間違って殺してしまうといかんからな」


 黒ローブの男がテトラの首を鷲掴みにし、持ち上げている。


 夢であって欲しいと願ったが、どうやら夢ではなかったようだ。


 くそったれ。


 ……やるしかないじゃねーか。


 瞬時に発火イグニッションを発動する。


「グアアァァあっァァ!?」


 男の体が燃え、テトラが解放される。


 しかし、男はすぐに炎を振り払った。


「くそっ、誰だ!?」


 男の被っていたフードが焼け落ち、顔が顕になった。


「あなたが犯人だったんですね」


「アラン・フォードか……なぜこの場所がわかった?」


 黒ローブの男――サイモン・キラーが俺を睨んでくる。


「勘です」


 まあそうとしか表現できんしな。


「勘だと? そんな話があるか。この学園は広い。勘でたどり着くわけがない」


 いや、そんなこと言われても……。


 本当に勘なんだからしょうがない。


 やっぱ俺、ゲームの主人公だからかな?


 色々と都合良くいくようになってるんだろ。


 ご都合主義ばんざい!


「ミーアの件も先生が犯人なんですか?」


「……」


 答えてはくれないようだ。


 でも知ってる?


 沈黙って、答えを言ってるようなもんなんだよ?


 認識阻害の黒ローブ着ちゃってるし、あんた犯人決定だろ。


「――――」


 突如、サイモンが動き出した。


 それと同時に、俺は発火イグニッションを発動する。


 しかし、サイモンに軽々と避けられた。


「なるほど。これが噂に聞いていた無詠唱魔法か」


「知ってるんですか?」


「当然だ」


 まあ別に隠してるわけじゃないから良いけど。


「なんでこんなことするんですか?」


 やっぱり犯人の動機って聞きたくなるよな。


 刑事ドラマでも犯人の動機が一番気になるところだから。


 まあミーアとテトラに危害を与えた時点で、酌量の余地はないけど。


「聞いてどうする?」


「いや聞いてみただけです」


「兄妹だな……」


 ん、どういうこと?


 まあいいか。


「降参は……してくれませんよね」


「無論」


「では全力でやります。ちょっと火力強めでいくので、燃えないように気をつけてください」


 俺はサイモンに向けて、右手を突き出す。


 そして、魔法陣を展開させた。


――火球ファイア・ボール


 サイモンを軽々と飲み込めるほどの火球を作り出し、発射する。


「ッ……!?」


 サイモンが横に避ける。


 だが――


「クッ……」


 体の一部が炎で焼け焦げていた。


「……あれがファイア・ボールだと」


 サイモンが驚愕した様子をみせる。


 続けて、俺はサイモンの足元に魔法陣を展開させた。


 次の瞬間。


「――――」


 空気が爆ぜた。


 その威力は発火イグニッションを遥かに超えている。


 もはや爆発エクスプロージョンである。


 ジャンに対して使った魔法よりも、さらに威力が上だ。


 そういえばテトラは大丈夫?


 ちらっと彼女のほうを見る。


 無表情で俺を見ていた。


 こんなときにも無表情って……なんかちょっと怖い。


 すぐにサイモンに視線を戻す。


「……ッ」


 サイモンの右半身が焼けただれていた。


 剣が地面に落ちている。


 サイモンがさっきまで握っていたものだ。


 焼けただれた右手では剣を握ることもできまい。


「本当に嫌になる……お前のような天才は」


 は?


 知らんがな。


「私も同じだけの魔力量になれば、お前など容易く奢れるというのに」


 それこそ知らんわ。


「もしもの話なんかしたら、虚しくなるだけですよ?」


 与えられたカードでどう生きるかが人生だよ、先生。


 これ、どっかのアニメで聞いたセリフなんだけどね。


 まあ俺も「イケメンに生まれたかった」と思ってる時点で、同じ穴のムジナなのかもしれん。


「お前は知らんだろうがな、魔力は増大させられる。一時的にな!」


 は?


 どういうこと?


 そんな話聞いたことないんだけど。


 魔力量は生まれた段階で決められている。


 一般的に10歳くらいまで魔力が増加していき、そこからはほとんど増えなくなる。


 もちろん、個人差はあるけど。


「見せてやろう。私の本当の力を!」


 サイモンがローブの中から短剣を取り出した。


 どこかで見たことのある形をしている。


「あれは……魔力暴走を引き起こす魔法道具マジック・アイテム


 やっぱりこいつがミーア事件の犯人なんだ。


 魔力暴走の短剣と認識阻害の黒ローブ、この2つで確信した。


「それで何をするつもりですか?」


 あれ刺されたら、俺でもちょっとヤバそう。


 さすがに魔力暴走したら、魔力を制御できる自信がない。


 まあ刺されなければ問題ないんだけど。


 サイモンが短剣を持っている手を動かした。


 そして次の瞬間――


「――こうするのだ!」


 サイモンが短剣を自分の腹に刺した。


「は?」


 いやいやなにしてん?


 なんで自分の腹に短剣ぶっ刺してんの?


 こいつ、もしかしてキチガイだった?

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