第26話 ポンコツ交渉

「どちらにしろ、彼女はここを退学することになるだろうがな」


「なんでですか?」


「今の彼女に居場所があるとでも?」


「それはミーアが魔族の子だからですか?」


「そうだ」


 オリヴィアがはっきりと言った。


 いや言いたいことはわかるよ。


 でも、だからって退学まですることはないだろ。


「今回の事件でより一層彼女への風当たりは強くなるだろう。実際、退学を望む声も多い」


「ミーアが自分から辞めれば、問題が解決すると?」


「そういうことだ。本人が退学の望むとあれば、誰も・・・止める者はいないだろう」


 なんだよ、それ。


 そんなことされたら、俺がまたボッチになるじゃん。


 嫌だよ、ボッチ飯なんか。


 結構、ひとり飯は辛いからな?


 それにミーアは俺の師匠だ。


 師匠を辞めさせるわけにはいかない。


「もしも彼女が魔族の子でなければ、こんなことにならないんですよね」


「そうだな」


「それっておかしくないですか? この学園には自由と平等の理念があるはずです」


「ああ、あるな」


「ミーアにも平等があって然るべきでは? それとも少し・・・周りと違うというだけで差別するのですか?」


少し・・・か……」


 オリヴィアがスーッと目を細める。


「それとも理念はただの建前なんですか?」


 まあ俺も平等なんて絵空事だと思ってるけど。


 学園内では身分や出自に関係なく、みなが平等である。


 それがこの魔法学園の精神であっても、実際にそれが実現しているわけではない。


 どうせ建前だ。


 綺麗事を言ったほうが立派に見えるだろうって感じだ。


 そもそも平等なんて不可能だ。


 王族と平民の子を同列に扱うなんてできないのが当然のように。


 それを知ってはいるものの、俺はこの平等・・・という言葉にかけてみようと思った。


「平等を謳う風紀委員こそ、真っ先に平等を実現するべきだと僕は考えています」


「だが、相手は魔族だぞ?」


「魔族だからやる意味があるんです。なんならミーアを風紀委員にしてみては?」


 ミーアが風紀委員に入ることで、周りの目は確実に変わる。


 風紀委員はこの学園において絶大な支持を得ているからだ。


 とくに風紀委員長であるオリヴィアの人気は凄まじい。


 その人物の下につくということは、ミーアの評判を覆すには十分なものだろう。


「それこそ冗談だろ」


 はっ、とオリヴィアが呆れたように鼻で笑ってくる。


「以前、オリヴィアさんは言いましたよね。風紀委員には人望は必要ない。実力さえあれば文句は言わん、と。その言葉が真実なら、ミーアは風紀委員に相応しいと考えますが」


「それとこれとは話が違う」


「違いませんよ。それとも風紀委員長であるあなたもミーアを差別するんですか?」


「当然だ」


 オリヴィアは何の躊躇いもなく言い切った。


 まじか、この人。


 もうちょっと正義感ある人だと思っていた。


 こういうときは「私も差別に反対だ!」みたいな感じで協力してくれるんじゃないの?


 だってここゲームの世界でしょ?


 もっとご都合主義あってもいいんじゃない?


 俺、ご都合主義バンザイの人間だよ?


「わかりました。では交渉しましょう」


「交渉だと?」


「僕が風紀委員に入ること、それを交換条件とします。オリヴィアさんも僕が必要でしょう?」


「話にならんな」


 いや、まじか。


 一発アウトじゃん。


「わかりました。では僕は生徒会に入ります」


 オリヴィアの眉がピクッと動いた。


 俺の勝手な推測だが、風紀委員は生徒会とのパワーバランスを守ろうとしているようにみえる。


 生徒による自治が大きいこの学園において、力関係はかなり重要になってくるからだ。


 生徒会一強の状態を、きっとオリヴィアはよく思っていない。


 こういう対立ってよくありそうな展開だし、あながち間違っていないと思う。


 参照は前世の漫画知識!


 で、俺という存在を客観的に見ると…………あれ?


 全然魅力なくね?


 これ交渉材料として全く使えんやん。


 フォード家であるけど無能だし。


 うわっ、なんか自信満々に言ったのが恥ずかしくなってきた。


 こいつナルシスト? って思われてるよ。


 穴があったら入りたい。


「私に責任を負えと?」


 ん? どういうこと?


 あ、そっか。


 責任ってのは、ミーアを引き入れることへの責任って意味か。


 てことはこれ、手応えありってことなのか?


 俺のようなポンコツでも交渉材料として機能したのか?


「それが風紀委員長の努めでは?」


「なるほど。わかった。ただし――」


 オリヴィアは言葉を止めて、俺をじっと見た。


「うち不純異性交遊は禁止だ。風紀員として学園の秩序を守る必要があるからな」


 え? どういうこと?


「なんでそれ気にするんですか?」


「はあ、これだから朴念仁は困る」


「朴念仁?」


「妙に知恵は回るくせに、こういうことは鈍感なんだな。まあいい」


 オリヴィアがさっと視線を移動させ、扉のほうを見る。


 俺もつられてそつらを見る。


 ぴょこっとミーアがみえた気がする。


「そうだ。私は今からここを去るが、この後にここに来るやつのことは知らん。あとはお前のほうで説得しとけ。じゃあな、朴念仁」


 オリヴィアが医務室を出ていく。


 朴念仁ってどういうこと?

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