第13話 食堂

 周りからの視線を感じる。


 いつもよりも視線の数が多いのは気の所為か?


 いや気の所為じゃないな。


 刺々しい視線を感じる。


 これはあれか?


 俺のせいか?


 傍からみえば、デブが子供を連れ回してるように見える。


 犯罪だ。


 いや、この子たぶん同い年だから犯罪にはならないんだけど。


 まあ俺、悪目立ちするからな。


「なんか悪いな」


「な、なにがでしょう?」


「俺のせいで目立ってるだろ?」


「いや、そう……じゃないです。私のせいですから」


「君は知らないだろうけど、俺の悪評って凄いからな。聞いて驚くなよ」


「……たぶん驚きません」


「傲慢で無能でデブで落ちこぼれで出来損ない。それが俺」


「傲慢……? 全然そうは見えませんけど」


「まあ、最近ちょっと改心したからな」


 改心したと言ったけばなんとかなる説。


 水曜日のダウ◯タウンとかでやってくれないかな?


 そしたら見るのに。


 まあこの世界、テレビないんだけど。


「あっ、そうだ。自己紹介まだだったな。俺はアラン。アラン・フォードだ」


「……はい」


「聞いたことあるだろ? あの悪名高いアランだ」


「少しだけ……。一年生でフォード家の落ちこぼれがいるって……あっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」


「いやいやいいって。それホントのことだから」


 この子すぐに謝るな。


 俺がいじめてるみたいになるから、ちょっと勘弁して欲しい。


 実際、今もジロジロと見られてるし。


 しばらく歩いていると、食堂がみえてきた。


「私、ここで待っててもいいですか?」


「なんで?」


「人混みは怖くて……」


 たしかにこの時間の食堂は人が多い。


 ボッチは人が多いところが苦手だ。


 その気持ちはわからないでもない。


「あ~、うん。わかった。じゃあここで待ってて」


「はい」


 俺は一人で食堂に入った。


 食堂は広く豪華な作りになっている。


 貴族が多いため、みすぼらしい作りにはできないのだろう。


 天井が高く、シャンデリアがきらめいている。


 壁には絵が描かれており、この国を救った英雄たちが描かれているらしい。


 俺は真っ先に弁当売り場に行く。


 少女の好みかわからんから、とりあえず脂っこいものを買っておく。


 俺は別に脂っこいもの食べたいわけじゃないぞ?


 彼女のためだからな?


 ちゃんとサラダも買ってるし!


 誰に対してかわからない言い訳を、心の中でする。


「あの子、めちゃくちゃ軽かったよな」


 身長が低いだけでは説明がつかないほどの軽さだった。


 かなり痩せてるようにみえる。


 まあ俺と比べたら、大抵の人は痩せてるんだけど。


 俺の肉を半分分けてあげたいくらいだ。


 今ならお肉バーゲンセールでお買い得だよ?


 ってさすがに半分も分けたら、俺が骨になるわ。


 一通り弁当を揃えてから、彼女のところに戻った。


 すると、


「おい、誰だよ。こんなところに化け物を入れたやつは!」


 大声でまくしたてる赤髪の男子生徒がいた。


 こいつどっかで見たことある気がするな……。


 赤髪の後ろには二人の男が金魚の糞のようにくっついている。


 そして男たちの前にはさっきまで俺が一緒にいた白髪の少女がいた。


「食堂で人を喰うつもりじゃねぇだろう? なあ魔族さんよ」


 男たちが少女をけなしているみたいだ。


 少女は肩を震わせ、怯えている。


 なんかまずいことになってるな。


「ここは人間の場所だ。お前のような人食いが来ていいところじゃない」


 赤髪の男がそう言う。


 周りを見ると、誰もが少女を蔑んだ目で見ていた。


――化け物め。


――魔族なんて消えちまえ。


 生徒たちがそう呟いているのが、俺の耳に入ってきた。


 どういうことだ?


 あの子、魔族なのか?


 いや、今はそんなことどうだっていい。


「なんか言ってたらどうなんだ? それとも魔族は言葉も喋れないのか?」


 赤髪の男がそういうと、他の生徒達もくすくす笑い始めた。


 嫌な感じだ。


 さすがにこれは気分が悪い。


 俺は赤髪の男と少女の間に入る。


「やめろよ。ビビってるじゃないか」


「あん? なんだてめぇ……ってお前はアラン!?」


「なんだ、またあんたらか」


 どっかで見たことあると思ったら、前にクラリスを襲ってたやつらだ。


 こいつら、マジでなんなの?


 片っ端から喧嘩ふっかけてんのか?


 盗んだバイクを乗り回しちゃう系やつなのか?


 まじ迷惑。


「お前らまた燃やされたいようだな? 今度は全身燃やして灰にしてやろうか?」


「ひっ……」


 赤髪の後ろにいたやつが怯えた声をだす。


「彼女には手を出すな。いいな?」


「くそっ……わかったよ」


 赤髪の男が渋々頷く。


 俺は男の耳元まで顔を近づける。


 そしてドスの効いた低い声で――


「――さっさと失せろ、クズ共」


 男たちは怯えたように一本二歩と下がり、身を翻した。


「ちっ、行くぞ、お前ら」


 赤髪の男が他の奴らを引き連れて去っていく。


 そして振り返ると、少女がうつむきながらポツンと立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る