第6話 教室にて

 俺の前から、クラリスが逃げるように去っていった。


 ポツンと一人取り残される。


「え? なんで?」


 少女をカッコよく助けたと思ったら、逃げられた。


「え、どういうこと?」


 女の子を暴漢から助けたら恋が始まるだろ、普通。


 妄想は頭の中だけにしとけってことか?


 いや、わかっていたさ。


 俺はアランだ。


 俺みたいなやつが少女を助けたところで意味がない。


 好感度がマイナスからゼロになっただけだ。


 いや、ゼロにすらなっていないだろうな。


 ワンチャン、不良捨て猫シチュエーションを期待してたんだけど。


 悪いやつがイイコトしたら、好感度バク上がりするみたいな?


 ただの妄想ですね、はい。


「いやだとしても、逃げることなくない? そんなに俺のこと嫌いなわけ?」


 泣きたくなってきた。


 それも相手はクラリスだ。


 美少女だ。


 サラッサラの金髪。


 大きな緑碧の瞳。


 キレイな鼻筋。


 右目の下に泣きぼくろがある。


 入学当初から、俺とは違った方向で注目を浴びている少女だ。


「お友達になりたい」


 下心なんてないぞ。


 純粋に話し相手が欲しい。


 いや、やっぱ嘘。


 ちょっとは下心がある。


 可愛いは正義だと思う。


 俺もかっこよくなりたい。


 そういえば俺以外のキャラって、この世界にいるのか?


 いるんだったら、今すぐにでも俺と代わってほしい。


 イケメンに生まれ変わりたい。


◆ ◆ ◆


 翌日。


 昨日はショックで眠れなかった……わけはなく、普通にぐっすり寝れた。


 最近運動してるおかげか、しっかり眠れてる気がする。


 睡眠は大切だよな。


 でもショックを受けてることに変わりはない。


 学校行くの憂鬱だし。


 みんなに避けられるのなんて日常茶飯事なんだけどね。


 なにそれ悲しい。


 泣いても良いかな?


 ちなみに学校の雰囲気は日本の大学に似ている。


 自分で好きな科目を選んで、授業を受けるという流れだ。


 単位を取れば進級できる。


 科目は必須科目と選択科目に分かれているが、1年時はほとんどが必須科目になっている。


 クラスはAからDまでの4クラスに分かれており、俺はDクラスだ。


 ただし、能力によって振り分けられてるわけではなさそうだ。


 先生たちが適当に選んでクラス分けしているのだと思う。


 ちなみにAクラスには俺と同い年の妹がいる。


 俺のような出来損ないと違ってめちゃくちゃ頭の良い子だ。


 優秀な妹を持つと、兄として鼻が高いな。


 妹には兄だと思われてないが……。


 教室に着く。


 いつもどおりの光景だ。


 まあつまり、白い目を向けられてるってこと。


 ふっ、甘いな。


 俺はもうボッチに慣れた。


 むしろボッチを極めていると言っても過言ではない。


 助けた少女に逃げられる経験が、俺をまた一つ成長させてくれた。


 キングオブボッチといえば、俺のことだ。


 ……悲しくなんかはない。


 と、そんな感じで一人脳内コントをやっているときだ。


 俺に近づいてくる人物がいた。


「おはよう、アラン」


 顔をあげる。


 美少女がいた。


 クラリスだ。


 今日も相変わらず可愛い。


 美少女だ。


 あっ、二回も言ってしまった。


 でもしょうがない。


 だって美少女なんだもん。


 こんな俺に「おはよう」と言ってくれるなんて、どこの天使さんですか?


 ぼっちでスクールカースト最底辺の俺に話しかけてくれる。


 えっ、なにそれ惚れるんだけど。


 モテナイ男子におはようと声かけてくれる美少女とか最高でしょ。


 クラリスは人気者だ。


 みんなのアイドルだ。


 俺のようなクソ雑魚ボッチとは天と地の差がある。


 月とミジンコだ。


 もちろん月がクラリス、ミジンコが俺。


 クラスの最上位と最底辺。


 教室が静まり返る。


 他のやつらが俺らの会話を聞こうとしているのが伝わってくる。


 クラリスが返事のない俺の顔を覗いてくる。


 美少女が顔を近づけてくるなんて……眼福。


 朝から幸せ。


「昨日はごめん」


 返事のない俺に痺れを切らしたのか、クラリスが謝ってくる。


 俺を置いて逃げていったことを言ってるのだろう。


 そんなことはもう気にしない。


 クラリスが続けていう。


「助けてくれたのに、逃げちゃったから」


 昨日はほんとショックだったけど、俺は小さいことを気にする男じゃない。


 こうやって話しかけにきてくれただけでも、もう満足だ。


 それよりもクラリスと仲良くなりたい。


 この機会に交友を深めようじゃないか。


「いいよ。それよりも昨日は大丈夫だった?」


「え?」


 え?


 クラリスがポカンとした顔で俺をみる。


 なにかいいたげな顔だ。


 他のクラスメイトも固まっている。


 俺、なんか変なこと言った?


「どうした?」


「あ、え……ごめん。なんかいつもと雰囲気が違うから」


 いや、うん、そうだよな。


 かなり雰囲気変わったよな。


 前の俺と違って、今の俺は傲慢な言い方はしないから安心して。


 みんなと仲良くなるのが目標だから。


「えっと……イメチェン?」


「いめちぇん? どういう意味?」


「心を入れ替えたってことかな」


 心どころか人格を入れ替えてるけどな。


 イメージチェンジっていうより、ソウルチェンジって感じかな?


 つまりソウチェンだ。


 いや、ソウチェンってなんだよ……。


「そ、そうなんだ……。あ、これお礼にクッキー作ってきた」


 え? マジで?


 めちゃくちゃ嬉しい。


 泣いて喜ぶほど嬉しい。


 美少女からのクッキーとか最高だろ。


 ふっはっはっは、愚民どもめ。


 これが格の違いだ。


 と、思いながらクッキーをもらおうとするが――


「そんなやつと関わることないぞ。クラリス」


 俺とクラリスの間に、黒髪の少年が割って入ってきた。

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