新居の間取りちゃんと見たい
不動産屋は駅ビルがある方の駅にあるとのことで、千歳と赴いたが、俺は不安だった。千歳はお金さえあれば買えると思ってるみたいだけど、そんなうまくいくのか? 俺、家を買うことの何もかもがわかんないぞ!
予約を取っていたので、不動産屋の社員さんが愛想よく迎えてくれたが、席について早々千歳が言った。
『金谷千歳です! お金払うからあの土地の家買わせてください! これ身分証明と預金残高です!』
千歳は保険証と年金証書とスマホで見られる預金残高を出した。いや、信用されようとしてるのはわかるけど、社員さん戸惑ってるだろ!
「ええと、金谷様は宝くじに当たったとはお聞きしておりますが、こちらの方は?」
社員さんは俺を見た。そりゃそうだよな! 俺千歳のおまけだもんな!
「その、和泉豊と申します。あの、この金谷千歳の同居人で、買う家に一緒に住む予定でして」
怪しまれたくなかったので、俺は勤め先であるグリーンライトの名刺を出した。社員さんは丁寧に受け取ってくれたが、やはり困惑した顔で俺を見た。
「ええと……金谷さんとご結婚のご予定など?」
「その、そういう関係ではなくて、ただこれからも一緒に住みたいという感じで」
「……ええと、金谷さんとはご親戚とか?」
「いえその、特に親戚と言うわけではなく……同居人としか言いようがありません、頑張れば友人と言えるかもしれませんが……」
そうだよなー! 謎の人物だよな俺! 彼氏でも親戚でもないのになんで家買ってまで一緒に住むんだこいつって思われてるよ絶対!
千歳が俺を指差した。
『和泉を家付きの男にして、それで和泉の好きな人を釣るんです!』
「その、お買い上げになられるのが金谷さんなら、家の持ち主は金谷さんということになりますが……」
『えっ』
「あ」
千歳はぽかんとし、俺も今更気づいた。そりゃそう! 千歳のお金で買うなら所有者は千歳!
千歳はあせりだした。
『えっと、ワシが金出して、それで買ったのを和泉にやるとかは?』
「それはたぶん贈与税がかかるので、税理士さんとか弁護士さんの領域ですね……」
『じゃ、じゃあワシが和泉に金やって和泉が買うのは?』
俺は千歳の肩をそっとつついた。
「千歳、俺に家買える大金渡した時点で贈与税めっちゃ取られる」
『ええー!? やだー!』
千歳は愕然とした。そりゃ俺も税金は嫌だけどさ。
社員さんが「その」と言った。
「一応、金谷様に現金一括でお買い上げいただくのが一番の節約かと。ローンだと金利分損してしまいますし、金谷様が金谷様のものとして買うなら贈与税の心配もありませんし」
あ、買わせてはくれるんだ。現金って強いな。
『えっと、和泉は自分が払える分は少しずつ払うって言ってるんだけど、それでもだめですか?』
「共同名義でローンを組むことは出来ますが、現金一括なら金利がかかりませんので、節約できます。それに、金谷様に一度お買い上げいただいたあと、和泉様が金谷様にお金を渡せば、単独名義から共同名義にし直す事はできます」
はー、なるほど。
『うーん、じゃあ、まずワシが買うかあ』
千歳は頷いた。
「もし購入申し込みをしていただけるなら、申込証拠金として10万円いただくことになっていますけれど、その前に間取りなどご確認いただいたほうがよろしくはないでしょうか?」
全く持ってその通りだ。俺は社員さんに聞いた。
「間取り見せていただけませんか、ある程度は自由が利くと聞いているんですが」
「一応、今予定されているのはこちらになります」
社員さんはこちらに向けて間取り図を広げてくれた。
一階は広いLDKと小さめの和室、二階は三部屋。一階は床暖房あり。なるほど……。
『ほら、二階にお前の部屋もお前の好きな人の部屋も取れるぞ!』
「うん、まあ、ていうか一階だけで普通に生活できそうだね」
一階だけで今のアパートより広くない?
『和室に布団敷いて寝たいな』
俺は社員さんに聞いた。
「すみません、ネット回線が安定して速いといいんですが、その辺はどんな感じですか?」
「ご自身で光回線を申し込んでいただいて、開通工事を頼む必要があります。入居前でもNTTに新築届けを出せば開通工事できますので、後はお好きなプロバイダをお選びいただければ」
「なるほど、わかりました」
千歳が俺の袖を引いた。
『なあ、なんかこの間取りで全然いいな』
「うん、千歳が大丈夫なら、俺もこの間取りがいいかな」
『じゃあ、あとは申込みのお金払えば、とりあえず大丈夫か?』
千歳が社員さんに聞くと、社員さんは「はい」とうなずいた。
「本日お申し込みいただけるならそれはそれでよろしいですが、実際ご入居いただけるのは1年以上は先になるかと」
『でも、先に払っとかなきゃ他の人が欲しいってなるかもしれないんですよね?』
「はい」
『じゃあそこのコンビニで下ろしてくるんで待っててください!』
「いえその、購入申込書を書いていただいて、10日以内に指定の口座に振り込んでいただければ大丈夫です」
『はーい』
社員さんは書類を持ってきて、千歳はそれに記入した。
「1週間後にご購入の意思に変わりなければ、購入のご契約をいただいて、手付金をお支払いいただくことになります」
『いくらですか?』
「おそらく540万円ほどです」
『はーい』
なかなかの額になってきたが、千歳はあっさりと頷いた。
「それと仲介手数料の半金188万ほどと、印紙税の1万円がかかります」
『はーい』
「千歳、軽く返事してるけど大丈夫?」
俺は不安になり、肘で千歳をちょんとつついた。
『だって払えるし』
「それはそうだけどさあ、契約の書類じっくり読むとか……」
社員さんが助け舟を出してくれた。
「えー、その、契約については和泉様もご同席していただいたほうがよろしいかと……よろしければ契約書のコピーをお渡しさせていただきます」
「そうしてください」
俺は深く頷いた。現金でゴリ押ししてる千歳だが、傍から見てるとやっぱりヒヤヒヤするんだよな……。
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