今の土地で家買いたい

 コンビニ帰りの千歳が言う。


『なあ、向かいのでかい家が今度取り壊しだって』

「え、全然きれいなのに?」

『家主が売ったんだって。代わりに一戸建ていくつか建てるんだって』

「へえー」


 最近、大きな家を取り壊してそこに一戸建てを複数建てるのが多いよな。その方が不動産屋が儲かるんだろうけど。


『二階建ての4LDKで、5500万円くらいのが建つんだって』

「なんでそこまで知ってるの?」

『取り壊しの看板立ててるおっさんたちに聞いた』

「コミュ力高いなあ」


 千歳はコンビニアイスを冷蔵庫にしまいつつ言った。


『でさあ、お前を家付きにしたらお前の好きな人もクラっと来るかもしれないからさあ、ワシ向かいの一戸建て買いたい』

「え!?」


 た、確かに千歳は即金で5500万円出せる……でもそんな、いきなり!?


『いいだろ、4LDKならお前の部屋もお前の好きな人の部屋も子供部屋も作れるぞ?』

「えっちょ、待って待って」

『お前の好きな人の好きな間取り聞いとけ、まだある程度は何とかなるらしいからさ』

「い、いやでも、その」


 そんな、困るよ、いやでも千歳は一戸建てで暮らしたいのかな、でも俺だけ一方的に住まわせてもらうわけにも……。


「あの、千歳だけに出してもらうわけには行かないよ、でも俺、流石に家に手出せるほどはお金なくて」

『ワシが買いたいから買うし、お前を住ませたいから住ませるんだ、いいじゃないか』


 千歳はサラッと言った。た、確かに千歳は買えちゃうんだけどさ!


「え、えっとあの、俺、今の毎月の家賃くらいなら出せるからさ、それを毎月千歳に払って、収入上がったら毎月の額増やして払って、とかじゃダメかな?」

『んー、まあ、払いたいならいいけど』

「千歳の好きな間取りは?」

『いや、お前の好きな人のやりたい間取りを聞けよ』


 もっともなツッコミである。でも俺の好きな人は千歳なんだよ。


「で、でも千歳も暮らすんだしさ、何か希望ないの?」


 食い下がると、千歳は何か考えるように上を向いた。


『ワシはー……キッチンが広くて、三口コンロで、あと日当たりがよければいいかな』

「じゃあそれ優先でお願い」

『お前の好きな人の希望も聞いとけよ』


 もう聞いたんだよ。


「えっと、それはその、早いうちに聞いて千歳に伝えるから」

『じゃあよろしくな』


 千歳は、チョコミントアイスを持ってこたつに入り、幸せそうに食べ始めた。

 う、うーん、どうしよう……いや、俺の希望をその人の希望として伝えておけばいいか?

 俺の希望……ネットが安定して早いとかかなあ。あと、男の一人自分磨き的な意味で自分の部屋が欲しい……でも、それくらいかなあ。

 自分の部屋が欲しい、ネットが安定して早いといい、だいたいの人はそんなもんだよな。

 よし、その辺を、後でうまくカモフラージュして伝えとこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る