ホントはあなたと結婚したい
分籍、本人確認のためのマイナンバーカードと印鑑を役所に持っていくだけでできてしまった。えっこんなに簡単なんだ……。
びっくりしすぎて、俺は手続きしてくれた職員さんに思わず話しかけてしまった。
「こんなに簡単にできるんですね」
「そうですね、もともと結婚したら自動的に分籍みたいな扱いになりますし」
「えっ、そうなんですか?」
「親の戸籍を抜けて、夫婦で新しい戸籍を作る形になるんですよ」
「へえー」
そっかあ、俺がぐずぐずしてないでとっとと結婚してれば、同じことがもっと早くできたのか……。
……結婚か。千歳にはずっとせっつかれてるけど、千歳以外の人とどうこうってもう考えられないくらい、俺は千歳にイカれてるからなあ。
……千歳と結婚できたら、俺はこの上なく幸せなんだろうな。いや、本人は色恋が何もわかってないし、俺の気持ちもわかってないし、無理な話だけど。
千歳は、戸籍上は性別がない状態、性別が確定するのを待ってる状態だけど、そういう人でも結婚できるんだろうか? ここからどうにかして「俺と結婚してください」に持っていけないだろうか?
……戸籍のことを考えるより、千歳に色恋に興味持ってもらうことと、俺の気持ちをわかってもらうことを考えたほうがいいな。いや、それができれば苦労しないんだけど。
ていうかなあ、千歳の第一目的は、俺を子々孫々まで祟るために俺に子孫を作らせることなわけで。それなのに「千歳が好き、結婚してほしい」とか言ったら、ものすごく怒るよな多分……。
千歳と子ども作りたいって言ったらどうにかなるかもしれない、とは思うけど、人間と怨霊って子ども作れるのか? 千歳は生前、おそらく不妊だったけど、怨霊ならどうにかなる、なんて都合のいいことそうそう起きないだろうし。
そんな事を考えつつ家に帰ったら、千歳が『お帰り、早いな』と出迎えてくれた。
「役所、バス乗ればすぐだもん」
『そうだけどさ、ワシがついていかなくて仕事でもないお出かけだから、お前の好きな人にでも会ってくるかと思った』
千歳はなんでもない顔で言った。
「いや、本当に役所行って帰ってきただけだよ」
あーそっか、千歳は俺に好きな人が別にいるとずっと勘違いしてる。最近俺に結婚をせっつかなくなったのは、その人とくっつける方向にシフトしたからか?
いや、俺も好きな人に思いを告げたいのは事実だけど。でも千歳がこんなんじゃ、この先どうなるやら……。
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