番外編 金谷千歳の名案

 和泉が心配だ。

 藪さんと会って喫茶店から帰る間、和泉は「栗田さんに相談してみようかなと思って」と言ってた。栗田さん、昔は行政書士やってて、弁護士事務所ともつながりがあるんだって。和泉のおばあさん、和泉の親と完全に分離して暮らしてるから、和泉の親を関わらせないようにして暮らすために、栗田さんが何か特別なことをしてるかもしれないからって。

 でも、和泉は家に帰ってもずっと顔が暗い。暗い顔のまま仕事してるから、何とかして慰めてやりたい……。

 あっ、そうだ。

 ワシはおばけの姿になって、座椅子で仕事してる和泉にぎゅっと抱きついた。


「ど、どうしたの?」

『ぎゅってしたらストレス減るんだろ?』

「…………」

『な、お前もぎゅっとしろ』

「……うん」


 和泉はワシを抱きしめた。


「ありがとう……」

『なんてことない』


 しばらく抱き合ったまま、和泉は黙ってたけど、やがてつぶやくように話しだした。


「……俺、親と関わらないで生きていきたいのに、今日のこと聞いた時、母親はどういう病気なのかとか、まともな治療受けてるのかなとか気にしちゃって、それがすごく嫌なんだ……」

『うーん、なんか全部アロマと漢方でなんとかしそうな人だしなあ』


 普通に医者にかかれば治るような病気でも、治んなくて悪くしてそう。

 和泉の声は、つらそうに続いた。


「俺、千歳と普通に暮らすのがいちばん大事なんだ、それさえあればいいのに、なんでこんなこと思っちゃうんだろう……」

『親が病気ならそりゃ心配だろ、お前の親は結構アレな親だけどさ』


 結構アレな親なのに、関わりたくないのに、心配になっちゃったんだな。優しくていい奴すぎるのも、大変だ。


「アレだから、俺と関係してほしくないのに、俺、なんでか気がかりなんだ……」

『お前、優しくていい奴なんだよ。だから心配なんだよ、そんなアレな親でも』


 ワシは、和泉の背中をなでた。


「…………」


 和泉は、もっとワシをぎゅっとした。


「俺、千歳がいなかったらやっていけない」

『別にどこも行かないから、安心しろ』

「……うん」


 和泉は、ワシを抱きしめる腕を緩めて、顔を上げた。


「とりあえず、仕事終わりに栗田さんにLINEしてみるよ」

『うん、がんばれ』


 励ましてやると、和泉はやっと微笑んだ。

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