番外編 金谷千歳と謎

 和泉と一緒に駅ビルまできた。商業施設の部分に入れるのは10時からだけど、ちょっと早く来ちゃってまだ入れない。入口には、ワシらと同じで早く来ちゃったらしき人たちが所在なげに待ってる。

 ていうか。


『ここ、レディースの服の店は結構見るけど、男物の店ってどこだ?』


 ワシは隣の和泉に聞いた。和泉は「あれ?」と首を傾げた。


「えーと、駅ビルに来ればなんかあるだろうと思ってたけど……ちょっと待って、調べる」


 和泉はスマホに目を落とし、ワシはしばらく待った。


「えー、ごめん、調査の結果、この駅ビルにはメンズファッションがユニクロとGUと無印しかないことがわかりました」

『おい!』


 いきなり暗礁に乗り上げたじゃないか!

 和泉は言い訳するように言った。


「でもほら、ユニクロでも似合う服選んでもらえたしさ」

『咲さんはどうやって選んだんだ?』

「骨格診断とカラー診断」


 和泉は説明してくれた。和泉は骨格ウェーブでブルベ夏っていうタイプなんだって。

 骨格ウェーブに似合う服は、下半身はスキニーかテーパードなんかの細身のズボン、上半身はジャストサイズで胴体に厚みが出るもの。ブルベ夏に合うのはソフトな色合いなんだって。


「まあ、その線で見ていこうかと」

『まあ、頼るもんそれしかないなあ』


 10時になって、警備員さんが商業施設につながるドアを開けてくれた。とりあえず一番近いGUに行くと、冬服がたくさん出てた。男物はあっちのコーナーか。


『あのさあ、うちにある薄い黒いとっくりにさ、この茶色い厚いニット合うと思うぞ』

「じゃあ買お」


 和泉はかごにニットを放り込んだ。


『あと、このフェルトっぽい生地のジャケット着たら胴体に厚みが出ると思う』

「じゃあこれも買っちゃお、他にいいのある?」


 和泉は即座にジャケットを手に取った。


『いや、ワシの言うままになんでも買うな!お前の好きな人の好みとか考えろよ!』


 お前の好きな人にモテるためにおしゃれするんだろうが!

 和泉は戸惑い、困った顔で言った。


「えっとごめん、ぶっちゃけ言うと、相手の好みはよくわかんない。でも千歳の見立てで今より見栄えをよくしたら、勝ちの目もあるかもしれないんで、よろしくお願いします」


 和泉は深々と頭を下げた。


『お前なあ』


 あきれた。好きな相手とはそこまで親しくないのかなあ、いやでもある程度親しくなきゃ色恋わかんないってわかんないよなあ。謎が深まる……。

 和泉は売り場に目を向けた。


「あと、似合うかどうかわかんないけど、寒いんで冬用のパンツが欲しい、裏起毛とかコーデュロイとか」

『コーデュロイ? あっちじゃないか?』


 ワシはそれっぽい生地のズボンが置いてある場所を指さした。


「よっしゃ、合うのを2本くらい買おう」


 その後、和泉はいろいろ試着してみて、ユニクロと無印も回ったんだけど、ワシが似合うって言ったものばっかり買った。本当にそれでいいのか?

 お昼に、和泉は駅ビル上階の洋食屋に連れてってくれた。おごりってことでホイホイついてったけど、メニューを見たらサイゼリヤより明らかに価格帯が高い。


『こんな高いところいいのか?』

「大丈夫、何でも食べて、遠慮しないで」

『本当に遠慮しないぞ?』

「どうぞどうぞ」


 和泉は微笑んだ。


『じゃあ、このでかいオムライスとカキフライとガトーショコラ』

「オッケー」


 和泉は大根おろしの和風ハンバーグ頼んで、昼飯になった。ワシはカキフライをほおばって聞いた。


『買った服でさ、お前の好きな人に好かれそうになったか?』

「これから着て試すよ」

『しっかりやれよ』


 しかしなあ。和泉はだいたい家で仕事してるし、外に出ても散歩かたまに仕事だ。好きな人、仕事関係の人ではなさそうだし、本当にいったい誰なんだろう? 服買ったはいいとして、その人にいつ会って見せるんだろう?

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