閑話 ヒト VS AI

 夕飯の後、狭山さんとリモートで唐和開港綺譚の打ち合わせをしていたのだが、ある程度まとまった後は話が雑談に流れてしまって文章生成AIについての話になった。


〈書いてるのが小説だと、「なんで一番楽しいところをAIにやらせるんだ!」ってなっちゃうんですけど、Webライターさんだとどうです?〉

「分野にもよりますけど、見出し作らせるにせよ書かせるにせよ「ヘタクソ! もういい自分でやる!」になっちゃいますねえ」

〈あっはっは、なるほど〉

「AIって基本英語の学習元が多いじゃないですか、だから英語で文献少ないこと得意じゃなくて、漢方とか薬膳のこと書かせると間違いがすごくて……名前の読み方からして間違ってたりして」

〈へえー、そういうのもあるんですね〉


 狭山さんは興味深げに頷いた。


「現状としては、自分でやったほうが質保てるかなって感じですね……まあAIもどんどん進化してますから、別な活用方法はありうるかもと思って、たまにいじってるんですけど」

〈あー、そうですね。知り合いで、書かせるんじゃなくて読ませるにはいいって言ってる人がいました〉

「読ませる?」

〈自分の文章って他人に伝わってるかどうかがいまいちわかんないじゃないですか。そういう時AIに読ませて、意味がわかるかどうか聞くんです〉

「あーなるほど、添削……」


 千歳(朝霧の忌み子の姿)が俺の横に来て口を開いた。


『なあ、今もう仕事じゃなくてただのおしゃべりか?』

「鋭いツッコミだな……」

『いや別に文句じゃなくて、ワシ二人に聞きたいことがあるんだ』

〈なんでしょう?〉


 狭山さんは首を傾げた。


『AIってさ、絵も描けるし文章も書けるんだろ? 先生も和泉も、仕事AIに取られちゃったりしないか?』

〈あー、そういう……〉


 狭山さんは顎に手を当てて考えたが、やがて言った。


〈まあ仕事取られたら困るんで、AIに負けない仕事をしつつAIを乗りこなしていくしかないでしょうね〉


 おお、さすが狭山さん、すばらしい回答。


〈和泉さんもそんなでしょう?〉

「そうですねえ、だから仕事には使わないけど定期的にいじって、どう使えるかは確認してるし……」


 俺は頷いた。


「今のAIってそこそこのものは出せるけど、平均点って感じなんで……平均よりはマシなものが書けるように頑張って、AIを活用できる部分が見つかったらどんどん活用して、くらいしかないですね」


 千歳の顔がぱっと輝いた。


『じゃあ、先生も和泉も仕事なくならないか?』

〈まあ今のところは〉

「AIは進化するから将来はどうなるかわかんないけど、使いこなせるように頑張るしかないね」

『へえー……』

〈まあでもそれはそれとして、自分の書いたものがAIのエサになるのはあんまいい気分しないですけどね〉

『エサ?』


 狭山さんの言葉に、千歳はぽかんとした。


『AIって飯食うのか?』


 俺は補足の必要を感じた。


「文章生成AIって、莫大な文章を学習して賢くなるんだけど、学習させる文章のことをエサって言うことがあるんだよ」

『へえー』

「俺の書いたのもAIに食われてるかもしれないしねえ」

『えっそうなのか!?』

「まあネットに流したものは遅かれ早かれそうなる運命かな、タダで食われるの嫌だけど」

『金請求しろよ』

「大企業相手だから難しいんだよ」


 狭山さんは眉根を寄せた。


〈記名記事とかもあんま関係なさそうですしね〉

「そうなんですよねえ……」

〈和泉さんだと、ハルシネーションも心配ですよね?〉

「そうですね、やっぱり本が一番なのかな……」

〈最近の粗製乱造電書、AI産多いですよ〉

「わー、最悪」


 俺は思わずため息をついてしまった。千歳が首を傾げた。


『ハルシネーションってなんだ?』

「もともとは幻覚って意味なんだけど、AIが出した間違った情報がネットに流れて、それをまたAIが学習しちゃって、間違った情報をさらに出すサイクルのことと思ってもらえれば」


 千歳は難しい顔になった。


『なんか、話聞いてるとAIって使いにくそう』

〈実際、使いこなすにはそれなりの技術いりますよ〉

「だから定期的にいじって技術開発が必要なわけだよ」

『うーん、なんか大変なのはわかった』

「まあしばらくは食いっぱぐれないよ、俺も狭山さんも」

『まあ、食いっぱぐれても面倒見てやるよ』


 千歳はサラッと言った。預金一億、御札一枚で10万円稼ぐ人の言葉、すごいな……。

 そんな事言われると、ますます食いっぱぐれないようにがんばんなきゃって思う。がんばろ。

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