番外編 相楽光の懊悩
自分が人殺しだとバレるのではないかと、ずっと苦しんできた。
やったことはひとつだ。客が注文したレモンサワーに睡眠薬を溶かしただけ。でも、眠り込んだ客が何をされるかは分かっていた。俺が睡眠薬を入れなければ殺されなかった。人殺しに加担したんだ。
倉沢さん。変な客だった。俺が下積みしている店にずっと通い詰めていた客。彼は、俺が店を持ちたいと言っていることをどこかで聞いたらしく、ある日札束を持ってきて「開店費用の足しにしろ」とぼそっと言った。
「そ、そんな、何もしてないのにもらえません」
「汚い金じゃない」
「でも……」
「店できたら教えてくれ、通うから」
ヤクザなのは知っていた。けれど彼が店で騒ぎを起こすことは一度たりともなかったし、彼が通うのはむしろチンピラよけになるくらいだった。彼のおかげで、自分の店が持てたようなものなのに。
彼を殺して36年、ずっとバレることを恐れていた。36年後、倉沢さんのことを話す客が来た。
36年前だ。時効だ。でも倉沢さんのことを知る客がいた。
何をされるんだ? あの客は、いったい何者だったんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます