おいしいものは分け合いたい

 南さんに会いに行っていた千歳が、しょぼしょぼして帰ってきた。


『南さんに隠せなかったよぉー!』

「どうしたの」


 話を聞くに、狭山さんの話を聞いたせいで千歳の様子がおかしくて、それを変に思った南さんにあれこれ聞かれて、金谷司さんのことを話さざるを得なかったと言う。うーん、自分から話したわけじゃないならギリセーフかな、あんまり褒められたことではないけど。南さんも千歳が変な様子だったら、仕事的な意味で理由を知らなきゃいけないわけだし……。


「まあ、その、あんまりいい対応じゃなかったけど、千歳も自分からべらべら喋ったわけじゃないからね」

『うん……』

「南さんもそんなに軽々しく話広める人じゃないだろうから、今後気をつけるということで」

『うん……あと、ワシの最近のこと話したら、南さんなんかすごくニコニコしてて、お菓子いっぱいもらっちゃったんだけどよかったのかな』


 千歳は、玄関先に置いてある六花亭の袋を指差した。


「ありゃ、かぶっちゃったな」

『かぶった?』

「その、俺も同じところの取り寄せてて……」


 千歳がいない間に、千歳にあげたいお菓子詰め合わせが届いたのだ。

 俺は、六花亭のお菓子詰め合わせを千歳に差し出した。

『まあ、千歳最近いろいろ頑張ってるから、何かあげようと思ってて、評判いいところのを買いまして』


 千歳は目をまん丸くした。


『ええっ、こんなにもらっていいのか!?』

「お札に念込めるのも大変だろ、これ食べてがんばりな」

『が……がんばる!』


 千歳は、感激してお菓子詰め合わせを受け取った。


「いろいろあるけど、仕事はきっちりやったほうがいいからね」

『うん!』


 千歳は頷き、お菓子の詰め合わせに目を落とした。


『お前のお菓子、中見てもいいか?』

「どうぞどうぞ」


 千歳はお菓子の包装を剥がし、箱を開けて、マルセイバターサンドだのクッキーだのを嬉しそうに見始めた。


『あ、このキャラメルなら大丈夫かも』

「何?」


 千歳はマルセイキャラメルの袋を手に取り、俺を見て笑った。


『このキャラメルならそんなに油っぽくないから、おやつで一緒に食べよう!』

「えっ、千歳全部食べていいんだよ?」

『お前もたまには既製品食っていいだろ、絶対うまいぞ』

「あ、ありがとう」


 俺は戸惑ったが、少し遅れて、おいしいものを分け合うってよくある親愛の表し方だよな、と気づいた。そうか、千歳は俺とおいしいものを分け合ってくれるんだな。

 バカだなー俺、千歳が親愛を示してくれるなら、それは絶対に受け取らなきゃいけないよな。

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