番外編 朝霧緑の洞察

 千歳ちゃんにまた術式に念を込めてもらうことになったので、近況を聞きがてらいつもの喫茶店で会った。


「どう、最近?」

『最近……和泉にめっちゃ怒られた』


 千歳ちゃんはしょぼんとした。


「え、どうしたの?」

『でも和泉に好きな人がいるってわかった!』

「ど、どういう流れで……?」


 詳しく話を聞き、そりゃ和泉さんは千歳ちゃんのこと叱るわ、と思ったけど、和泉さんの好きな人、というのはある程度察しがついた。うん、そりゃねえ、千歳ちゃんはまだちょっと子供だし、恋愛もよくわかってなさそうだから言えないわねえ。


「まあ、和泉さんは言いたくないわけだから、あんまり詮索しないほうがいいと思うわ」

『でも、ワシが大人になったら気づくって』


 そこまで言われてわかってないのかい。


「うん……まあ、その、大人になるの頑張って」

『がんばる』

「それでね」


 私は封筒に入れた御札の束を出した。


「これ、今回念を込めてもらう術式。全部で50枚」

『うん』


 千歳ちゃんは封筒を受け取り、ふと心細げというか、不安そうな顔になった。


『これ、また和泉になんかあるとかじゃないよな……?』

「違う違う! 今度はぜんぜん違うから!」


 そっかー、和泉さんが死ぬかもってこと隠してたの、仕方ないことだったけどよっぽどショックだったのか……。千歳ちゃんにとって和泉さんはやっぱり大きい存在なのよねえ。


「えっと、本当に違うし、今からちゃんと説明します。これ、霊的な気配を感知しやすくする術の御札。見てみて」

『うん』


 千歳ちゃんは封筒から御札の束を取り出し、『本当だ』と言った。


「何に使うかって言うと、和束ハル探しに使うのよ。少ない気配を感知できる人ってどうしても限られるから、御札で感知力を底上げした人も動員して、もっと念入りに探すの」

『そっかあ』

「今回は本当に、和泉さんは全然大丈夫。でも、和束ハルは何するかわからないから、こないだの和泉さんみたいな人を出さないために、このお札を使うの」


 和泉さんの名前を出したら、千歳ちゃんの顔がスッと真剣になった。


『わかった、ワシがんばる!』


 うん、千歳ちゃんにとって、和泉さんの存在は本当に大きい。和泉さんが変な人なら大変なことになってたけど、まともな人で本当によかった。

 ……いや、まともな人だから千歳ちゃんがこんなに懐いてるのかな。うーん、卵が先か鶏が先かって話になっちゃうけど、千歳ちゃんには和泉さんと普通に生活してて欲しいのは確かだ。

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