そばにいられればそれでいい

 おっくんが会社の経費で奢ってくれるとのことで、狭山さんを交えて打ち合わせ後、飲みをしている。三人で近況を話し合ううちに、おっくんはほろ酔いになって、仕事では俺に敬語で話す約束が抜けてしまった。


「えー、それで千歳さんにバレちゃったのー?」

「いや、その、好きな人が千歳本人であることはバレてない」


 狭山さんが苦笑いした。


「まあ、そこまで言ってるのに千歳さんが全く思い当たらないことが和泉さんの悩みですからねえ」

「まあ、一言で言えばそうなんですよね……」


 俺はジンライムを煽った。


「千歳は自分がもっと大人になれば教えてもらえると思い込んでて……千歳が大人になってくれたらそれは嬉しいんですけど、大人でも恋愛興味ない人いるし、あんまり期待しないほうがいいのかなと」


 狭山さんは首を傾げた。


「千歳さん、恋愛興味ないのに僕の小説読んでて楽しいんです?」

「人がやってるところを見るのは楽しいみたいなんですよ、でも「自分でやるのは興味ないの?」って聞いてみたら、全然わかんない顔されて。まあ、スポーツ観戦とスポーツやるのとは違うから、そんなもんかなと思うんですけど」

「ははあ、なるほど」


 おっくんが俺の肩を叩いた。


「言っちゃいなって! 意識してもらわなきゃ始まらないよ!」

「うーん、それをやるには千歳はまだ子供だからねえ……」


 二重の障壁があるのだ、千歳が子供ということと、千歳が自分で恋愛やるのをさっぱりわかってないというのと。


「じゃ、大人になったら言うの?」

「千歳が大人になって、色恋を自分でやりそうになったら言うかも」

「その時、千歳さんが他の人を好きになっちゃってたらどうすんのさ」

「千歳の意向を尊重するよ」

「かぁーっ!」


 おっくんは背中を背もたれに預けてそっくり返った。


「ちょっと無欲すぎない!?」

「俺は千歳が幸せそうにしてるのを見るのが幸せなんだよ」

「まあ、そう言う愛もあるけどさあ」


 おっくんは不服そうだったが、狭山さんに「でもそういうところが和泉さんのいいところでしょ」と言われて「それはそうですね」と頷いていた。な、なんか褒められたのかな俺……。


「和泉さんがそう言う愛を注いでるから、千歳さん荒ぶることもなく幸せに暮らしてるんでしょう」

「そうだったらいいんですけど」


 まあ……俺は千歳に優しくはしているかな。あんまり甘やかすのもよくないと思うけど、千歳が喜ぶなら何でもしてあげたい気持ちになっちゃうからな。

 千歳に優しくしてあげられて、千歳が幸せにしている、そんな生活を送れれば、とりあえずはそれでいいのかな。

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