相手の狙いがわからない 上

「千歳さんには、私どものところで暮らしていただけないかと思いまして。そうしたら、家事炊事、やる必要ありませんし、楽に暮らしていただけますよ」

凝った内装の懐石料理屋。彩りよく品よく盛られた料理。そんな場で、峰家の人に言われたのは、そう言うことだった。

峰家の長男だという峰朝日さんと、峰家の当主だという父親の峰伊吹さんが会食の相手だ。千歳と二人で行き、あいさつし合って、料理も出て場が出来た時にそう言われた。

千歳(女子中学生のすがた)(制服)は目をぱちくりした。

『ワシ? こいつの縁談じゃないのか?』

千歳は俺を指さした。朝日さんはにこやかに言った。

「もちろんそのお話も用意してあります。千歳さんが望んでいるのは、和泉さまが結婚して子孫を残すことと伺っておりまして。和泉さまに何件かお見合いの話を持っていきますし、和泉さまの生活の援助もしますので、その代わりに千歳さんに私どものところで暮らしていただけませんか?」

伊吹さんが言い添えた。

「千歳さんには、できるだけのいい暮らしを約束させていただきます。衣食住すべて面倒を見させていただきますし、護符や組紐をたまに作っていただければ、毎月十分な報酬をお渡しします」

す、すごくいい条件だけど、え、うまい話すぎない?

千歳もそう思ったようだった。

『でも、ワシそんなによくしてもらう理由ないし。ワシ、こいつに縁談くれるだけで十分だ』

朝日さんは笑みを深くした。

「千歳さんと仲良くしたい家は本当に多いのですよ。千歳さんは金谷家や朝霧緑さんとばかり仲が良いので、嫉妬してしまうほどです」

『……?』

千歳は面食らった顔になり、俺は遅ればせながら朝日さんの狙いに気づいた。そうか、千歳の存在と価値は俺たちが思ってる以上に大きくて、千歳のことはいろんな家どうしでの取り合いなのか!

俺はフォローしようと、あわてて千歳に話しかけた。

「えっと、千歳は別に金谷家の人と緑さんとだけしか仲良くしないってわけじゃないよね。仲良くなれるなら、他の家の人とも仲良くなりたいよね?」

『う、うん。あ、そうだ、言い忘れてた、ワシに仕込まれてたトゲのこと調べてくれたの峰家なんだよな、ありがとうございます!』

千歳は峰父子にぴょこんと頭を下げた。伊吹さんはやや意外そうな顔になり、そしてあわてて千歳に頭を下げ返した。

「では、その、私どもとも親しく交流をしていただけますと、大変ありがたいのですが」

『えっと、友だちになってほしいって言うなら、なる!』

「それでは、今後もやりとりなどを……」

わずかながら、素直に嬉しそうに表情を和らげた伊吹さんを、なぜか朝日さんが遮った。

「いえ、私どもは千歳さんと強い結びつきがほしいので、やはり私どものところで暮らしていただけませんか? 代わりに、和泉さまの生活の援助と結婚の世話はさせていただきますので」

ん? 峰父子、やりたいことにちょっと相違があるのか?

伊吹さんはやや戸惑ったが、別に反対ではないようだった。

「そうですね、千歳さんに私どものところにおいで頂ければ、それはとても嬉しいのですが」

『んー、でも、そんなに世話になるわけにもいかないし。あ、護符とかいるなら、それはなるべく作るぞ』

「え、作っていただけるのですか!?」

伊吹さんは、明らかに嬉しそうな顔になった。

『今、緑さんに組紐十本頼まれてるから、それの合間にちょっとずつだけど』

「いや、それだけで大変ありがたいです!」

伊吹さんはニコニコ頷いた。うーん、峰家の本音は、千歳とのつながりを作りたい、千歳が作る利益を得たい、って感じみたいだから、峰家はこれで目的達成かな? 俺の見合い話とか、発生する前に流れる感じかな?

そう思ったんだけど、朝日さんが、静かな声で言った。

「いえ、私は千歳さんに私どものところに来ていただきたいのです。それと引き換えに、和泉豊さまの結婚と子孫存続を約束いたします。どうか、私どものところで暮らしていただけませんか?」

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