あなたをなんとか助けたい

千歳、千歳は、そりゃ悪いことをした、九さんが報いを受けさせたいと思って当然だと思う、でも、千歳に、そんな苦痛受けさせたくない!

「や、やめてください、お願いです……」

俺は必死に哀願したが、九さんは、ふっと笑うだけだった。

「まあ、お主も大事な怨霊が苦しむところは見たくないだろうからの、しばらく寝かせてといてやろう」

九さんは、俺の頭の上に手をかざしたが、特に何も起きなかった。「…………?」と、九さんは首を傾げた。

「……あの怨霊、お前に何かしたようじゃの。お前の意識を直接どうこうするのは、難しいようじゃ」

「!」

千歳のくれた松の五芒星を思い出す。あれ、外に出る時はなるべく身に着けとこうと思ったから、今、財布ごと尻ポケットに入ってる。あれ、ちゃんとお守りになってたんだ!

いや、でも、俺が守られててもしょうがないんだよ! 九さんは俺を傷つけるつもりなくて、千歳に二十九人分の痛みをぶつけたいんだから!

なんか……なんか手はないか、お守りでもうちょっと何かできないか!? 武器なんだろ!?

俺の腕は胴体ごと鳥居に縛られている。でも、必死でもぞもぞしたら、体の後ろに手をやることができて、尻ポケットの財布に触れられた。二つ折りの財布なので、頑張れば指先で五芒星が挟んである診察券ケースを引き出せる。指先の感覚をたよりに、ケースをなんとか探り当てた。

「まあ、無駄に暴れるな。見たくないなら目をつぶっておれ。多分、怨霊はそろそろ来る」

そ、そんな……。

それでも、直接お守りに触れたらなにかできないかと思って、指先で診察券ケースを半分引き出して中身に触れる。紙の角とは違う、とがった感触。これだ!

その時、『おい!!』と大声がした。

黒い一反木綿の千歳が、鳥居の横の大樹、木の洞だか空間の裂け目だかをこじあけて、俺に呼びかけていた。

九さんが、「ふふ」と笑みを漏らした。

「来たのう、場所も時間もばっちりじゃ」

『この野郎! 返せ! そいつを返せ! そいつはワシのだ!!』

千歳は怒り心頭に発して怒鳴り、空間の裂け目から下半身をすぽんと抜いた。

その瞬間、四方八方から紙垂の付いた注連縄が千歳に襲いかかった。注連縄は、あっという間に千歳を大樹に縛り付けてしまった。

九さんは「こんなにきれいに罠に掛かるとはの」とつぶやいた。

「お主、割と単純じゃな?」

『この野郎! 返せ! そいつを返せ!!』

千歳は木に縛られながら精一杯暴れたが、木が揺れて梢がザワザワするだけだった。

「もちろん返してやる、妾が用があるのは、お主じゃからの」

九さんは千歳のところへ歩き出した。俺はお守りを指先で挟み、なんとかできないかともがいた。

ぶつり、という感触が体に伝わった。俺の体を縛るふわふわが、少しだけ緩んでいた。

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