第二章
第4話 浮遊機械都市キュービック ①
まずは艦の構造を理解しようとマップを片手に散策してみる。ヒデとドクターはそれぞれで独自にシステムの理解に励んでいる。
とりあえず艦橋付近は終わったところだ。艦橋は艦の中心なだけあってか特に頑丈な作りになっているらしく、他と比べて隔壁が分厚い。
ブリッジのあるデッキの隣が士官達の部屋になっている。
「艦長室は…………ここか」
意外な事に艦長室は他の士官室と同じ間取りでこれといって威厳のある部屋ではなかった。中に入ってみる。
部屋には寝るためのウォーターカプセル(彼等の種族は水の中に入ることで安息を得られるらしい)、それから机と椅子、これは地球やアルファースで使っているのと同じ形状をしていた。
よくわからない機械もある。あとで副長に聞いたら音響機器らしく、前艦長は音楽鑑賞が趣味だったらしい。音楽という文化があるとわかり、リオは内心ホッとした。
「これは、模型か。結構インドアな人だったんだな」
生きている時に出会えたら仲良くなれたかもしれない。
「コンシェルジュ」
「はい艦長」
間髪入れずにコンシェルジュが現れた。
「ここにある前艦長の私物、それから他のかつていたクルーの私物を一箇所にまとめておいてくれ」
「かしこまりました」
「できれば個人毎にまとめて、タグをつけておいてほしい。遺族へ返そうと思うんだ」
「保管庫にまとめておきます、他にはありますか?」
「あぁ……机と椅子、ソファは残しておいて……あとウォーターカプセルも撤去してベッドを置いてほしい」
「かしこまりました」
「あと艦長やクルーの日記や手記があればそれも見せてほしい。なるべく情報が欲しいからな」
とりあえずこんなものだろう。他に必要なものがあるとすれば、それはおいおい考えていこう。
もういいかと思った矢先、大事な事を聞いてなかった事を思い出した。
「それと、この艦のヒミツについて教えてほしい」
この艦は何かを抱えている。それはコンシェルジュも認めていたし、それがこれから旅をする上で必ず知る必要のあるものだという事をリオの勘が告げていた。
「残念ですが、それはできません」
「どうしてだ?」
「ヒミツには艦長権限とは別にセキュリティが掛けられております。それを解除するにはまた別の条件を必要とします」
「その条件とは?」
「まだ話せません、ですが直ぐに知る事ができるでしょう」
「ふーん」
少々腑に落ちないところはあるが、まだまだ知るべき事が多いため今はいいだろう。例えば彼等の本拠地へのコース、例えば彼等が所属する組織、例えばこの艦のシステム、例えばベクターについてなど。
まだまだ分からない事ばかりだ。
「ブリッジから近いこの部屋を俺の部屋として使わせてもらうよ、ヒデさんとドクターには後で好きな部屋を選んでもらうように言っておいてくれ」
「了解しました」
「じゃあ俺は艦の探索に戻る」
艦長室を出て通路を歩く、デッキ毎の特徴を大まかに掴みながら前部デッキから後部デッキへ。全長七〇〇メートルもあるだけあって歩くだけでかなりの運動になる。
散歩するだけで運動不足の心配はなくなりそうだ。
「後部デッキはほとんど機関室か……でかいなあ、やっぱり人手が足りないなあ」
本来なら最低四十人でフル稼働させる事ができるらしく、更に三倍以上のクルーを用意してシフトを組むことで効率良くまわしているのだそうだ、最低人数の十分の一しかいない今の状況では動かす事だけで精一杯だ。
人手の補充も可能なら進めていきたいところだ。
「まっ、とりあえずやれる所から始めるか」
今考えても仕方ない事は考えない事にする。
静かで寂しい通路を、リオは自分の靴の音を響かせながら歩く。不思議と靴音がいつも以上に耳に残っていくのが不快で仕方なかった。
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