第10話 そんな都合よく
「暇だ」
湊斗はボソッとそう呟く。
汽車に乗って2日。
最初こそ、異世界の景色を堪能していたが、基本的には山ばかりで、特段大きな変化があるわけではないため、直ぐに飽きてしまったのだ。
「でしたら、クラスの皆様へ送る守護札を作るのを手伝ってくださっても良いのですよ?」
「俺が守護札作れないの分かってて言うの止めてもらっていいっすか?」
「ふふ。そうでしたね」
「......なんで嬉しそうなんだよ」
「世界最強の魔術師様にも出来ないことはあるんだなーと思いましてね」
「俺を神か何かと勘違いしてないか?」
湊斗は並大抵のことなら平然とやってのけるが、唯一出来ないことがある。それは霊符を作ることだ。
霊符とは、この世の存在ではない怪異や異界の存在、現世では通常顕現できない神霊の力を借りて作る護符のことだ。
守護札は護符の中で最も有名なもので、とある神霊の力を借りることで作ることができる。
しかし、何故だか分からないが湊斗は神霊を呼ぶことができない。そのため、その力を借りることが出来ないので守護札を作ることができないのだ。
無論、神霊の力を借りずとも強固な護符を作ることは出来るが、呪いの対策としては、霊体である神霊の力を借りる方が手っ取り早く、確実なのだ。
「こんなことなら本でも買っておけばよかったな」
「まあ、そう言わなでくださいよ。自然を楽しむって言うのも、案外悪くないですよ」
「俺は花より団子タイプなんだ。本に書いてたドラゴンでも出てきてくれれば退屈凌ぎになるんだが」
「またまた、そんな都合よくドラゴンと遭遇するなんて......」
葵衣が湊斗の言葉を否定しかけたその時、キィィィと音をたてて、汽車が急停車する。
そして、車掌と思われる人が大声で何か叫びながら通路を急足で歩いてきていた。
「乗客の皆様にご連絡です。現在、当車両前方にに
湊斗と葵衣は思わず顔を見合わせた。
「まさか本当に現れるとは。とんでも無い豪運(?)ですね」
「俺が一番驚いているよ」
「はあ。ひとまず守護札を作るのは辞めた方が良さそうですね」
「そうだな。図書館に置いてあった本に載っていたやつだと思う。2000年以上前からこの大陸に存在する古代種で、暗い所を好むとか。魔力に敏感で、魔法、魔術を使うと興奮状態になって襲ってくるらしい。記録上最も大きい個体は20m以上の巨体で、都市を全壊させる被害をもたらしたことがあるらしいぞ」
「なんだか怖い生き物ですね」
「こっちから手を出さない限り何もしてこないらしいから大丈夫だろ」
「そうですよね。普通の人はそんな竜に攻撃したりしませんよね」
「ちょっと気になるし、透視で様子見てみる?」
「魔術を使ってはいけないって言われたばかりですけど大丈夫ですか?」
「そうだった。......はあ。せっかく天然の竜が拝めると思ったのに。おそらく魔力漏れをなくせば使っても問題ないと思うんだが、確証がない以上はやめておいた方がいいな」
竜を見る機会を失ったことに少し落胆湊斗であった。
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