インターハイ予選

 中間テストも無事に終わった5月下旬のある日、昼ご飯をはるちゃんと食べていると、

「蒼ちゃん、今度の土曜日バレー部の試合があるけど、応援に来ない?多分、私も出番あると思うよ。」

「この前みたいに、涼ちゃんと一緒に行くね。いよいよ最後の大会だね。頑張ってね。」

 学食から帰ってきた涼ちゃんに試合を見に行くことを伝えると、涼ちゃんも理恵ちゃんから見にきてと言われていたらしい。


 試合当日、試合開始の10時にあわせて体育館に入る。スタンド席に行くとベンチ入りできなかった1、2年生がいて、その中に夏美ちゃんもいた。蒼たちの姿に気づくと手を振ってくれた。

「夏美、知り合い?」

「お姉ちゃんと東野先輩の彼氏。」

「西野先輩と東野先輩、ハクジョ男子と付き合ってるんだ。」

 夏美ちゃんと他の部員の会話が聞こえてくる。改めて彼氏と言われると照れてしまう。でも、ハクジョ男子と付き合っていると、はるちゃんも変な目で見られないか心配になってしまう。

 理恵ちゃんと涼ちゃんなら気にしないと思うが、蒼はまだ心のどこかにハクジョ男子であることの引け目を感じるし、はるちゃんも彼氏がハクジョ男子であることを気にしている感じがある。


 試合前のウォーミングアップではるちゃんたちがコートに入ってきた。蒼が手を振ると、はるちゃんも手を振ってくれた。

 ウォーミングアップも終わりベンチで戻ったはるちゃんは、蒼がプレゼントしたタオルで汗を拭いた。プレゼントしたものが実際に使われていると嬉しくなる。

 はるちゃんは他の選手とは違うユニフォームを着ている。リベロという守備専門のポジションになったと聞いている。攻撃力では他のメンバーに劣るので、秋以降守備力に磨きをかけてつかんだポジションだと、はるちゃんは嬉しそうに言っていた。

 

 試合が始まり、涼ちゃんは理恵ちゃんが活躍するたびに喜んでいる。はるちゃんの出番はまだなので、ちょっとうらやましく感じる。自分自身の事ではないのに、なぜか引け目を感じてしまうのはなぜだろう。

 試合が進み、はるちゃんがメンバーチェンジでコートに入る。リベロらしく相手のスパイクをレシーブしたり、ブロックではじかれたボールを懸命に拾いコートに返したりと、 攻撃参加しないので派手さはないが素人目にもはるちゃんの活躍がわかる。

 2セット目も同点の中盤に起用されて、的確なサーブレシーブから得点につなげて連続得点への流れを作った。はるちゃんから理恵ちゃんに上手くボールがつながると、涼ちゃんと一緒に喜べて嬉しい。

 試合もそのままセットカウント2対0で勝ち、スタンドから拍手で勝利をたたえた。


 試合後の反省会と着替えを終えたはるちゃんと理恵ちゃんと合流した。

「応援ありがと。この前来た時は負けたけど、今日は勝てて良かった。」

 理恵ちゃんが嬉しそうにいった。

「はるちゃんのレシーブよかったよ。」

 蒼がはるちゃんの活躍をほめると、はるちゃんは照れた笑顔を見せた。

「また来週も試合があるから、応援に来てね。」

「絶対に行くよ。今度も勝ってね。」

 そんなことを話していると、男子高校生の集団が体育館に近づいてきたのが見えた。みんな身長が高いので、バレー部で午後から男子の試合があるみたいだ。

 その集団で一人の男子生徒が、蒼たちをみて近づいてきた。


「西野さん、覚えてる?中学で一緒だった金本。西野さんも試合だったの?中学のころとは変わったね。」

「金本君、久しぶり。高校になって髪を伸ばすようにしたから、ちょっとイメージ変わったかな。男子はこれから試合?金本君も出るの?」

「ようやく最近出させてもらうようになったよ。」

 そんな感じで、はるちゃんと金本君という男子生徒が仲良く話している。金本君のジャージは、蒼でも知っている男子バレーの強豪校だ。


「じゃ、試合あるから。」

と言って、金本君は他の部員のところへと走っていた。他の部員から、

「試合前にナンパか?余裕だな。」

「ちがうよ。中学の同級生と偶然会ったから話しただけだよ。」

と金本君が冷やかされている会話が聞こえてきた。


 金本君が体育館に入るのを見届けた後、はるちゃんと一緒に帰りながら先ほどの金本君のことを聞いてみた。

「中学の時の同級生だよ。男子バレー部のエースで、強豪校に推薦で入って、うちの中学ではヒーローだった人。」

 はるちゃんはそれ以上は語らなかったが、はるちゃんの視線から単なる同級生ではないことぐらいは蒼にも分かった。そのあとはるちゃんは、

「蒼ちゃん、応援に来てくれて嬉しかった。ありがとう。」

と言ってくれたが何かを隠している様子だった。

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