体育会本番

 体育祭当日の朝、更衣室で体操服に着替えた後教室に入ると、みんなスマホで記念撮影をしていた。

「おはよう、理恵ちゃん。その髪型かわいいね。」

 理恵ちゃんはいつものポニーテールだが、サイドを編み込みしてあって、いつもと違った雰囲気になっている。

「蒼ちゃん、おはよう。せっかくの体育祭だから、蒼ちゃんも可愛くしようよ。」

 そう言って、理恵ちゃんは蒼の髪をセットし始めた。セットしてもらっている間周りを見てみると、みんないつもと違う髪型にしてある。体育祭を見に他校の高校生もくるので、みんな気合が入っているみたいだ。

「ほら、できたよ。」

「ありがとう。」

 蒼はお礼を言いながら、手鏡で見てみると、編み込みのハーフアップしてくれた。

「蒼ちゃん、かわいい。私とお揃いだね。」

 はるちゃんが、自分の髪を見せながら言った。理恵ちゃんの方を見ると、いたずらした子供のような笑みを浮かべていた。


 体育祭が始まると、蒼たち男子生徒は競技に参加せず、玉入れの籠をもったり、大縄跳びの大縄を回したりと裏方の仕事に専念していた。男子が入ると競技のバランスが崩れるため仕方ない。その分裏方としてだがいろんな競技に参加できて、みんなと一緒に盛り上がることができて楽しくはある。

 次の障害物競走の設営に備えて舞台裏で待機中、本田さんに話しかけてみる。

「下田さんもチアガールなんだね。この前会ったけど、かわいくなってたね。」

「本番で着る衣装の写真も見せてもらったけど、かわいかったから今日のチアダンス楽しみ。」

「下田さんも、見てもらいたいって言ってたよ。二人とも順調そうだね。」

「そうなんだけど、チアダンスの練習で他の女子と仲良くなったんで、ちょっと心配。もし他の女子が下田さんを好きになったら、どうしようかな。」

「大丈夫だよ。下田さんは本田さんの事、大事に思っているみたいだし。」

「でも、私たちっていわば偽物女子だよね。いくら努力しても本物の女子にはかなわないから、下田さんも女子と付き合えるなら、女子と付き合いそうな気がする。」

 蒼は「杞憂だよ。」と言ってあげたかったが、言えずに黙ってしまった。

 若干引け目のあるハクジョ男子に比べ、理恵ちゃんをはじめ一部の女子は、自分が振られるなんて夢にも思っていないほど自信に満ち溢れている。そんな女子に積極的に迫られたら、断るのは難しいことは蒼もよく分かっている。

「そうだね。」

 黙ったままも悪いので、曖昧な返事で言葉を濁してしまった。

 

 その後競技も順調に進み昼休憩となり、午後最初のプログラムであるチアダンスの準備に入る。

 更衣室に入るとすでに下田さんが着替え始めていた。

「こんにちは。黄色ブロックの衣装かわいいね。本田さんも似合っているって言ってたよ。」

 蒼が言うと、下田さんは照れた表情を浮かべた。

「ありがとうございます。」

「下田さん、小柄で顔もかわいいから、本当に女の子みたいで羨ましい。」

「中学までは嫌だったんですけど、この高校にきて自分に似合う服着れるようになって良かったです。女子もみんな優しいし、今度チアダンスで仲良くなった女子と遊びに行く約束もしました。」

 蒼はちょっと心配になったが、

「良かったね。」

とだけ言って、赤ブロックの集合場所へと向かった。


 集合場所について、リーダーの坂本さんから最終確認があったあと後、円陣を組んで気合を入れて、整列した。

 いよいよ本番が迫ってきた。緊張感が高まり、心臓の鼓動も速くなっているのが、自分でもわかる。

「続きまして、赤ブロックの演技です。」 

のアナウンスが流れ、入場を始める。

 最初に全員集合した状態から、音楽を開始の合図として4列縦隊のフォーメンションに移動して演技を始める。あとは何度も練習してきたとおりに演技を続ける。

 無我夢中に踊り続け、気づけば4分半の演技が終わってフィニッシュのポーズをとっていた。


 退場して舞台袖にはけた後、みんなで成功の喜びを分かち合った。涼ちゃんと「無事に終わったね。」と喜んでいると、坂本さんが近づいてきた。

 蒼は目立ったミスはなかったと思っていたが、坂本さんからするとミスがあったので怒られると思い身構えてしまう。

「森田さん、お疲れ。いい演技だったよ。」

「ありがとう。」

「あと森田さんに謝らないといけないことがあるの。」

 坂本さんは、蒼にきつく当たっていた理由を話してくれた。練習に緊張感を持たせるために誰かに厳しくする必要があったこと、一番下手だった蒼が上手くなればみんなも上手くならないといけないと思ってくれると考えたこと、男子の蒼だったら厳しくしても大丈夫だろうと思ったこと、坂本さんは半分泣きながら説明してくれた。

「でも坂本さんのおかげで、みんなと練習できて楽しかったよ。」

 蒼が言った後、坂本さんは涙を拭いて、

「みんな、まだ合同演技があるから気をぬかないで。」

 いつもの坂本さんに戻った。


 ブロック対抗リレーでの合同演技も終わり、チアの衣装を着替えに教室に戻っていると、みんなは、他校の高校生と記念撮影していた。

 その中に山村さんを見かけた。一緒に撮影している男子から、「だいぶん変わったね。」とか「チアとかやるタイプじゃなかったよね。」などと話しかけれているので、中学時代の知り合いなのかと思った。


 山村さんは蒼を見つけると、一緒に撮影していた男子生徒に「ちょっとごめん。」といって蒼の方に駆け寄ってきた。

「森田さん、お疲れ。」

「山村さん、練習に付き合ってくれてありがとう。おかげで本番ノーミスだったよ。一緒に写真撮ってたの、中学の時の友達?」

「友達って程絡んでなかったけど、同じクラスだった子。『中学のころから変わって、かわいくなったね。』って言われて、今度一緒に遊びに行こうって誘われちゃった。森田さんのおかげで、生まれ変わったみたい。」

「よかったね。彼、山村さんとまだ話したいみたいだから、早く戻った方がいいよ。」

「そうだね。森田さん、ありがとうね。」

 山村さんは嬉しそうに、男子のもとへと駆け出して行った。これで、山村さんに迫られることはなくなったと思う半面、あっさりと他の男子に乗り換えられたので、ちょっとショックだった。

 やっぱりハクジョ男子よりも普通の男子と付き合えるならそっちがいいよな。本田さんも下田さんのことを心配していたが、蒼もはるちゃんのことが心配になってきた。





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