第3話 アイス
「お待たせー」
お風呂上がりの美和子ちゃんが部屋に戻ってきた。
たまにもうめんどくさい、と濡髪のまま出てきたりするから、ヒモとしては見過ごせなくてよく乾かしてブローをしたりしてるけど、今日はしっかり乾かして来たんだね。
「彩那、着替えとか私のだけど出してあるから。下着はサイズが合わないから無いんだけど、どうする……? 紫音、後でちょっとお話しようね?」
「えっ……!?」
サイズが合わない、という言葉に思わず納得して頷いてしまったら美和子ちゃんに怒られた。いや、自分で言ってたし、平気で下着でウロウロするから知ってるだけじゃん……
「着替えごめんね、ありがとう。下着は、ちょっとコンビニ行ってくる」
「紫音、彩那と一緒に行ける?」
「すぐそこだし、大丈夫だよ」
「いいからいいから。はい、行ってらっしゃーい!」
一転してニヤニヤした美和子ちゃんに見送られて、すぐ近くのコンビニまで並んで歩く。
「付き合わせちゃってごめんね」
「いえいえ、全然。私もアイス食べたかったので……」
「アイスいいね! 夜に食べるのはちょっと罪悪感あるけど……私も買おうかな」
「買っちゃいましょ!!」
夜に食べるアイスって特に美味しく感じる。たまにはいいと思うんだ。
「あ、チョコミントのアイス出てる! 美和子ちゃんも同じで……彩那さんはどうします?」
「あー、じゃあ、これで」
コンビニについて、ルンルンでチョコミントのアイスをカゴに入れて彩那さんを見れば、ちょっと気まずそうにフルーツバーを指さした。チョコミントは好き嫌いが分かれるし、気にしなくていいのに。優しい人なんだな。
「紫音ちゃん、カゴ借りていい?」
「あ、はい」
アイスの入ったカゴを受け取って、彩那さんは日用品が並んでいる棚の方へ行ったから私は適当に商品を眺めることにした。同性だけど、今日会ったばっかりだし下着を選ぶところはちょっと、ね。
「紫音ちゃん、お待たせ」
「いえいえ、全然待ってな……あ、お会計……!」
「いいよいいよ。私の奢り。帰ろ」
「すみません……ありがとうございます」
カゴに入れていたアイスも一緒に買ってくれたみたいで既に会計が終わっていた。申し訳なさすぎる……
「美和子、アイス冷凍庫入れておくね」
「え、アイス? ありがとう!」
「チョコミントの新作出てたから買ってきたよ! あ、会計は彩那さんだけど……」
「うわ、楽しみ! 彩那ありがとうー!」
「いいえ。じゃあ、お風呂借ります」
「どーぞー」
彩那さんが部屋を出ると、ニヤニヤしながら美和子ちゃんがこっちを見てくる。やっぱり楽しんでるんだよなぁ……
「彩那、いいでしょ?」
「うん。優しい人だね」
「優しいし気配りもできるし、同期の中でもまとめ役だし、年上だけど気さくだし……あ、私の2つ上なんだけど」
「うん。彩那さんに聞いた」
「へぇー」
「ニヤニヤするのやめて?」
「あ、そういえば……彩那がもう男なんて要らない、でも1人は寂しいって飲み会で言ってたから、うちの同居人の女の子なんてどう、ってオススメしてたんだけど、何か言ってた?」
「……はい?」
え、どういうこと??
「紫音は私の可愛い妹みたいなもんだし……いや、どっちかと言うと弟寄り? まぁどっちでもいいか。辛そうでちょっと見てられなくて、誰かがそばで支えてあげられればな、って。しばらく家に来れば、って言ったけど断られたから紫音を送り込もうかな、って?」
「いやいやいや……」
あ、これは遠回しに出てけってことか?? 確かに、もう半年はお世話になってるし、私がいたら彼氏が出来ても連れてこられないし、これ以上は迷惑かけられないか。
1人であの家に住むのはまだ辛いからまた車かな……
「あ、違うよ? 出てけってことじゃないからね」
「……あ、違うの?」
私の表情から察してくれたのか、慌てて否定してくれた。
「違う違う。紫音は距離のとり方が上手だし、家事スキルも高くて一緒に生活しててもストレス無いからさ。ヒモって言いながらちゃんと働くし」
「働くヒモなのでっ!」
「それはもうヒモじゃないのよ」
居候? いや、でもやっぱりヒモだよね。
「彩那の事はいいなって思ってるんでしょ?」
「……うん」
「彩那は1人じゃなくなるし、紫音は気になる人に自分を見てもらえるチャンスだし、お互いにメリットがあるじゃん。私は紫音がいない間マイナスだけど、明日からちょうど研修じゃん? ちょうどいいなって思って」
ナイスタイミングだな、と1人納得している美和子ちゃんだけど、彩那さんはどう思ってるんだろ……
「あ。もし彩那の所に行くことになったとしても夜のお世話はいらないからね?」
「うん。それはもう分かってる」
「ならいいけど。戻ってきたら聞いてみよ」
美和子ちゃんに拾われた日、寝る、と言われたから一緒にベッドに入ってキスをしようとしたら思いっきり突き飛ばされたんだよね……
それまでのお姉さんはそうだったからてっきり美和子ちゃんも同じだと思っていて、混乱したのをよく覚えている。
戸惑う私を抱きしめてくれて、そのまま眠った夜はなんだか心が温かかった。
「そうだ。私布団で寝るから、彩那とベッドで寝たら? もちろん、手出しちゃダメね?」
出会った時を思い出して感動してたのに、台無しだよ……
「私はいつも通り布団で寝るから、彩那さんとベッドで寝てください」
「どーしよっかなー」
彩那さんと一緒に寝るとか、絶対眠れない。
「美和子、お風呂ありがとう」
「おかえりー。彩那、私と紫音のどっちと寝たい?」
「え?」
そりゃ、え? ってなりますよね。
「彩那さん、美和子ちゃんが言うことは気にしないでくださいね」
「えっと……? 誰が布団で寝るか、ってことだよね? 私が布団借りるから、2人でベッドで寝たら?」
「えー、それじゃつまんな「元々この布団は私用にって美和子ちゃんが用意してくれたやつなので、私がここで寝ます! おやすみなさい!!」えー!!」
お風呂上がりの彩那さんはメイクを落として幼くて、見ているだけでドキドキする。
着替えも、身長差があるからダボッとしていて萌える。ちなみに、私と美和子ちゃんはほぼ同じくらいの背丈だから、私の服を着てもらってもああなるんだな、と妄想してしまった。
美和子ちゃんが余計なことを言ったから余計に意識しちゃってあんまり見れなかったけど、綺麗な鎖骨とか、貴重なオフの姿をしっかり目に焼き付けた。
彩那さんにこれからの事を聞いてない、と気がついたのは寝る直前だった。
そしてアイスも食べてない……朝食べよ。
「紫音、おはよう」
「美和子ちゃん、おはよ」
「んー、2人とも起きてたんだ。おはよ」
「彩那、おはよう」
「彩那さん、おはようございます」
私と美和子ちゃんの話し声で彩那さんが起きて、笑顔を見せてくれた。ちょっとぼんやりしてて凄く可愛い。
もしも彩那さんのおうちにお邪魔することになったら、こんなに可愛い姿を見られるってことか……夜は美和子ちゃんがふざけるから結局話せなかったけど、どうなるんだろうか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます