第8話 乙女のスタートライン
ショーメア大聖堂は、レオナ礼拝堂。
この礼拝堂のある区画が聖女達の拠点となる。
エーテルでの買い物や武器強化、制圧したパワースポットへの
聖者達が荒野を旅する、何らかの巨大宗教画を頭上に頂いた教皇グロス・バルディ14世が告げる。
「昨夜の功績を評し、カレン・クレイを正式に“聖女”として認定する」
聖女“候補者”から、正式な聖女へ。
候補者とは「任せる為の信頼が足りない」状態と同義。
他の候補者を蹴落としてでも這い上がらなければ、自分が要職に選ばれる理由など無い。
地球の日本人・暮井
ノワール・ブーケのみならず、大聖堂へのアピールと言う戦いも、既に始まっていた。
初動で正ヒロイン・トリシアの足を引っ張った理由はここにもあった。
やはり、あの状況で放っておけば、最も武功を立てやすいのは彼女だったからだ。
助けたメイドに、殊更自分の名前を吹き込んだ理由も、同様。
マイルズ達ノワール・ブーケ幹部の目的は、教国中枢にある大聖堂を攻撃し、聖女達の出鼻をくじく事。戦力差を誇示する事による牽制と警告が目的であった。
それに対してたった一人で善戦し、
……レモリアに関しては、主に
ともかく、敵の襲撃作戦の意義を削いだ事は、戦略的に充分すぎる功績と言える。
この先もチャンスは無数にあるとは言え、大聖堂に対して功を立てねば、永遠に候補者のまま。聖女にはなれない。
「そなたに、聖女の証“教化のロザリオ”を授与する」
数珠を連ねたチェーンに十字架のついたそれが渡された。
聖女の認定を急いだ真の理由が、このロザリオ欲しさだった。
これで教国と教皇は、ほぼほぼ用済みとなる。
脇役は必要以上にでしゃばらない、すっきりとしたシナリオ構成も、Amazonレビューで評価されてたっけな……などと、彼女はぼんやり考えた。
「このロザリオは、異端者を教化し、改心を促す為の聖具である。
戦いで下し、生死の境に追い詰めたノワールの者どもを戒めれば、そなたの配下へと転じる事が出来るだろう」
つまり。
このロザリオがあって初めて、真の意味での“攻略”が始まるのだ。
ようやく“乙女ゲーム”の部分のスタートラインに立てた。
「また、これから益々の奮闘を期待して、魔法の指輪も授与致そう」
ロザリオのオマケに与えられたのは、親指の指輪だった。
ここで、魔法と指輪について説明しよう。
この世界の魔法の術式は、とても人間の脳で処理しきれる情報量ではない。
コンピュータのプログラム、そのソースコードのようなものだ。
膨大な術式を処理し、人間に使用可能な言語に変換する為のデバイスが、この魔法の指輪であった。
元祖死にゲーのソウルシリーズでも、会得した魔法全てを一度の探索で所持できるわけではない。
拠点で主人公の記憶力が許す限りの数だけ魔法をセットし、持ち出せるのだ。
この世界における魔法も、ソウルシリーズのそれとほぼ同じと思って良い。
言い換えれば、指輪とは“スロット”とも言える。
故に、5本指×2=10スロットが、いち個人が一度に保有できる魔法の限界容量である。
ただし。
全ての魔法が指輪ひとつに収まる容量であるとは限らない。
一部、上位魔法には、二つ以上の指輪を使う大容量のものもある。
昨夜、罪無き
なお、指輪への魔法のセットも専門技術が必要であり、これも執事に依頼する事となる。
逆説的に、バトラーとコンタクトが取れる場所でなければ、魔法の付け替えが出来ない事も意味する。
このバトラー、大体は拠点の礼拝堂に居るのだが、時々留守にしている事もあるので、注意が必要だった。
まあ、彼もカレンの為のしもべではあるが、結局の所いち個人である。四六時中、主人の都合だけでは動けないのは仕方がない。
聖女とは、日本のブラック経営者とは断じて違うのだから。
……バトラーの場合、正体が正体なので、プライベートで何をしているのかわかったものでも無いが、そこを詮索するのもパワハラに相当するので、触らない事にする。
どうせマイルズ様との恋路には無関係だ。
また、今回はカレンの装備状況を把握している教皇だったから配慮して貰えたが……これ以降の指輪は戦いの中での
つまり、両手の人差し指に指輪がある段階で、また人差し指の指輪を手に入れてしまう事も多々あると言う事だ。
指輪が揃うにつれて、新たに手に入れたそれがダブる可能性は高くなってゆく。
この無駄なハクスラ要素には、彼女も常々不満を抱いていたが……どこの世界でも現実は、ヒトの都合に合わせてはくれないのかも知れない。
純魔タイプや
さて、残る下準備は。
買い物、レベル上げと復活用エーテルの確保。
それが済み次第、レモリアの居る“燐光の沼地”を攻略だ。
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