第62話 塔の遺跡の力

 アランの剣がコスタスへ振り下ろされる直前に彼は口から血を吐き胸からは鮮血が飛び散る。


「魔族ばかりにいい所を持っていかれるわけにもいかんからな」


 トラヴィスがアランの背後から折れた刀の遺物で貫いていた。トラヴィスが貫いた刀をアランの体から引き抜くとアランは倒れて四つん這いになる。


「アラン……もうお仕舞いだ」


 ルークがアランへ語りかけるとアランは顔を上げてルークを見つめる。その目には未だに諦めた目をしていなかった。


「まだだ……。まだ終わらない」


 アランはよろよろと立ち上がる。立ち上がると同時に二本の剣が光る。そして塔の遺跡がある方角から凄まじい光と音が発せられる。ザスキアが塔の遺跡を起動しようとした時と既視感がある。


 アランの剣の光が大きくなり彼を包み込む。光が収まった時にはそこにアランの姿はなかった。


「アイツはどこへ行った?」


 トラヴィスが疑問の声を上げるとそこへザスキアが現れてトラヴィスの治療を始めた。


「おそらく塔の遺跡に向かったのでしょう。急がないととんでもない事になるでしょうね。ルーク、厳しいでしょうけど貴方しか今は動けないわお願いできるかしら」


 ザスキアはトラヴィスの治療をしながらそう言った。ザスキアの言う通りトラヴィスとマークは重症でこれ以上戦うのは難しいだろう。彼らが居なくても勝てるかはわからなかったがルークはザスキアの言葉に頷いた。


「私も行くわ」


 あまりダメージを負っていないエリザベスが声を上げた。ルークはエリザベスの方を見ると彼女と目が合う。そして、お互いに頷き合い塔の遺跡に向かい駆け出す。


「頼んだぞ」


 トラヴィスのその言葉を背に急いで塔の遺跡へと向かった。

 塔の遺跡の道中特に誰とも会わずに塔の内部へと入る事ができた。内部にも人の気配はなくルーク達は螺旋階段を上へと目指して登り始める。






 最上階に到着したルークが目にしたのは球状の遺物に触れているアランの姿をであった。周りには見たこともない機械がアランを取り囲むように設置されていた。


「アラン!」


 ルークがアランの名前を叫ぶと彼はルークの方を向いた。額には大粒の汗をかき明らかに不調そうである。


「遅かったな。もう増幅は終わる……。そして俺の計画が本格的に始まる」


 ルークは塔の遺物を止めるために駆け出しアランに向けて剣を振り下ろす。振り下ろされた剣はアランの拳により受け止められ弾き飛ばされる。後方に大きく飛んだルークは体勢を整えてアランを見つめる。


「お前何をやったんだ……?」


 剣を拳で受け止められた事に驚いたルークはアランに問いかけた。


「俺の遺物の力を増幅させてさらに俺の体と融合させた。それによって先ほどまでより数段強くなっている」


 顔色が悪いアランがルークの問いに答えた。球状の遺物に付けていた手を離して歩いてルークの方へ近づいて行く。


 近づいてくるアランを警戒するルーク。しかし、瞬きをした一瞬のうちにアランを見失い横から悲鳴か聞こえて振り向くと隣に立っていたエリザベスの姿がなくなり代わりにアランが立っていた。


 アランが一瞬のうちにエリザベスへと近づき彼女を殴り飛ばしたのだった。壁へと激突したエリザベスは腹を押さえながら蠢いていた。


「エリザベス!」


 ルークが叫んだ瞬間、ルークの腹に強い衝撃が襲う。黒い鎧で守られていた腹部は鎧が砕け散りアランの拳がめり込む。ルークもエリザベス同様に吹き飛ばされ壁へと激突する。


 あまりの衝撃に意識を手放しかけるが何とか意識を保ちへたり込みながらアランを見つめる。アランの顔色は相変わらず悪くその場に膝をついていた。

よく見るとルーク達を殴った右手から血が流れている。


「まだ体が慣れていないか……。早めに決着をつけないとな」


 血を流しながら立ち上がったアランはゆっくりとルークの元へ歩いていく。ルークは剣を杖代わりにして何とか立ち上がる。足がガクガクと震えて立つのすらやっとであった。


「アラン! 何でそこまでするんだ!? お前の夢は世界を旅したかったはずだろ?」


 ルークの問いかけにたいしてアランの足が止まる。悔しそうな悲しそうな複雑な表情をアランが浮かべる。


「そうだな。外の世界を見たい。でも、無理なんだよだから俺は世界を壊す」


 アランは床を蹴りルークへと急接近する。その勢いのままルークへ拳を繰り出す。ルークは痛む体を無理に動かしてそれを剣で受け止める。剣と拳が衝突して拳の軌道が変わり壁へと衝突する。拳が当たった壁には大きな穴が空く。


 ルークは壁の穴を背にするのは不味いと考えて逃げるように塔の中央へと向かう。アランはそれを追いかけることは無く右手を抑えながらうずくまってしまう。


 アランは大量の汗をかきながら右手からは血が流れていた。他にも肩や腹からも血が流れているのか服をさらに真っ赤に染めていた。


「これ以上やったアランの体が持たないぞ!」


「ふふ。持つさ……持たせてみせる!」


 再び立ち上がったアランはルークに向けて駆け出してくる。そして、ルークへ攻撃を仕掛けてくるがどこか力強さはなかった。とは言え強力な攻撃である事は変わらなかった。


 ルークは避けることが精一杯であったものの何とか状況は拮抗する。

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