第38話 村の探索

 翌日、ルークは午前中は泊めてもらうお礼として家事の手伝いをして過ごし、午後から村の探索へと出かけた。エリザベスも午前中は手伝いをしていたがいつの間にか居なくなっていた。


 村を見回るついでに助けた子供の元へ行き子供の母のお見舞いをした。ベッドに寝ていたが顔色も良さそうであった。長居するのも悪いと思いルークはすぐにその家を後にした。


 それからしばらく村を見て回る。村を見た感想はルークの故郷とそれほど変わらないなということであった。住人の姿形は異なっていたが暮らしぶりに大きな差は感じなかった。


 一通り村を見終わったルークは見るものも無いなと思い村長宅へ帰ろかとした時森の方からアランがやってきた。


 アランとルークは目が合うとアランはルークの元へ駆け寄って来る。


「やぁ、ルーク。この村はどうだった?」


「のどかな村ですね」


「まぁ、何もない村だからな」


 自傷気味に笑いながらアランは答えた。笑い終わると真剣な表情をしてどこか遠くを見つめる。


「俺はこの村から出て行きたいんだ。外はハーフの迫害が強いのは知っているし戦争もしているのはわかってる。でも、広い世界を旅したいんだ」


「きっと、世界が平和になれば迫害も落ち着いて外の世界に行けますよ」


「そうだと良いな」


 アランは再び笑顔を作ると歩き出す。


「そろそろ夕飯の時間だから家へ戻ろう」


 歩き出したアランの後ろを着いてルークも歩き出す。


 村長宅に到着するとリビングには良い匂いを漂わせた食事が並べられていた。夕食の手伝いをしていたであろうエリザベスがキッチンから追加の料理を持ってやって来る。


「タイミングバッチリね」


 彼女の言う通りちょうど夕飯の準備が終わったところであった。ルークとアランは手を洗うとそれぞれの席へ着く。すでにエリザベスと村長、村長の娘は席に着いており残るはルークとアランのみであった。


 ルークとアランが席に着くと食事が始まる。食事が始まると村長が口を開いた。


「お主ら、この村に住んではどうだ?」


 村長の発言を聞いて食事の手が止まる。村長がどう言う考えでそう口にしたのかはわからないがルークはこの村で暮らす気はなかった。魔族を殺せば平和が来るという考えは変わりつつあるものの平和を目指しているルークにとってこの村で暮らすという選択肢は無かった。


 エリザベスもまたこの村で暮らす気は無いのか返事を濁して曖昧に村長の言葉を答える。村長は少し不服そうであったがそれ以上追求して来ることはなかった。






 食事も終わり、ルークは部屋へ戻り就寝の準備を始める。ふと、エリザベスが今日何をしていたのかルークは気になり聞いてみる事にする。


「エリザベスは今日何をしてたんだ?」


「村の住人達を見て回ってたわ」


「そうなのか。俺も見たが人類とそう変わらなかったな」


「そうね。魔族とも変わらないわ。それにこの村はハーフだけではなく純潔ぽい魔族と人類もいたわ。ある意味この村は理想郷かもね」


 純潔の魔族と人類がこの村に居た事に驚いてエリザベスの方を振り向く。彼女はルークのその行動に特に反応する事もなく話を続けた。


「世界中がこの村みたいになれば良いのにね」


「そうだな。でも、難しいと思うな」


 ルークの言葉を聞いて少し悲しそうな表情にエリザベスはなる。きっとこの村を見て彼女と同じ感想になる魔族も人類も少ないであろうとルークは思う。魔族も人類も血を流し過ぎて強く憎しみあっている。復讐をとげて頭が冷静になり、魔族にも良い奴がいる事を理解したルークだからこそそれが強くわかる。


 悲しい事だが憎しみを強く抱いている人に何を言ってもこの村の平和は理解されないだろう。


「それでも私はこんな平和を目指すわ。これ以上無癖な戦いはしたくないもの」


「俺もそれを応援するし、それが叶う様に努力するよ」


「ありがとう。ルークみたいな人ばかりだと良いのだけどね」


「その言葉そっくりそのまま返すよ」


 ルークがそういう時二人は同時に笑い合う。魔族とこんな和やかな時を過ごすなど少し前のルークには思いもよらなかっただろう。今でこそルークは魔族は人類と変わらないと思っているが前までは魔族は残虐非道の血の涙もない奴だと思っていた。


 過去のルークと同じような考えをしている人類は少なくないだろう。逆に魔族の多くも同じ事を考えているかもしれない。その溝を埋めるには並大抵の努力では不可能だろう。しかし、そこで諦めては平和など夢のまた夢である。


 ルークは遺物使いであるが人類の中で発言力があるわけでもない。それでも、少しでも人類と魔族の関係が変わるように何かをしたいと強く思った。


 就寝の準備も終わりベッドへと入りその何かを必死に考えたがそれが思いつく事もなくやがて眠りについてしまった。

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