第34話 脱出

 座ったまま眠っていたルークは固まった体を伸ばすため大きな背伸びを一度する。体が少し痛むが問題なく行動は出来そうであった。


「おはよう」


 ルークが起きた事に気がついたエリザベスは笑顔で挨拶をする。ルークもそれを聞いて「おはよう」と短く答える。


 ルーク達は準備を終えると今度は逆に川の上流を目指して歩き始める。


「お腹大丈夫?」


 歩きながらエリザベスはルークにたずねた。ルークは一瞬何の事かと思ったが昨日人形にやられた事だと気がつき脇腹を確認する。脇腹はもう痛みもなく火傷も治っていた。


「痛みもないし問題ない」


「なら良かったわ」


 二人は並び歩きながら言葉を交わした。少しだけ二人の距離は縮まっていた。


「それにしてもあの人形何だったんだろう?」


 昨日、一昨日と襲って来た人形が何者なのか疑問に感じていたらルークがそれを口にする。


「恐らく、遺物の一種でしょうね」


「自動で動く遺物なんて聞いた事ないぞ?」


 エリザベスの解答にルークは疑問を投げかける。今まで発見された遺物は全て遺物使いが居なければただの置物でしか無かった。自動で暴れ回る遺物など今まで発見どころか形跡すら見つかっていない。


「古代遺跡は分かってない事が多すぎるのよ。今まで見つかってないからと言って無いとは言い切れないわよ」


「確かに……」


 エリザベスの言葉に反論出来ずに納得するしか無かった。古代遺跡どころか遺物単体でも謎が多い古代の産物。実際ルークの持つ剣の遺物も謎が多く未だその全ては分かっていない。


「まぁ、今はそんな事を考えても仕方がないわ。どうせ専門家ではない私たちが考えたところで結論なんて出ないわけだし」


「魔族にも遺跡の専門家っているのか?」


「当たり前でしょ。私たちにとって一番の脅威を研究する人達が居ないわけないよ」


「それもそうか」


「ただし、人類ほど研究は進んで無いでしょうけどね。現に魔族には遺物使いどこらか遺物のサンプルすらないもの」


「そんな事を教えて良いのか?」


 ルークが質問するとエリザベスはルークの方を見て微笑む。ルークも彼女の微笑みに見慣れイラつきを覚える事は無かった。


「良いのよ。どうせ人類側もその程度わかってる事でしょうしね」


 軽い調子で二人は話しながら上流へと向かう。歩いて行くと小さな光が見える。


「運が良いわね。本当に外へ繋がってるわ」


 エリザベスがそう言うと歩くスピードを上げて光へと向かって行く。光は大きくなりやがて外へと出る事ができた。外は木々に囲まれた森の中であった。


 久しぶりの外の空気を吸うためルークは大きく深呼吸をする。隣を見るとエリザベスも背伸びをしながら空気を吸い込んでいた。


「やっぱり外の空気は美味しいわね!」


 満面の笑みを浮かべたるエリザベス。ルークも彼女の言葉に頷き口角が少し上がる。


「さてと、ここでお別れね」


 エリザベスの言葉を聞いてルークは再び真顔へと戻る。戦場でもし再び会えば殺し合いをしなければならないそう考えると少し憂鬱になる。


「何て顔してるのよ」


 エリザベスはそんなルークの心境を察してか背中を強く叩く。ルークは彼女の方を見ると変わらず笑顔を浮かべていた。


「私はルークと少しだけど分かり合えたと思ってるわ。だからきっと魔族と人類も分かり合えると思うの。次会う時は戦場ではなく平和な世界で会いましょう」


 エリザベスは懐から方位磁石と地図を取り出しておおよその場所を確認し魔族領へと歩いて行く。ルークも人類領の場所を確認してそこに向かい歩き始める。


 後ろを振り返り無防備に背中を見せるエリザベスを見つめるルーク。襲い掛かろうと思えば襲えたがそんな気は起こらなかった。再び前を向いて歩き始める。


 短い時間であったがルークの何かを変えた時間。そんな出来事を思い返しながら歩いていると何処からか叫び声が聞こえた。


 叫び声の主が人類か魔族かはわからなかったがルークは駆け出した。魔族であっても一般人なら助けたいそう思う事ができた。


 木々をかけわけながら走るとそこには熊と向き合っている子供の姿があった。子供はフードを被り人類かどうかも分からなかったが腰を抜かして座り込んでいるのがわかった。


 駆けつけて正解だったと判断したルークは剣の遺物を取り出して熊と子供の間へと飛び出す。そのまま熊を切りつけようとした時何処からか赤い槍が放たれて熊の頭へと突き刺さる。


 槍が放たれた方向を見ると見覚えのある姿が瞳に映った。小柄で赤い瞳の女性、エリザベスであった。


 思ったよりも早すぎる再会にルークは苦笑いを浮かべるのであった。


 

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