第20話 古代遺跡の探索

 帝国の遺物使いの一人であるマークとの模擬戦を行ってからルークに話しかける者が増えた。ルークの実力が認められて好意的な人が多い中、嫉妬の様な敵意を向ける者も少なからず存在していた。


 そんなある日、いつもの様に授業が始まると教師が話始めた。


「急遽、古代遺跡の探索実習が組まれた。こちらで班分けはしておいたので各自確認後準備をする事」


 教師が班分けをした内容が書かれた紙を配り始める。それを見ると王国からの留学生であるルーク達は同じ班で他に十数名の学生で班が構成されていた。


 実習を行う古代遺跡の場所は騎士学校から馬で1日ほど進んだ所にある比較的近い場所であった。


「古代遺跡を探索した後は各自でレポートを提出する様に。では、通常授業を始める」


 古代遺跡に良い思い出のないルークは複雑な思いであったが今は授業に集中するべきと考えて頭を切り替える。






 古代遺跡の探索実習当日。ルーク達の班は一塊となり遺跡の入り口に立っている。班員の殆どが名前の知らない学生であり、何名かはルークを敵視しているのがわかった。

 小声で「運がいいだけ」「遺物しか能がない」などの陰口が聞こえて来る。いちいち反応するのも億劫なルークは無視を決める。ふと、隣を見るといつになく不機嫌そうなミカルが立っている。


「言いたい事があるならはっきりと本人言え!」


 我慢の限界にきたのかミカルが大声で陰口を言う人たちを怒る。怒られて学生は舌打ちをして黙り込む。その行動に更に不機嫌になるミカルだったが、ルークは何とか宥めて落ち着かせる。


「ほら、みんな。早く探索しないとレポート書けないですよ」


 険悪なムードの中、リアがパンパンと手を叩いて注目を集めてから遺跡へと足を踏み入れた。その後に続く様にぞろぞろと遺跡へ入って行く。


 この遺跡は調査し尽くされており、危険性の少ない遺跡の一つである。中に入るには許可が必要だがそれほど難しい事もなく、授業にはうってつけであった。ただ、広さは広大で地図はあるものの迷ってしまうともう二度と出れないと思えるほどだ。


 道に迷わない様に注意しながら薄暗い道を進んでいくと壁に見慣れない文字が書いてある部屋へとやってきた。


「これ、古代文字ですね」


 リアが呟くと何が入ってるのか分からないいつもの大きなリュックを漁り中から本を一冊取り出す。


「リアそれ何?」


「古代文字の翻訳辞書です」


 ルークの質問にリアは両手を腰に当て胸を逸らしドヤ顔をする。ドヤ顔は直ぐにやめて辞書をパラパラめくりながら翻訳を始める。


「なになに……。手……全てを……危険……適合なし……封をする」


「もう少しわかりやすく訳せないのか?」


 リアのぶつ切りの翻訳を不満に思った班員の一人が文句を言うが、リアは困った顔を浮かべるだけだった。


「無茶言わなくでくださいよ。欠けてて読みにくいし私は専門家ではないのですよ」


 リアの言い分に納得をするが読める人が居るかもと交代で辞書を頼りに解読を試みるが成果はなかった。ずっと此処で頭を捻っていても仕方がないと奥へ探索を進める事にする。


 ある程度奥へ進むと先頭を歩いていたリアが立ち止まる。


「ここから先は侵入者撃退用のトラップが残ってるから気をつけて進んでください」


 事前にこの遺跡の事を調べていたリアが班の全員に注意を呼びかける。その言葉を聞いてより警戒を増して足を進める。


 誰かがトラップに引っかかると言うハプニングもなく順調に当初決めていた部屋までたどり着いた。


「ここが籠手の遺物が眠っていた場所か」


 班員の呟きを聞きそれぞれがその部屋の見学を始める。剣の遺物が眠っていた場所と似ており円状の部屋の中心に台座が置かれていた。外周をぐるりと見て回ったが特に何もなく籠手の遺物が置かれていた台座にも何もない。


「ルーク、剣の遺物出してみろよ。何か起こるかもしれないし」


 ルークに友好的な班員の一人がそう言う。その言葉を聞き何も起こらないと思ったが一応剣をだす。台座の上に乗せたりもしてみたが特に反応はなかった。


 一通り見学が終わり来た道を戻っているとルークに敵対的なグループが集まりコソコソと話している。不快に思いながらも無視をしているとそのうちの一人が近づいて来る。


 わざとらしくぶつかられたルークはよろめき不用意に足を前に出してしまう。踏み出された足からは何かスイッチを押した様な音がする。そして、けたたましい音と共に地面に穴が開く。その穴は大きく班員全員を飲み込んだ。


 かなりの深さの穴に落ちたが軽い擦り傷程度の怪我ですみ動けない物はいなかった。ルークにわざとぶつかった犯人はみんなからバッシングを受ける。


「気に入らないからって古代遺跡でふざけた事するなよ」


「うるせぇな! 罠を踏んだのはそいつだろ!」


「原因はお前だろうが! どうにかしろよ!」


 班員達が言い合いをしている所にミカルが割って入る。


「お前ら黙れ。ルークを押したやつはここを脱出してから相応の報いを受けてもらうとして、今はどうやってここから出るかが先決だ。異常に気がついた教員が助けに来るかも知れないがまずは周りに危険がないか調べるぞ」


 ミカルの意見に言い合いを一旦やめた班員達は周りの調査を行った。四方は壁で囲まれており上に上がれる様な物はない。諦めて救助を待とうとするとリアが声を上げた。


「この壁よく見たらスイッチがあるよ。どうする?」


 全員がリアの周りに集まり壁を確認すると巧妙に隠されているがそこにはスイッチがあった。


「上に上がれるかも知れないから推すぞ」


 ルークを押した班員がスイッチを押す。周りの人達はそれを止めようとしたが間に合わずスイッチが押される。

 スイッチが押されるとその横の壁が下に下がり通路ができる。通路はそこまで長くなく通路の先には部屋がありその中央に台座があるのが確認できた。


「こんな部屋地図にのってないです」


 リアの呟きで全員がこの古代遺跡の地図を確認するが確かに地図にはのっていなかった。

 調べ尽くされていたと思っていた古代遺跡に新しい部屋がある事がわかり興奮気味になる班員達。


 興奮を抑えながら辺りを注意しながら部屋へと進んでいく。部屋は円状で中央に台座がありその上には手甲らしき物が浮いている。


「まさか、新しい遺物」


 ルークは自分が遺物を手に入れた時の光景を思い出してそう呟いた。ルークの呟きを聞いた班員の一部、主にルークと敵対的な班員が遺物に駆け寄って行く。


「おい! 不用意に近づくのはよせ!」


 ミカルの静止の声を無視して一人の男子生徒が手甲の元へ辿り着く。その男子生徒が手甲れ手を伸ばした瞬間、手甲から触手の様なものが生えて男子生徒の腕に絡みつく。


「うわっ! なんだよこれ、離れろ!」


 ルークが知っている遺物とは全く違う反応に混乱する。絡みつく触手を振り払おうとする男子生徒だったがその抵抗も虚しく腕が触手に飲み込まれた。


「痛い! 腕が腕が痛い! ぎゃー!」


 叫び声を上げた男子生徒の腕に手甲が装備された。痛みに気絶したのか地面に倒れるがすぐに起き上がる。しかし起き上がった男子生徒には正気が感じられない。だらんと垂らされた腕に首も力なく下を向いている。


「おい、大丈夫か? デレク返事をしろ!」


 遺物を装備した男子生徒デレクに班員は呼びかけるが反応はない。首が正面をゆっくり向くと虚な瞳と目が合う。


「きぇー!」


 デレクは奇声をあげながらルーク達へ突撃して来る。


 


 

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