第19話 遺物使いとの模擬戦
流されるままルークは模擬戦が行える広い場所へ連れてこられた。周りには見物に来た多くの学生が取り囲む。
仕方がないとルークは備品の木剣を握ると中段に構えてマークを見る。マークは不思議そうにきょとんとした顔をしている。
「おいおい。俺たちは遺物使いだぜ。使うのはこれに決まってるだろ」
マークはそう言うと大鎌を亜空間から取り出す。その大鎌は人と同じくらいの大きさで真っ黒い色をしていた。それを準備体操なのかブンブンと振り回す。
「流石に遺物を使ったら危険ですよ」
ルークは遺物を使った模擬戦を拒否しようと発言する。その発言を聞いたマークは額に手を当ててため息を着く。不満そうにしているが危険な事をする訳にもいかずルークが説得をしようとする。
「つまらない事言うなよ」
マークから殺気が漏れ瞬時に臨戦態勢をルークがとる。それを観て凶悪な笑みを浮かべてマークは鎌を振るう。鎌はルークの首めがけて振るわれ、それを後ろに飛び避ける。
どうやらマークは遺物で戦う事を譲る気はない様子。それを見てルークも諦めて木剣を仕舞、剣の遺物を取り出す。
「それでいい。行くぞルーク!」
マークが再び距離を詰めてルーク目がけ鎌を振るう。鎌の独特な動きに翻弄されながらギリギリを避ける。慣れない鎌の動きに防戦一方となるルーク。鎌の動きに慣れてチャンスが出来るのをじっと待っているとマークの笑い声が聞こえてくる。
「おいおい、そんな消極的な戦いで俺に勝てるとでも思っているのか?」
マークの言葉を安い挑発と決めつけてルークは尚も避け続ける。最初のうちは防御に集中していれば完璧に避けれていたが次第に鎌が掠る様になる。慣れて余裕ができるなら分かるが攻撃が当たる様になるのはおかしい。
不思議に思い一旦大きく距離をとり先程までの攻防を思い返す。マークの攻撃が速くなったわけではない。相手が変わってないとすれば変わったのは自分。そう思うと自分が肩で息をしているのに気がついた。いつもより早いスピードで疲労している。
遺物同士の戦いで気が張り詰めているにしても異常なスピードで疲労している。疲労を感じると全身が怠くなる。
「気がついたみたいだな。俺の鎌は相手の体力を刈り取る。たとえ攻撃が当たらなくてもある一定の距離になるだけで体力を奪う事ができるんだ」
余裕を見せるマークは自慢気に能力の説明を始める。
ルークは近距離での戦闘は不利だと感じるが遠距離の攻撃方法はほぼ無かった。剣の赤い刀身は伸ばす事は可能だがそんな大振りの攻撃がマークに当たるとも思えない。
ふとルークは赤い刀身を出す時黒い部分が弾け飛ぶ事を思い出した。やってみた事はないが弾け飛ぶのを利用すれば遠距離攻撃になるのではないか。他に良い案もない為一か八か剣をマークに向けて振りながら赤き刀身をだす。
狙い通りマークに向けて凄まじいスピードで黒い破片が飛んでいく。上手く狙えていない為そのほとんどがマークに当たる事はなく地面に落ちる。
マークに向かった破片も全てマークにより防がれた。
「いいねぇ。やっぱり遺物使いは思いもよらない事してくるから楽しいな。けど、その技は此処では使うべきじゃないね」
マークはそう言うと地面を蹴り一気にルークへ近づく。黒い刀身を全て使い切っていたルークはもう一度破片を飛ばし牽制をする事が出来なかった。
飛ばす事は出来ないが戻す事は可能であった。
ルークは剣の遺物の特性を調べる過程で赤い刀身を出した後元に戻す時まるで逆再生かの様に黒い破片が刀身へ集まる事を知っていた。
それを利用してマークの後ろから大量の黒い破片を引き戻す。
どの程度ダメージがあるかわからないが確実に少しはダメージを与えれるそう確信した瞬間マークが180回転して全ての破片を撃ち落とした。
一瞬唖然としてしまったがマークが後ろを向いている今がチャンス。ルークは赤き刀身を振りかぶりながら近付く。
「そこまでだ!」
帝国の軍服を着た男性が大声で模擬戦を止める。かなり大きな声であり近くの見物客は耳を塞ぎ男性から離れる。
ルークが我にかえり現状を確認するとマークの背中から生えた大鎌がルークの首元に刃を突きつけていた。ルークの剣はマークには届いてはいなかった。
「ルーク、楽しかったぜ。もっと頭を柔軟にして色々と遺物を使って見る事をオススメする。例えば砕けた黒い刀身の使い方とかな」
マークはアドバイスをすると遺物を引っ込めてルークへ向き直り右手を差し出す。ルークも右手を出して握手する。最初は危険に思い拒否しようかと思った模擬戦だったが得られるものも大きかった。
「マークさん、ありがとうございます」
「おう!」
ルークの言葉に笑顔で返すマークだったが直ぐにその顔が歪む。ルーク達の模擬戦を止めた男性がマークの頭にゲンコツを落としたのだった。
「マーク! 貴様は何をしとるか!」
「今日は非番だから王国の遺物使いがどんなものかと思って」
「だからと言っていきなり模擬戦をしかも遺物を使うなどふざけるのも大概にしろ!」
辺りに響き渡る怒声に多くの学生はすごすごと解散して行く。怒られている本人はいつの間にかその場で正座をさせられて説教が始っていた。
ルークはその説教の中話しかけるのも戸惑っていたがそのまま帰る訳にも行かず意を決して二人に話しかける。
「あの〜。そろそろ帰らしてもらおうかな〜って」
説教をしていた軍服の男性がギロリとルークを見つめる。見つめられると勝手にルークは背筋が伸びてしまう。
「この馬鹿が迷惑をかけたすまん。あと、良い戦いであった君なら良い遺物使いになれるだろう」
「トラヴィスさんも見てたなら同罪ですね」
「うるさい!」
マークに再び拳骨が落ちて説教が再開された。ルークは苦笑いをしながら「失礼します」と言い寮へ帰る。
「ところで、王国の遺物使いと戦ってどうだった?」
説教も終わりトラヴィスはマークにそんな質問をした。
「まだまだ、ひよっこですね。遺物の力殆ど出しきれてないんじゃないですかね。これからはもっと遺物に触れるべきですね」
「私も同じ見解だ。ただお前の殺気を受けてなおも戦えるだけの精神力は中々だ。この学校の中で立っていられるのは数少ないだろ」
「そうですね。まぁ、ルークは伸びるか早死にするかどっちかですね」
「他国の学生とはいえ死なぬ様我々がサポートをせねばな」
「そうですね。あっ、良いこと思いつきましたよ」
「本当か?」
トラヴィスはジト目でマークを見る。マークは気にした素振りも見せずに話を続ける。
「遺物と言えば古代遺跡ですよ」
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