第18話 帝国での日常

 帝国へ到着してから数日後、初めての登校日となり、ルークは僅かばかりの不安と期待で胸を膨らませながら登校する。


 指定された教室に入るとそこは王国の教室より広かった。王国の騎士学校とは違いクラスという物がなく学年単位でのみ分かれており、100人以上の学生が一斉に授業を受ける為広くなっているのだろう。席も決まった席があるわけではない為適当な席にルークは座る。


 ルークは席に着き辺りを見渡すと幾つかのグループが集まり談笑している。ちらちらとこちらを見ながら何やら話しているグループもある。留学生が珍しいからであろう。


 授業が始まるまでぼーっとルークが待っているとミカルが教室に入ってきた。普段はわざわざ話しかけてこないミカルだがルークに近付き隣に座る。


「ちらちらこっちを見てきて鬱陶しいな」


 少しイラついているのか語気が強めになっているミカルが呟く。彼の方を見ると眉間に皺がよりいつもより怖い顔をしている。話しかけてくるわけでもない彼らを鬱陶しいと思うのはルークも同じであったがミカルほど顔に出てはいない。


「ミカル落ち着けって。留学生が珍しいのは仕方がないだろ」


「それだけならいいのだがな」


 ミカルの言葉に疑問符を浮かべるルークだったがそれ以上話す気は無いのか授業の準備をしてそっぽを向いてしまう。ルークも特に追求する事は無かった。


 人も増えもう少しで授業が始まるというタイミングで大きな音と共に教室の扉が開く。ルークがそちらを見ると肩で息をしながら入ってくるリアが目に入った。他の生徒達も彼女に注目している。


 リアもルークの方を見ると目が合い、そのままルークの方へバタバタとやってくる。ルークの隣はまだ席が空いており、そこへ彼女は座る。


「いやぁ、もう少しで初日から遅刻だったです」


 よほど急いでいたのかリアは寝癖で跳ねている頭を撫でながら照れ笑いをする。


「リア、気をつけなよ。俺たちは王国の代表でもあるんだから」


「ごめんなさいです」


 リアはルークの言葉を聞いて落ち込み反省する。そんな彼女を馬鹿にした様にクスクスと笑い声が聞こえる。不快に思ったルークは立ち上がり注意をしようとした所で教師がやってくる。


「全員、静かにしろ」


 ガヤガヤしていた教室が一気に静かになり、ルークも一旦落ち着き席へ座り直る。教師から軽く留学生であるルーク達の紹介があり直ぐに授業となった。


 授業の内容としては王国とそれほどレベルの違いはなく問題なく授業についていく事ができた。午前中の授業が終わり、午後からは選択授業となりリアと別れてミカルと二人で授業を受ける事になった。


 リアの事は若干心配であったがルークにはどうする事も出来ない。


 午後の授業は体力向上を目的としたランニングから始まった。一定のペースで走る中、ルークは小声でミカルに話しかける。


「リア、大丈夫かな?」


「ガキではあるまいし大丈夫に決まってるだろ」


 ミカルはルークの方を振り向きもせずにルークに返事をする。少し冷たいなとルークが感じているとミカルは話を続けた。


「帝国は実力主義だ。若干他国の学生を馬鹿にしている節はあるがリアならそれを跳ね除ける事ができるだろう」


 ミカルの言葉を聞いて、ルークは少し恥ずかしくなる。ミカルはリアの事を信じていたからだ。彼の話を聞いてルークは心配するのがおこがましいと感じた。


 その後の授業は私語をする事なく集中してルークは授業を受けた。







 帝国で授業を初めて受けてから一週間が経過しようとしていた。その間授業は問題なくついて行けていたがミカルとリア以外とはほとんどコミュニケーションをとれていなかった。


 リアは選択授業で友達ができたのか仲良く女生徒と話しているのを目撃する。一週間前リアの心配をしていた自分が馬鹿らしく思う。


 ミカルに関してはルークと同じく友達らしき人はいないが気にしてなさそうであった。


 友達を作りに帝国へ来たわけではないが変に孤立しているのは居心地が悪かった。


 授業が終わり勉強道具を片付けているルークはそんな事を考えていると教室が騒がしくなった。何事かと聞き耳を立てているとどうやら帝国の遺物使いがこの学校にやって来ているらしいという事がわかった。


 帝国の遺物使いが何のためにやって来たのか疑問に感じていると一段と辺りが騒がしくなり教室の扉が開かれた。開かれた扉から灰色がかった髪の色をした中肉中背の男が入ってくる。その人物の後ろには何やら人垣ができている。


 その男は入ってくるなり教室中に聞こえるような大きな声を発した。


「ルーク ノースってのはどいつだ?」


 男の声を聞いたクラスメイト達は一斉にルークを見る。男はルークと目が合うとルークの前へやってくる。


「お前がルーク ノースか?俺は帝国の遺物使いの一人マーク マイヤーだ」


 ルークはマークの自己紹介を聞いて本当に帝国の遺物使いが学校に来ていた事に驚いた。そして、自分に何の様なのかと疑問に思う。その疑問を解消するため直接マークへそれをぶつける。


「ルークは俺ですけど。マイヤーさんは一体何の用ですか?」


「マークでいいぞ。用件は簡単だ俺と戦え。王国の新しい遺物使いがどの程度か見極めてやる」


 マークの発言に聞いていた周りの生徒たちが遺物使いの戦いが観れると歓声が上がる。断ろうかと考えていたルークの腕をマークは掴み引っ張って行く。


 マークの強引な行動に流されるままのルークは断る事も出来ずに模擬戦をする事となってしまう。

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