第16話 留学
校長室の前に着いたルークは扉をノックする。直ぐに中から「どうぞ」と返事が返ってくる。それを聞いたルークは扉を開けて中へ入った。
校長室には白髪に白髭を貯えた老人が椅子に座りこちらを見つめていた。ルークは僅かな緊張感のせいで肩を硬らせる。
「ふふ。そう緊張するでない。とりあえずそこの椅子に座りたまえ」
校長から少し離れた位置に向かい合う様にして椅子が置かれていた。それにルークが座ると校長が話し始める。
「学校はどうじゃ?途中入学で大変ではなかったか?」
「クラスメイトが親切に色々教えてくれたので大変でしたが不自由はしませんでした」
「そうか、そうか。良い仲間を持ったようじゃな」
本題の前に雑談をしながら好好爺の様に微笑む校長。校長の雑談と優しげな雰囲気にルークの緊張は少し緩む。
その後も軽い雑談をしてルークの緊張が無くなったタイミングで校長は本題を切り出した。
「帝国へ行ってみる気はないか?」
「帝国ですか?」
校長が急に帝国の名前を出してきたためルークは首を傾げた。
帝国と言えば、王国の北の教国から更に北へ向かった所にあり、魔族領に面している国の中で最も大きく軍事力も高い国である。
「半年ほど留学で帝国へ行って見ないかと思うての」
「留学ですか……」
「不安な気持ちもわかる。じゃが、帝国の遺物や古代遺跡の情報は各国一。きっと御主の力になるじゃろ」
ルークは自分の持つ遺物を十分に使いこなせているか疑問であった。もしかしたら、帝国で更なる力が手に入るかもしれないそう考えると不思議と笑みが溢れた。
帝国で本当に更なる力が得れるかは分からないが少しでも強くなれる可能性があるならば進むしかない。ルークはそう考えると先ほどまで感じていた不安は無くなっていた。
「その留学の話受けます!」
「御主の他に成績上位の者2名が留学予定じゃから仲良くするのじゃよ」
「あの、自分が留学に選ばれたのはやっぱり遺物使いだからですか?」
成績上位者が留学に選ばれると聞いて少し気が引けるルーク。決して進級試験の自信が無いわけではなかったがそれでも上位かと言われれば疑問がある。
ルークの疑問に校長は柔らかい笑みを浮かべる。
「御主の成績も悪くないぞ。遺物使いと言う理由もあるが決してそれだけではない。進級試験の詳しい点数はまだ言えんが決して悪いものではなかったぞ」
校長の話を聞いて少し安心するルークだったが、それでも実力だけで選ばれていないのは確かであった。ルークは少し悔しく感じ、その悔しさをバネに頑張ろうと誓う。
留学の話が決定して、詳しい資料を渡されてルークは寮へ戻った。
進級試験が終わり数日が経過して試験結果が張り出された。事前に校長から悪くない結果だったと聞いていたものの実際に合格しているのを確認してルークは安堵した。
クラスメイト達はどうなのか確認すると全員無事進級が決定していた。
「やったな、ルーク」
ハラルトが肩を組んできながらそう言った。
「ハラルトもおめでとう。それに1000点満点中865点なんて凄いな」
「まぁな!けど、世の中には上には上がいるからなぁ」
ハラルトの視線の先にはミカルの成績が張り出されていた。その成績は923点で学年一位であった。
「900点代なんて化け物かよ」
「確かに凄いよな。俺なんて798点なのに」
ミカルと自分との差に少し落ち込むルークであった。それを見たハラルトは組んだ肩を外してルークの背中を叩く。
「途中入学で800点近いなんて凄い方だよ。学年の平均が720点なんだし落ち込むなって」
「そうだな」
ハラルトの言葉にルークは頷く。彼の言った通り平均より高い点数が取れている。ルークは現状に満足は出来ないが仕方がないと言い聞かせてる次に向けて頑張ろうと思う。
「そう言えば。ルークは帝国に留学するそうだな」
「何で知ってるんだよ?」
「噂でちょっと聞いてね。それよりも頑張れよ」
「もちろん。強くなって帰ってくるから驚くなよ?」
「俺もルークに抜かされない様にここで頑張るからな」
ルークとハラルトは熱い握手を交わしてお互いの健闘を祈った。
試験結果が張り出されてから更に数日が経過していよいよ帝国に向けて出発する日となった。一旦学校に集合してから帝国へ向かう予定となっており一番に集合場所に着いたルークは他2名の留学生を待っていた。
しばらくすると荷物を背負った男子生徒、ミカルがやってきた。ルークは彼が来るのではないかと予想をしておりそれがあたる。
ミカルはあまり驚いた様子はなくルークに近寄る。
「やはり、留学生の内の一人はお前かルーク」
少し冷たく言い放つミカルだったがルークはそれが彼の性格で悪気があるわけではないと知っている為そんなに気にしない。
「ミカル、よろしくな。所で後一人は誰だ? そろそろ集合時間だけど」
ミカルも知らないのか首を振るう。
集合時間が迫り遅刻ギリギリで最後の一人がその場に走りながら現れた。
「すみませ〜んです。。お待たせしました」
そこに現れたのは低い身長には似合わない大きなリュックを背負った栗毛の短い髪をした女生徒だった。
走って来たようで集合場所に着くと汗をかき肩で息をしながら両手で膝に当て目いる。
「時間ギリギリだな。それでは馬車に向かうぞ」
「ミカル、彼女は走って来たんだから少しは休憩させても良いんじゃないか?」
「それはその女の自業自得だ。仕方がない荷物をかせ。って重っ!」
ミカルは悪態をつきながら女生徒から荷物を奪い取る。しかし、思ったより重かったのかバランスを崩してしまう。バランスを崩したが転ぶ事はなく重そうにミカルは歩いていく。
「これで歩けるだろ。行くぞ」
「ありがとうございます」
女生徒はミカルへお礼を言うとミカルの後を着いていく。その後を追うようにルークも歩き出した。
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