研鑽、摩耗、鋭利

「彼女は定期的に自殺をしていた。今日まで生きていたということは、無論その全てが失敗に終わったということ。化け物が自殺なんてできるはずがなかったんだよ。ま、方法がないことはなかったんだけど、それを今説明する必要はない。長くなるし」


それでいいのか。「いいんだよ」チツグは俺の無言の問いに答えた。俺はそれ以上詮索することはしない。先ほどとは違う、チツグが本当に語りたくなさそうにしていたからだ。


「で、だ」


湯呑みの中を飲み干して、チツグはこちらを指差す。


「君の番だ。天見ナノヤ」


君にひとつ、質問がある。


「昨日さ、何食べた?」


『昨日夜何食べた?』


菊原の声が脳内で響く。


「やっぱり」

「そうだね。君の察している通り」


君は菊原桐李に殺された。


ずん、と心臓にあまりに重い何かがのし掛かる。呼吸が浅くなり、目の前の視界がはっきりしない。


ある程度、わかっていた。菊原と命の取り合いをして、そしてこいつの話を聞いて、菊原がどんな存在かを解るたび、その突拍子のない仮説は徐々に信憑性を増していった。


「ただ、決して故意ではない。それは彼女の名誉に誓ってだ。彼女は喜んで人を殺すような存在じゃない」

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