自覚
嘘だ
それは俺の口からこぼれた声なのか、心中に響いた叫びなのかわからない。
そうだ、嘘なのだ。きっと。どうして俺が彼女を傷つけることができるだろうか?そうだ、今思い出した。俺はヤツに二階から投げ出され、何度も何度も殴りつけられ、痛めつけられたじゃないか。そう、俺があれに反撃できる道理が────
『天見くん』
何だ、これ
『体の痛みなんて』
どうして、菊原が血みどろでいるんだ?俺の目の前で。どうしてこちらが、あいつを殺しそうになっている?
どうしてそんなになってまで、お前は笑ってるんだ──────
「俺、なのか」
自らの罪を自覚する時、人の頭は案外冷えている。少なくとも俺はそうだった。この所在不明の記憶は、不明瞭さを孕みながらも、間違いなく俺の記憶だ。
俺の記憶でありながらも、冷徹に事実を突きつけていると確信した。
俺は菊原の胸に手を当てる。脈拍も、温もりもない。血で固まった布の無機質な冷たさだけが手に伝わった。
死んでいる。あれだけ強かった彼女も、生物である以上死からは免れ得なかったのだ。それを齎したのは、どうやら俺らしい。
逃げるか、と俺は最初に考えた。妙に醒めているうちに荷物をまとめ、この街を出る。罪に打ち震えるのはその後でいい。
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