第15話

「漫研が⋯⋯潰れる!?」


「あぁ、水瀬みなせが親の都合で急遽転校することになってな⋯⋯。そしたら、白澤と木崎きざきの二人だけになっちまうだろ?あと1人メンバーがいないと、研究会・同好会は継続できないんだよ。あと1ヶ月以内に誰か見つけられれば良いんだが」


「そ、そんな⋯⋯!」


 口に手を当ててショックを受ける白澤。

 白澤って漫研入ってたのか⋯⋯。風紀委員一筋だと思っていたが、意外とそんな面もあったんだな。堅物っぽいのに、漫画好きなんだなぁ⋯⋯って、ん?


「村岡先生、部活の掛け持ちって校則で禁止されてましたっけ?」


「いや、活動に支障を来さないなら掛け持ちは禁止されてない⋯⋯。⋯⋯まさか天城」


 村岡先生は何かを察したらしい。いや、察した風の雰囲気を出しているだけだ。白々しい⋯⋯どうせ、俺がこう提案するのを狙って一緒に職員室に呼んだんだろ?目が笑ってるぞ、汚い大人め。


「白澤、交換条件だ。俺が漫研に入って漫研を存続させてやる。その代わり、俺の同好会に入ってくれ。別に活動のメインは漫研で良い。俺もメインは今のまま、恋愛相談活動にするからさ」


「!村岡先生!天城くんが漫研に入ってくれたら、漫研は潰れないで済みますか!?」


「あぁ。勿論だ。それなら、さっさと手続きしちまおう。と言っても、申請書書くだけだけどな」


 はぁ⋯⋯村岡先生に乗せられてしまった。まあ村岡先生の言いなりになるのはムカつくが、白澤のあの心底安心した嬉しそうな笑顔を見れば、別に良いかと思う。そんなに実害は無いしな。


 村岡先生がデスクの引き出しを開け、ごそごそと弄っている間に、白澤が話しかけてきた。


「ありがとう、天城くん!同好会作る時は、絶対に声をかけてね。ちゃんと恩は返すから」


「恩とかなんとか、重く考えなくていーよ。ま、同好会作る時はお願いしに行くわ。今日は無理だけど⋯⋯明日、漫研に行ってみて良いか?一応メンバーになるんだし、他の人達にも挨拶しておきたい」


「うん!是非来て!私たちの力作を見せる時が来たよ!」


「はは、楽しみ」


「私は今日お邪魔しようかな?黒崎さんにも、挨拶しときたいし!」


「ああ、良いぞ。いつもの空き教室な」


「うん!分かった!」


 何この子めちゃくちゃ可愛いじゃん⋯⋯。怒ってない時の白澤って、こんなに可愛いんだなぁ。さすが学校一の美少女と名高いだけある。

 冷静に考えると、俺の同好会って今のところ、俺と黒崎と白澤なんだよな。イケメン+美少女+美少女。顔面偏差値えぐい同好会になっちまったぜ⋯⋯。


 それから、同好会作成の書類を受け取り、漫研に入る書類を書いた俺たちは、職員室を出て教室に戻っていった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「と、いうわけで。俺たちは同好会になった。となると、俺たちの同好会には名前が必要になる」


「そうだね。どうしよっか、黒崎さん?」


「え、ええ⋯⋯。今、突然の展開を整理するのに時間がかかってるから、ちょっと待ってくれる?」


 放課後。いつもの空き教室で俺、黒崎、白澤の3人で机を合わせて、俺たちは同好会の名前を決める会議を始めていた。白澤による黒崎への挨拶は既に済んだ。

 黒崎は、突然白澤含めての同好会になるということで、混乱しているらしい。頭を抱えている姿も絵になるとは、可愛いってのは得だよなほんと。


「私、一応名前考えてきたんだ!『恋愛同好会』!どう?」


「捻り無いなぁ⋯⋯。それに、恋愛同好会だと俺が黒崎と白澤で二股してる同好会みたいじゃない?」


「死ぬほど不名誉ね⋯⋯天城くんと付き合ってる扱いだけでも不服なのに、二股かけられてる可哀想な女ってレッテルも最悪の極みだわ⋯⋯。ごめんなさい、白澤さん。とても良い名前だと思うのだけど、天城くんの思考が不快の極みで耐えられそうにないわ⋯⋯」


「同感だよ⋯⋯天城くん、ほんと酷い思考回路してるよね⋯⋯。だから浮いてるんだよ」


 そんな変な事言ってる?なんか同好会の中で昼ドラ起きてるみたいじゃない?恋愛同好会。俺だって二股クソ野郎の噂流れるの嫌だよ。


 あと、人を浮いてる浮いてるって言うのやめろ。まるで常識が無い変人みたいな扱い⋯⋯。許せないぜ。


「やっぱこれだろ、『恋愛斡旋同好会』」


「⋯⋯⋯⋯なんか、ガッカリするくらい普通のネーミングセンスね」


「天城くんのことだから、『超絶イケメン天城同好会』くらい言ってくるかと思ってたよ」


「お前ら⋯⋯俺の事なんだと思ってんだよ⋯⋯」


 至極真剣な表情の黒崎と白澤に対して、俺は深い深いため息を吐いた。

 ボケじゃない真面目な意見として、『超絶イケメン天城同好会』を出すような人間だと思われてんだなぁ、俺。俺はイケメンだが、そんな何してるのか分からん同好会の名前にして客入り減らす訳ないじゃん。


 まだ名前を提案してない黒崎に目で促すと、おずおずと手を挙げた。


「⋯⋯恋愛って単語が入ってると、なんだか気恥ずかしくないかしら?『お悩み解決同好会』みたいな」


「言っておくが、恋愛に関係無い悩みを解決するつもりは無いぞ。活動を明確にするためにも、恋愛の文字は入ってた方が相談に来る人も勘違いしないんじゃないか?それに、なんか小学生が考えた名前みたいでちょっと⋯⋯」


「わ、私は分かりやすくて良いと思うよ!黒崎さん!」


 白澤が慌ててフォローに入った。だってなんかダサくない?お悩み解決同好会って⋯⋯。恋愛の神様のネーミングセンスをとやかく言えるレベルじゃないだろ。


 運動出来ない、勉強出来ない、料理出来ない、ネーミングセンスがガキ臭い⋯⋯。相変わらず、見た目が良いことしか取り柄のない女だ。


 その後なんやかんやあり、俺たちの同好会は『恋愛斡旋同好会』に決まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る