第5話

この学校の風紀委員会は強力な権限と強い独立を持っている。

 まず、表向きは生徒会執行部の一部であるが生徒会長は教職員会と歴代風紀委員長で構成される指名委員会で指名される。

 風紀委員会の主な任務は校内の治安行政一般と違反者の処分を決定する際の検察官役、寮内の警備担当や提携する中学校の風紀委員会への技術指導となる。そしてその任務の中に違反者の検挙は含まれない。

 その違反者の検挙を担うのが、風紀委員会の中でもさらに独自の立ち位置を持つ風紀委委員会強制執行班である。この組織は教職員会とのつながりが強く、教職員会の求めに応じて校則違反者の検挙を行うことも多い。

 そして、話は戻るがミナミはこの風紀委員会強制執行班こそが違反物資であるチューイングガムを売り捌いている張本人だと断定した。

 事実であればとんでもない話だが、取り締まりサイドとして売人の手口を熟知している上に自分たちが取り締まるので検挙される心配もないというのはとてもうまくできた話だと思う。

「それで、どうして俺たちはいつも通り店を開いているんだ?」

 ガムの売人との接触を試みた翌日の放課後、俺とミナミは体育館の裏の階段のかげにゴザを敷いて店を開いていた。ここで並んでいるものはどれも禁制品とまではいかないものの学校公認の購買部系の店舗では扱わないようなものであったり購買部よりも少しだけ安く販売したりしていた。

「相手が風紀委員会強制執行班ってなると取れる手は限られてるからな。焦っても仕方がない。それにボク達を待っている顧客はまだいるんだ。店を閉めるわけにはいかんだろ」

 確かに、今日も何人か客がきて買い物をして行った。買う品物はさまざまで、いつも禁制品やそれに近いものを買っていく常連もいればたまたま購買部に行くよりも近かったという理由で利用をする生徒もいる。

 客がいると言っても、そのほとんどの時間は待ち時間だ。取り締まりがきたときに大事なものだけ持って逃げなくてはいけないので気は抜けないだ、暇ではある。

 こういうときに、性格は元より見た目だけはいいミナミが隣にいるというのは役得だと思う。いや、そもそもミナミに脅されなかったら今頃別のお楽しみがあったのか?

 仮定のことを考えても仕方がないのでミナミに話しかける。

「風紀委員会の奴らがガムに手を出したとして、他のものに手を出さない保証はあると思うか?」

「見た目によらず案外鋭いじゃないか」

 どんな見た目だよ。突っ込むと話が進まなくなるので黙っている。その沈黙をどう捉えたのかはわからないがミナミは先を続けた。

「可能性としては十分にあり得る。今はまだ販路が十分にあって仕入れも保存も簡単なガムだけかもしれないけど、相手が風紀委員会強制執行班なら別の商品の販売についても熟知しているはずだ」

 ここにだどりつくために必ず通る曲がり角を注視しつつ、ちらりとミナミの顔を見ると、今まで見たことのないような真剣な表情をしていた。

 俺としては放校処分にならないのなら今の商売をたたむことにはさして抵抗はないが、ミナミにとっては違うらしい。ミナミ商店に全てを賭けているように感じることもある。そこらへんの事情は詳しく聞いたことがないがどうせ乗りかかった船なので最後まで乗ってやろうくらいの気持ちでいる。

 だが、今は別にやることがある。

「そうだ、この後ちょっと出かけてくる」

「どこに行くんだい?」

「ガムの取引」

 ミナミは少しだけ驚いた顔をして見せた。

「ヘ~、まだボクのところで買ってくれる顧客もいたんだね」

「日々の信頼の積み重ねだな」

「せいぜい気をつけて頑張っておいで」

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