03-20 二月二〇日 確認と対策

「ですので、現在、カゲシンでは性病に感染する者が多く、抗生剤の需要が急増しているのです。

 皆様にも、薬剤の生産に協力して頂きたい次第なのです」


「そんな不埒な病気にかかった痴れ者など放っておけば良いではないか。

 それより、先日の『地中爆発型ファイアーボール』についてじゃ」


「確かに、事の発端には不埒な痴れ者が係わっていたのは事実で、そいつは朽ちても問題ないんですけど、そんなに不埒でない者にも感染が広がっているのですよ」


「そんなに不埒ではない者、じゃと?」


「例えば、そうですね、内公女殿下の親戚の方もおられるようです」


「親戚のう、親戚と言うてもカゲシンの貴族の半分は親戚みたいな物じゃからのう」


「初対面で、よくよく聞いてみれば従姉妹だったなんてこと結構ありますからね」


 ナディア姫に側近一号が同意する。


「父上の兄弟は、正嫡だけでも二〇人以上、庶子を含めればその倍。

 母上の兄弟も十人を優に超える。

 大体、自分の兄弟ですら顔と名前が一致しない者が少なからずおるぐらいじゃ」


 一夫多妻制貴族の親戚舐めてたよ。


「あー、うん、その女性にも多数感染者が出ていて、ですね、有体に言えば、内公女様が薬剤作製に努めているというのが施薬院としては政治的にとても大きいのですよ」


「施薬院の宣伝のためじゃと?」


「ネディーアール様にも、利点は大きいと思いますよ。

 下々のために自ら薬を作ってくれる慈悲深い内公女様と名前が売れますし」


「そんな弱弱しい肩書はいらぬのじゃ。

『勇猛な』とか、『一騎当千』とか、『ニフナニクス様の生まれ変わり』とかいうのが良いのじゃ。

 そういうことで、『地中爆発型ファイアーボール』の話じゃが、・・・」


「ネディーアール様、いい加減になさいませ!」


 例によってお目付け役のクロイトノット夫人が火を噴いた。




「まあ、そんなんで、今日の午前中は大変だったんですよ」


「それで、『地中爆発型ファイアーボール』の授業はしたの?」


「三人とも抗生剤を作れるようになったらって条件を付けたんだよ。

 そしたら、ものの三〇分ほどで三人とも達成、というか事前に練習していて当日朝には作れるようになってたみたいだな」


「つまり、あの子にしてやられたってことね」


 シマはあきれ顔だ。


「ネディーアールは悪だくみが大好きですから、それぐらいはやるでしょう。

 かわいい物です」


 悠然としているシノさん。


「まあ、三人とも抗生剤、ペニシリン系は作れるようになりました。

 しばらくは一定量の薬を提供する約束も取り付けましたから、こちらとしては十分なんですけどね。

 ネディーアール様は自習で作った薬まで提供してくれましたので」


「それの報酬が『地中爆発型ファイアーボール』というわけね。

 しっかし、あんたも、けったいな物考えだすわよねぇ。

 それで、ネディーアールはこれ、習得できたの?」


「実はダメでした。

 まあ、ゲレト・タイジが二日ほどで習得できましたから、そのうち覚えるでしょう」


「それは、どうだろ」


 エクスカリバーを撫でながら、ちっちゃいのが異議を唱える。


「この技、結構大変だよ。

 特に、呪文を唱えて規定のファイアーボールを作る事に慣れていた人には難しいと思う」


「シマの意見に賛成します。

 私達も最初は呪文を唱えての魔法から練習します。

 ですが、こちらで使用されている呪文に比べるとより具体的、より科学的です。

 科学的理論を踏まえて呪文を構築するのが少ないマナで効率的な魔法を使う方法だと習うのです。

 そのために科学理論も詳しく教えられます。

 こちらでは、その教育がおざなりです。

 魔法の呪文は固定化し、意味も分からず唱えている者が大半です。

 結果として無詠唱魔法に移行し辛いのでしょう」


「でも、ネディーアール様は薬剤作製ではタイジに引けを取らないですよ」


 練習時間や熱意まで考慮するとネディーアールの方が覚えは良いぐらいだろう。


「薬剤作製はネディーアールに取っては完全に未知の領域です。

 ですので、あなたのやり方を素直に模倣したのでしょう。

 対してファイアーボールや風魔法は彼女にとって慣れ親しんだ物です。

 故に、最初の概念を捨てる所からやらないと無理でしょう」


「そう、考えるとタイジ君ってラッキーだったかもね。

 最初からキョウスケに魔法を習ってるから全部、無詠唱で出来てるじゃない。

 本人の努力と才能も有るんだろうけど」


 ちなみに、センフルール勢には今さっき、『地中爆発型ファイアーボール』を伝授した。

 手を副えて教えるという名目で、シノさんやシマの背中に密着したのは、まあ、当然だろう。

 うん、いい匂いだった。

 オレ、これでしばらく戦えます。


 真面目な話をすると、センフルール勢は『地中爆発型ファイアーボール』をあっさりとマスターしてしまった。

 少なくともオレが直接指導した六人は数回の補助で出来るようになっている。

 才能とか教育とかもあるのだろうけど、彼女らの体は極めてマナの通りが良く、感覚を同期させやすい。

 つまり指導がやりやすいのだ。

 順番を付けると、シノ、シマ、リタという感じで、もろに魔力量に比例している。

 ちなみに、メイド長のミスズさんだけは「人族の指導を受けることはできない」と拒否したのでそのままだ。


「そうそう、あなたが盗んできた薬の分析が終わりましたよ」


 シノさんが話題を変える。


「その、出来れば『手に入れた』ぐらいに言って頂きたいのですが、・・・」


 オレはあれからもう一度カゲクロのセリガー宿舎に行ってきた。

 セリガーがフロンクハイトに渡した薬を手に入れるためである。

 首尾よく、『魅了』した女性により薬を手に入れて、シノさんに渡しておいたのだ。


「あなたの、貢献には感謝しています。

 結果ですが、あれは『死人薬』と言われる薬でした」


「何ですか、その物騒な名前は?」


「セリガーの『強制転化』については知っていますね?」


「はい、人族や牙族を半殺しの貧血状態にして、セリガーの血を振りかけて強制的に月の民にしてしまうとかいうやつですね」


 前の施薬院特別講義でもやってた話だ。


「そうです。

 血の相性を調べずに無差別に転化させるのですが、それでも時々、能力の高い転化者が発生するとされます。

 問題は、この方法だと『不全転化者』、『グール』とか『なりかけ』とか『なりそこない』などと言われる悲惨な状態の者が多数発生する事です。

 この『不全転化者』をセリガーは使い捨ての兵士として活用します。

 この際に彼らに使われるのが『死人薬』です」


「えーと、ひょっとしてですが、命を縮める代わりに能力が向上するとかの系統でしょうか?」


「おお、良く分かったわね」


 驚いた顔でシマが答える。


「うん、いや、何か、ものすごーく、ありがちな設定だなって思って」


 全く、ジャ〇プの超常物じゃあるまいし。


「原理的には、興奮剤と強心剤の組み合わせみたいな薬剤です。

 心拍数血圧を上げて、上行大動脈周囲に存在するマナ節を活性化させ、一時的に血圧上昇とマナの発生量を増大させます。

 しかし、心毒性が有りますから使い続ければ心臓もマナ節もダメになります」


「それで、その薬をどう使うのでしょう?

 次の武芸大会とかって訳ではないですよね?」


「ええ、違うでしょう。

『死人薬』はマナの発生量を増大させますが、極度の興奮状態になるのです。

 元々、理性が半ば以上失われている『グール』なら欠点にはなりませんが、一般の血族では、冷静な戦闘が出来なくなる分不利とされます」


「では、フロンクハイトは、その薬を何に使うのでしょう?」


「用途が思いつかないのです」


「でも、フロンクハイトはその薬の提供を強く求めていたようですが?」


「あんたは、どー考えんの?」


 逆にシマに聞かれてしまった。


「えーと、その薬の能力増大作用はどの程度なのでしょう?」


「極量で五割程度と聞きます。

 グールの場合、極量だと一回で半分が朽ちるそうです。

 一般の血族が使う場合も心臓とマナ発生器官にかなりのダメージが来ます。

 使用量を半分に減らせば、理性を保ったまま活動できると聞きますが、マナの増加も一~二割程度のようです」


「うーん、じゃあ、人族や牙族に使えますか?」


「『死人薬』という名前は『人族』の間の名称です。

 セリガーでは『グール薬』だったはずです。

 人族や牙族に使用した場合は、マナの増大効果は十割、つまりほぼ倍増するとされます。

 ただ、使用後三時間以内に九割が死ぬと聞きます」


 ・・・何だろね。


「フロンクハイトの首席留学生が、能力を二割上げたらシマに勝てますか?」


「負けないわよ。特に今はコイツがあるからね」


 シマがエクスカリバーを示す。

 気に入っているようで何よりだ。


「薬に味は有りますか?

 無味無臭というわけではないですよね?」


「酷くという程ではないですが、普通に苦いようです」


「水に溶いたら、・・・ばれますかね?」


「密かに飲ませるという意味でしたら難しいでしょう」


 こちらの薬は糖衣錠とか飲みやすくする処理はほぼされていないので、味の悪い物が多い。

 これはオレが作った薬にも当てはまる。

 ・・・今後、改良すべきかね?

 でもそうしたらますます作製が難しくなりそう。


「すいません、サッパリ用途が思いつかないんですが」


「ヤッパ、そうよねー」


「では、この話は棚上げにしましょう。

 フロンクハイト留学生についての、センフルールのカシワ様からの意見が届きましたので、あなたにも伝えておきましょう」


「カシワ様、ですか?」


「私の父の姉です。

 現在のセンフルールではかなりの年長になります。

 信頼できる方です」


 ふむ、何歳なんだろね。


「彼女の言では、フロンクハイトが人質を出すなど信じられない、という話なのです。

 私も知らなかったのですが、フロンクハイトは始祖様と戦い、それに敗れた後でも、『まともな』人質は出していないのだそうです」


「シノさんも知らなかった?」


「始祖様の配下には、フロンクハイト系の人材もそれなりにいたのです。

 始祖様の子供を産んだ女性もいました」


「私の髪の毛はフロンクハイト系列の遺伝子みたいよ」


 プラチナブロンドが髪の毛をいじりながら言う。

 ふーん、そうだったんだ。


「特に、その子供を産んだ女性などは、公式には『人質』として始祖様に差し出されたことになっています。

 ですが、カシワ様によればそうではないと。

 それらの者は、それぞれが故郷と縁を切って個人の資格で始祖様に仕えたというのです。

 重用されるようになってから、フロンクハイト本国が彼らを懐柔し関係を修復したというのです」


「でも、フロンクハイトは今回、『人質』を出した」


 黒髪美女が頷く。


「確かに『留学生』という名目は有ります。

 ですが、フロンクハイトは他国の下になる事、そう見られる事を可能な限り避けるのだそうです」


「何か企んでいる可能性が高いってことですね」


「そうです。

 今更ではありますが、フロンクハイトが何か企てているのは間違いないでしょう。

 そして、これに関係して、もう一つ。

 カシワ様によれば、シュタール・シェラリールは『末子』だそうです。

 彼女の母親はもう随分と前に死んでいると」


「末っ子、ですか?

 では、今現在、カゲシンに来ている自称『妹』は?」


「正体不明、ということになります。

 ただ、魔力量はそれなりにあります。

 それなりの地位の血族であるのは間違いないでしょう」


「シュタール・シェラリール本人ってことは無いですか?」


「顔も違いますが、魔力量が違い過ぎます。

 永遠の霊廟で見たシュタール・シェラリールはカロリーナに比べて魔力量が二割以上多かったのです。

 ただ、シェラリールは一七〇歳前後と聞いています。

 カロリーナは九〇歳程です。

 年齢差を考慮するとカロリーナの魔力量はシェラリールの妹を名乗るに十分です」


「誰かは分からないが、フロンクハイトの名門であるシュタール一族の名を騙れる程度の実力は有る、ということですね」


 ・・・何か、陰謀、まっしぐらに成って来たな。


「もう一つ。

 あなたがフキに提起した、『肉体的接触』と『魅了』を併用するという話です。

 その方法は確かに効果があります。

 ですが、カゲシン上位貴族の男性が月の民の女性とベッドインしたと広まれば政治的には致命的です」


「なかなか、使えない、使いどころが困難、という事ですか?」


「その通りです。

『魅了』は万能ではありません。

 私たちは多くの場合、相手を『魅了』して情報を引き出し、そのあとは『忘れる』ように命令します。

『魅了』を活性化したまま野放しにすれば、相手はのべつ幕なしに愛を語り続けるストーカーと化すでしょう」


「それは面倒な話ですね」


「某サコ様のように引き連れて故郷に帰るのであれば別ですが、謀略に使うのはかなり困難です」


 ふむ、では、やはり別の線かね。


「私の方からも質問して宜しいですか?」


「かまいません」


「では、まず、ここの皆さんは化粧をほぼしていないようですが、月の民は化粧を基本的にしないと考えてよいですか?」


「藪から棒に、何言いだしてんのよ」


「いや、それなりに理由は有るんだが」


「その個人によるとしか言いようが有りません。

 センフルールの女性が化粧をしない傾向にあるのは事実です。

 私たちは肌理が細かく、唇は元から赤いため、化粧を必要とする余地が少ないのです。

 逆に、センフルールの男性は唇を暗めにする染料を使う事があります。

 フロンクハイトも唇は赤いので口紅は使わないと聞きますが、『白粉』はそれなりに使うと聞きます。

 セリガーの女性は基本的に化粧していますね」


 そう言えば、セリガーの女性は結構ケバいのが多いな。


「『永遠の霊廟』でのフロンクハイトは厚化粧という印象は無かったのです。

 今回、ここに来ている留学生はかなり厚化粧ですよね」


「確かに、妙に厚塗りね。

 まあ、あれだけお盛んな所を見ると、男を誘惑するためでしょうけど」


 確かにそれも有るだろう。


「もう一つ、質問です。

 月の民は人族の病気にはかからない。

 特に感染症にはかからないと聞きます。

 ですが、故意に感染することは可能でしょうか?」


「わざわざ、病気になるというのですか。何のために?」


「人族に感染させるためです」


 シノ、シマだけでなく、メイド達も顔を見合わせる。


「現在、カゲシン界隈で性病が増えています。

 丁度、フロンクハイト勢が来てから、正確に言えば、フロンクハイトが到着して一か月ぐらいから性病感染患者が増加しているのです。

 梅毒の潜伏期間は二〇日から一〇〇日程度とこちらの教科書にはあります」


「この国では以前から定期的に性病は蔓延しています。

 偶然ではないですか?」


「その可能性を否定はできません。

 ですが、気になるところがあります。

 一つ目は、今回の性病がかなり強力なことです。

 従来からこの国に有ったサルファ剤はほぼ無効です。

 もう一つ、施薬院学生のアスカリ・アブルハイルが感染しました」


「それ、誰?」


「キョウスケの薬術便覧の作成に協力していた学生の一人なのです。

 伯爵家の息子ですが、金が無い様で、学生証は『緑』と低いです。

 回りくどい意味不明な話し方をする特徴があるのです。

 女は胸が全て、普段からブラジャーを外してノーブラで暮らすべきだと叫んだ変態なのです。

 変態の友人は変態という典型例なのです」


 シマの疑問にフキが余計なことまで答える。

 シマに、フキ、フト、そしてハトンというフラッターズの厳しい視線を無視して説明を続ける。


「アスカリは自分の従者の女性の他は、フロンクハイトの侍女と『接触』しただけなのです。

 これは、彼と女性陣を別個に問いただしていますので間違いありません」


「フロンクハイトの侍女と『接触』したと、・・・」


 シノさんが、真剣な眼差しで尋ねてくる。


「つまり、その男は、あのGカップを揉んだ、という事ですか?」


「いえ、アスカリの相手はEカップのようです。

 その時Gカップに『接触』したのは彼を誘った友人、シャハーン・アウラングセーブです」


「シャハーンって、あの赤毛のチャラ男?

 あいつ、こないだボクのおしり触ったんだよ!」


 リタが文句を言う。

 お前も赤毛じゃないか。

 尻ぐらい、・・・まあ、怒るか。


「話を本筋に戻しましょう。

 キョウスケ、ちゃんとデータは確認していますか?

 あの、Gカップは本物ですか?

 詰め物ではないのですね?」


「それは、本物のようです。

 これはバフシュ・アフルーズからの情報ですが」


「形はどうです?

 だらしなく垂れているとかではないのですか?」


「多少、垂れてはいるが許容範囲内だと」


 シノさんが満足げに頷く。


「あのさ、一応、形式的に突っ込んどくけど話の本筋は性病の感染じゃなかったのかな?」


 そんなにあからさまにため息をつくのはどうかと思うよ、シマ君。


「確かに、Gカップでも性病感染者では可愛がりたくはありません」


「シノ様、性病感染が疑われてるのはフロンクハイトのEカップの方ですよ」


 リタ君、そこは訂正必要かな?


「さっきの化粧の話なんですが、フロンクハイトの侍女が梅毒にかかって時間が経過しているのなら梅毒による発疹、通称『バラ疹』が出ているはずと考えたのです」


「なるほど、『バラ疹』を隠すための厚化粧って話ね」


 シマが納得したという顔をする。


「真面目な話、血族でも転化者で能力が低い者だったら感染は普通に有るわね。

 でも、生まれながらの血族なら感染は有り得ないわ。

 そして、留学生は全員、生まれながらの血族よ」


「いえ、それは我々の『慣例』であってフロンクハイトがそれを守っているとは限りません」


「でも、フロンクハイトの侍女たちは全員、それなりの魔力持ちだよ。

 転化者だとしても能力は高いから、感染はしない、・・・って、あれ、・・・ひょっとして転化したてって話?」


「そうです。その可能性が有ります」


「すいません、話が見えないのですが?」


 シノ、シマの議論に割って入る。


「キョウスケ、フロンクハイトの厚化粧、『バラ疹』を隠すだけではないでしょう」


 シノさんがこちらを見て真面目な顔をしている。

 いや、さっきのおっぱいの時も真剣ではあったが。


「血族の女性は唇が赤いのが普通です。

 これはセリガーでもフロンクハイトでも同様です。

 転化者の場合、男性は必ずしも赤くはなりませんが、女性は必ず赤くなります。

 ただ、一日二日で赤くなるわけではありません。

 数年かかるのが普通です」


「ひょっとして体も同じですか?

 転化して数年は感染が継続すると?」


 彼女が頷く。


「転化の前に感染していたのなら、その可能性はあるでしょう。

 確認してはいませんが、数年、少なくとも一年程度は感染が治癒しない可能性は高いと思われます」


「そっか、唇が赤くなかったら、血族としては不自然だものね。

 かと言って口紅だけ塗るのはもっと不自然。

 全部、塗りたくっちゃえば口紅も不自然じゃない。

 道理で変な口紅塗ってたわよね。

 黄色とかピンクとか」


「言われてみれば、これは結構強力なテロかも知れません。

 カゲシンの現在の風紀状況では性病はあっと言う間に広がるでしょう。

 月の民は病気を持たないという先入観もあります。

 そして、中途半端なサルファ剤系の抗菌剤があったのが、拍車をかけています。

 カゲシンの貴族の間では、性病は金をかければ治る病気だったはずです。

 それが治らないとなると、パニックになる可能性すらあります」


「しかし、今の推論が本当だとすると、・・・随分と手の込んだことを考えた物ですね」


「フロンクハイトは陰謀と裏工作の本家です」


 シノさんがシニカルに笑う。


「非常に手の込んだ、手の込み過ぎた策謀で有名です。

 それでしばしば自滅すると」


 シノさんが視線を送るとメイド長が頷いた。

 部族としてのクセみたいなものか。


「それにしても、今回はたまたまキョウスケがいたから、ペニシリン系とか早くから使えてるけど、それが無かったら大変なことになってたかもね。

 施薬院のプライドからしたら、数か月は自力で何とかしようとしたでしょ。

 私たちに泣きつくのは、何か月も先に成ってたと思う」


「半年先でしたら数万人になっていた可能性もあります。

 そうなったら、手の施しようがありません。

 カゲシンの出生率は大幅に低下したでしょう」


「実は、現状でも、結構大変なんです。

 手伝って頂けると嬉しいのですが、・・・」


「私は、武芸大会の練習が有るって言ったよね」


 シマがニマーっと笑う。


「でも、追加で吸わせてくれるんなら考えても良いわ」


 オレ、本気で干からびるんじゃなかろうか。

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