131.進撃の陽光姫~ブレイキング・ファスト~
いつもありがとうございます。
活動報告に書かせてもらいましたが、体調を崩して遅くなりました……申し訳ないです。
前回の予告からタイトルを変えてお届けします。
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王国歴725年、双首鳥の月(6月)上旬
晴れて穏やかな朝日が差し込む部屋で、僅かな衣擦れの音だけが耳に入ってくる。
この場には4人(と1匹)もの人が居るが、誰も何も言わずにこの穏やかで幸せな雰囲気を楽しんでいた。
1匹のほうが黙っているのは、今この瞬間になにか言えば吊るされると分かっているからかもしれないけど……。
「…………♪」
化粧台の前に座った僕の背中側では、機嫌が良さそうな雰囲気で僕の髪を何度も何度も梳いてくれているツバキさんがいる。
アイネさんとマリアナさんはベッドの端に並んで座りながら、それを眺めているといった状況だ。
学院の授業がある日はツバキさんだけが僕と過ごす時間が減ってしまうので、どうやら2人はツバキさんに気を使ってくれているらしい。
まぁ僕が決めたわけじゃなく、みんなの中での暗黙の了解みたいになっているみたいだ。
以前からのことではあるけれども、朝の準備の時間だけはツバキさんが僕を独占する大切な時間だと。
僕らの関係が変わっても、お互いを想い合ってできたこの時間が僕も好きだ。
「……はい。ユエ様、御髪が整いました」
「ええ、いつもありがとうございます」
「ふふっ、私が好きでやっていることですので」
鏡に映るツバキさんが僕の肩に手を置きながら優しく微笑み、僕も鏡越しにツバキさんに微笑みを返した。
「ユエくんのその髪、相変わらず綺麗よねぇ……」
「あら、そういえばマリアナさんはツバキさんの特製シャンプーを使ったことがなかったのだっけ? ユエさんはあれを使った上にツバキさんのお手入れを毎日受けてれいるからなおさらだけれど、分けてもらっている私もかなりいい感じになったわよ」
「えー!? そうなの!? そういえばアイネちゃんも……真っ直ぐで綺麗ねぇ……。最近ジメジメする日が多くて、私なんか癖があるから大変なのよ……」
ツバキさんの髪の手入れが終わったのを見計らったかのように、これまで黙っていた2人が雑談を始めた。
女の子にとって髪の美しさというのはとても重要なテーマらしい。
「マリアナ様、もしご入用であれば今夜までにアイネ様にお渡ししたものと同じものをご用意できますが、いかがいたしましょう?」
「ほんとっ!? ぜひお願いしたいわ! ありがとうツバキさんっ!」
「ふふ……いえ、お安い御用でございます」
「私もいつも助かっているわ。香りも良いし、不思議と乱れも少なくなるのよね」
「そうなのね……それは今夜が楽しみだわ!」
ツバキさんがアイネさんとマリアナさんを主人のように立てて丁寧な接し方をしてくれるのは変わらないけれども、あの夜を共に過ごしてからどこか心の距離が近づき、年の近い女友達同士とも言えるような雰囲気になっている気がする。
そのことが僕はまた心温まる感じがして……3人が楽しく話している光景を見ているだけでとても幸せな気分になることができた。
「ささ、ユエ様。最後はお口元を失礼いたしま……っ!?」
微笑む僕の方に向き直ったツバキさんがリップを取り出してかがみ込むが……途中でその顔が扉の方を向いた。
「……この気配は……」
僕もその原因……明らかにこの部屋に向かって急速に近づいてくる気配を感じていた。
「とうとう、ここにも来るようになったのね……」
「? どうしたの、みんなして……」
アイネさんも分かったようだ。
マリアナさんはわからないようで、僕らの様子をみて首を傾げている。
陽光のような透き通る金色の気配……この気配の持ち主は、エルシーユさんだ……。
「……ユエ様、申し訳ございませんが……」
「ええ……すみませんが、今朝はここまでですね」
「はっ……」
事情を知らない人に姿を見られるわけにはいかないツバキさんは、とても残念そうにそう言うと影の中へと入っていった。
ほぼ同時に、部屋の扉がノックされる。
『ルナリアさん、おはようっ! 一緒に教室へいきましょうっ?』
「この声は……エルちゃん?」
「そうよ……あ、私が出るわ。ユ……ルナさんはリップをつけちゃって」
「……わかりました」
僕が立ち上がろうとしたのを制したアイネさんがベッドから離れて扉を開くと、何も知ら無いとは言え僕らの朝の時間をぶち壊しにしてくれたエルシーユさんが無邪気な笑顔を浮かべていた。
『おはようルナ……あれ? アイネ? マリアナさんも……どうして朝からルナリアさんのお部屋にいるのっ?』
「エルさんこそ……どうしてここがルナさんの部屋だと分かったの?」
『え? ルナリアさんの気配がするもの、わかるでしょう?』
「ぅぅ……私、そんな気配なんてわからないもん……」
『当然でしょう?』みたいな言いかたをして可愛らしく小首をかしげるエルシーユさん。
それは貴女の実力が飛び抜けているからで、そういう言い方をされるとマリアナさんがヘコんでしまうから止めてほしいです……。
『それより、ねぇ、なんで2人がルナリアさんのお部屋に居るの? あ、わかったわ! やっぱり少しでも長く一緒に居たほうが『仲良く』なれるってことなのね!』
「はぁ……あのねエルさん。何度も言っているけれど、私とルナさんとマリアナさんは『ただのお友達』じゃないの。エルさんみたいに『ただのお友達』が朝から人の部屋に押しかけるのはちょっと失礼になるわよ?」
とうとう朝の平穏まで乱されてしまったからか、アイネさんの言葉に棘が交じる。
『失礼って何……? 私もみんなと『お友達』なんだから、問題はないでしょう?』
「いえ、だからただのお友達じゃなくて、その……『特別な関係』なのっ! エルさんとは違うのよ……」
学院で度々一緒の時間を過ごしてきたのでお互いの言葉はちゃんと通じているはずなのに、その認識において致命的にズレてしまっている……。
エルシーユさんとしては純粋にもっと『仲良く』なりたいというだけなのだろうが、『恋人関係』ということをどうにも理解してくれないようで、ここのところはずっとこんな感じで僕らの誰かかミリリアさんあたりがグイグイ来るエルシーユさんを説得するという光景が繰り広げられている。
『アイネが言ってることはよくわからないわ……』
「なら悪いけれど、エルさんにはまだ早いってことね」
『えー! やだやだっ! 私もその『特別』になりたいのっ!』
背が高く完璧な美貌のエルシーユさんが、まるで子供のように地団駄を踏んでわがままを言っている……。
たしかエルシーユさんはこれでも僕らの何倍も長く生きているはずだけれど……これではまるで子供のようだ。
同じ光樹族でも、昨日見かけたあの不思議な子とは精神性に大きな違いがあるように思える。
「貴女ねぇ……」
言葉が完全に通じる僕が真摯に説明するべきなのかもしれないけれど、この調子ではそれでも変わってくれるかどうかわからないというものだ。
それに毎度毎度、いい雰囲気になっているところや穏やかな空気を楽しんでいるときに突撃されては困らされているので、僕よりもアイネさんたちの不満が募ってきているようにも思える。
「……そろそろ出ないと間に合いませんので、行きましょうか」
ササッとリップを塗り終えた僕は、カバンを手に眉間にシワを寄せてしまっているアイネさんの横に立つと、そっとその手に触れて宥めた。
「……そうね、行きましょう」
僕と目を合わせてフッと表情を柔らかくしてくれたアイネさんは、そのまま僕の腕に抱きついてくる。
「あ、まって……ふふ、お姉ちゃんも一緒よ?」
「ええ、行きましょう」
それを見たマリアナさんが左側を固め……。
『もうっ! また2人だけくっついて!』
『……エルシーユさんも、行きましょう。今日は一緒に登校しますので、それで許してください』
『一緒に登校……わかったわ! お友達だものね!』
『あはは……はぁ……』
プンプンと可愛らしく怒っていたエルシーユさんをあっさりと宥めると、問題の先送りにしかならないと分かっていながらも、とりあえず今日の日常を始めるために寮を出るのだった。
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あとがき
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次回、「編入生は自由人~賢者と呼ばれた少女~」
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