125.アノ日~光落ち闇満ちる刻~

いつもありがとうございます。


新作を先に投稿していたら遅くなりました……すみません。

あとがきにURLを乗せましたので、ぜひよろしくお願いいたします。


こちらはついにアノ日に突入!

前回は語られなかった日付が変わる前からのお話。

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 アイネさんたちの意図が『そういうこと』だというのは、もうなんとなく分かっていた。


 穏やかで幸せな昼食の時間を過ごし、お茶を飲みながらソファーで寄り添われ、色々と買い物をしたりして楽しんだらしい忍華衆の娘たちが帰ってきて、日が沈んでからそれを送り出して。


 再び屋敷が静かになる頃までずっと……いやそれからも、アイネさんもマリアナさんもツバキさんも、決して僕から離れようとしなかった。

 それとなく理由をつけて離れようとしてもやんわりと断られ、お手洗いですら扉の前で待たれているという徹底的なマークっぷり。


 アイネさんもツバキさんも、僕の『アノ日』を……新月の日のことを知っている。

 そして『準備しておく』と言ってくれていたアイネさんが、おそらくマリアナさんにも話したのだろう……。


 特に日が暮れて夕食を取った後くらいからは、3人ともソワソワとして僕の様子を伺っているようだった。


 僕は僕で、夜になったことで急激に増していく衝動が身体の内側から溢れ出しそうになって……まだそんなことをしても楽にはなれないというのに、気を抜けば寄り添ってくれている3人に醜い欲望をぶつけてしまいそうで……。


 ただひたすら目を閉じて、その衝動を抑え込もうと必死になっていた。


 ――カチコチと、寝室の掛け時計が時を刻む音が聞こえる。


 しかし、それももうすぐ限界がくるであろうことを、僕自身が一番わかっている。


「……っ、はぁっ……ぅっ……ぐっ……!」


 頭の中から……腹の奥の方から……次々と押し寄せてくるのは、光の存在である人とは相反する闇。

 闇を身体から排除しようとする光とせめぎ合い、心臓の鼓動にあわせて身体を引き裂くような痛みとなって押し寄せてくる。


 その痛みの強さが、闇が光を侵食していく速さが、今回は……このひと月の間に僕の中に溜まった醜い欲望がこれまでの比ではないことを知らせていた。


 先月も酷かったというのに……これは、過去最高の酷さかもしれない。


「がっ……!? くっ、ぅっ……!」


 気を失うことさえ許されない痛みの中、僕を包む温かさがわずかばかりに光の抵抗を強めてくれている気がする。


「ユエさん……」


「ユ、ユエくんっ……しっかりしてっ……!」


「主様……」


 ベッドの上で身体を丸めてもがく僕に寄り添ってくれているのは、身を清め下着姿となっているアイネさんとマリアナさんとツバキさん。


「……やはり、これは見てられんのぅ……」


 そして『見てられん』と言いながらも部屋の隅で見守っているクロ。


 もうここに来て、みんなの意図は理解できていた。


 それでもこの期に及んで、どうしても思ってしまうことがある。


 本当なら放っておいてほしい。

 こんな僕を見ないでほしい。

 この後のことを考えると、僕に……愛する人に酷いことをさせないでほしい。


「大丈夫……大丈夫よユエさん……」


「ぃっ……大丈夫ユエくん、お姉ちゃんはここにいるわ……」


「私も、お傍におります……」


 そんな願いを抱きつつも……もはやもがくことしかできない僕に気にしている余裕もなく、背中から包んでくれている温かさの中で身を縮め、手に感じる温かさにすがるように強く握りしめることしかできない。


 そうしてしばらく耐え忍んでいたが……時計の全ての針が重なる音がして、ついにその時はやってきた。


「はぁっ……ぐっ……ぎ、あぁっ――!?」


 ドクンッ! と、一際大きく衝撃が身体の中を走り回った。


 僕の中の光が潰えて、闇がその産声を上げた瞬間だった。


「ユエさんっ!?」


 耳元でアイネさんが何かを言ってくれているような気がするが、意識までもが急速に闇に染まっていく中ではどこか遠くの出来事のように思えた。


「は……なれ……てっ……! はなれてっ、くださ、いっ……!」


「きゃっ!?」


「っ……ユエさんっ!?」


 意識がまだ残っているうちに、最後の最後で僕が行ったのは……もう加減も出来ずに寄り添ってくれていたアイネさんとマリアナさんをベッドの上から押し出すことだった。


「――来たのじゃ」


「――うっ……がっ……アアアアァァァァァァァァーーーーッ!!!!」


 湧き上がってきた闇が完全に光を塗りつぶすと同時に、僕の身体から溢れ出した闇は僕自身を作り変えていく。

 まで上があったのかと狂いそうになるほどの痛みで、獣のような叫び声が自分の口から飛び出した。


「あああああああぁぁぁっ……! がああああああぁぁぁーーーっ!」


 闇が、全てを染めていく。全てを落としていく。

 髪も、瞳も、理性も、意識も。


「ユエさんっ! ユエさっ……きゃぁっ!?」


「アイネ様っ! 今はいけませんっ!」


「でもっ、ユエさんがっ……! あんなに苦しんでっ……!」


 あまりに濃い闇の波動が荒れ狂い、僕の方に近寄ろうとしていたアイネさんを退ける。


「ぁっ……ぁあっ……なにっ、これっ……!? 身体が、勝手に震えて……!? そ、そこにいるのは……クロちゃん……!?」


「……ああ、妾じゃ」


 そして同時に、部屋の隅には黒猫の姿から本来の闇王としての姿に戻ったクロが壁に背中を預けていて、さらに強くなった闇の気配……いや闇そのものを目の前にしてマリアナさんが身体を震わせた。


「ぁっ……ぐっ……」


 僕の身体の変化は……最後に焼けるように熱い股の下から僕の欲望が顔を出して。

 それが新月の日の始まりを告げた。


『さて、妾は早々に退散するのじゃ。あとはお主らでなんとかせい。闇が漏れないように結界くらいは張っておいてやるのじゃ』


『……ええ、クロちゃん。ありがとう』


『ふんっ……まあ、もし足りなかったら妾を呼ぶのじゃな。流石に3人もおればそれはないじゃろうが……』


 ドコかデ、女の声が聞こエる。

 ダメダ、マダ身体が動かなイ。

 熱い……熱イ……。


 くっ……なんとか、意識を、保たなければ……!


 ……アア、女がヒトリ、どこかへ行っテシまった。

 アノ身体つキ、とてモ美味しそウダったのに。

 アアでも、ワザワザ闇をクウヨり光のほウが美味そうダ。

 ちょウド良いところに、3人モイるじゃなイか!


「うぐっ……ぁあっ……」


 駄目だって……もう一度クロとしたら、闇と交わったら……たぶん僕は戻れなくなる。

 それに、この3人は……僕の大切な人たちなんだ。

 こんな醜いモノをぶつけるためだけの、都合のいい存在じゃないっ!


 ソんなコトいって……見ロ、あイつハ初物じゃナイか?

 イいカラダしてルヨなァ?

 アノ胸、握りツブしたらドンな顔をすルダろうナ?


「…………」


『ひっ――』


 ぁ……あぁっ……。

 あの目は……あの顔は……怖がらせて、しまった……僕が……欲にまみれた目で、彼女を見たから……。

 そう、ですよね……こんな僕は、怖いですよね……。


「……ゃ……だ……ごめん……さい……」


 嫌だ……。

 イヤだイヤだ……!

 こんな……せっかく約束を果たせて……通じ合えたのに……。

 こんな僕じゃ……お姉ちゃんだって嫌なんだ……。


『ぁっ……!? ちっ、違うのユエくんっ……ごめなさいっ! お姉ちゃんなら大丈夫だからっ!』


「ぅ……っ……ねがい……す、っく……はな……て……もぅ……やだ……ごめ……いっ……!」


 どうして……動け……目を逸らさなきゃ……今からでも、ここを離れなきゃ……嫌われたく……ない……。

 ぐっ……身体が重い……ベッドのシーツで滑って……。


 素直ニナれバ、気持ちヨク……楽になれルノになァ?


『ユエさん……こんなに、苦しんでいたのね……。……2人とも、アレを飲んで』


『……はい』


『う、うんっ……』


 なんだ……3人が顔を見合わせて……何かを……。

 薬……を、飲んだ……?


「がっ……ぅっ……なに、を……? はや……れて……」


 早くしないと、しがみついているシーツを引きちぎって襲いかかってしまいそうに……。


『……ユエさん』


「っ……!? ア、アイネ……さん……?」


 ど、どうしてそこで……ぐっ、下着まで脱いで……。

 駄目、です……そんな姿で近寄られたらっ……!


「――ユエさん。大丈夫……私なら、私たちなら……大丈夫だから」


「ぁっ……」


 ふわりと、素肌の温もりが再び僕を包み……その胸元で光るのは、僕らの想いの証。

 それを目にして……ほんのひとときかもしれないけれど、僕の意識を現実に留めてくれた。

 ガンガンと頭に響くように聞こえていた声も、ハッキリと聞こえるようになる。


「はぁっ……はぁっ……アイネ、さん……」


「そうよ、私よ……ユエさんを愛していて、ユエさんが愛してくれる……アイネよ。もう、そんなになってまで苦しまなくていいの……。私ならユエさんの……す、好きにして大丈夫だから。……私たちが今飲んだのは、その……避妊薬よ」


「えっ……」


「即効性で、一日ちょっとしか効かないけれど……そのぶん私たちの身体への負担も少ないわ」


「そんな、もの……が……くっ……」


 いつ……と思ったけれど、身体の奥底から湧き上がってくる欲望と愛しさが限界に達しようとしていた僕は、自分を押し留めることで精一杯だった。


「……だから、これを飲んだ私なら……私たちなら。ユエさんは遠慮せずに……何も気にすることなく、ただ私たちを愛してくれればいいの……ほら、こっちよ……」


「ぁっ……!?」


 ポスっと……ベッドに仰向けに寝転がるアイネさんに引き倒され、僕は一糸まとわぬその美しい肢体に覆いかぶさる体勢へと導かれた。


「私はユエさんに楽になって……いつも私を、き……気持ちよくしてくれているユエさんに……わ、私で……気持ちよくなって、ほしいの……」


「で、でも……ぐっ……!?」


 体重を支えていると、アイネさんのお腹に押し当てている形になっているソレにアイネさんの手が触れ……ただそれだけでゾクゾクと背筋を駆け上がっていく快感に、僕は思わず声を漏らしてしまった。


「熱っ……!? ほ、ほら……こ、こんなになってまで、我慢しなくてもいいのよ……? 私は、どんなユエさんでも愛しているわ。だからユエさんも、早く私を愛して……?」


 頭の片隅では、アイネさんのそれはとても恥ずかしい思いをしてまで僕を誘惑しようとしてくれているということは分かっていた。

 薬まで飲んで、いくらでも欲望を吐き出してもいいのだと……僕のタガを外そうとしているのだろうと。


「アイネさん……」


 愛しい人にここまでさせて、もう僕に引く選択肢はない。

 それでも、せっかく引き戻してもらった意識をなんとか留めて、ちゃんと準備をしてからせめて優しく……と考えていた。


「ユエさんは遠慮せずに……んっ……ここに、来て……?」


「ぁ――――」


 しかし、誰でもないアイネさん自身に……頬を染めて上目遣いで僕を見ながら大胆にもそこへ導かれ……触れた先の湿り気を感じた瞬間に――。


「っ……! アイネさんっ……! あぁっ……!」


 僕のそんな考えや理性はまるごと吹き飛ばされることになってしまい――。


「んんぅぅっ……!? んっく、あぁっ……! ユエさん、くっ……ぁっ……き、たぁっ……! はぁっ……ンぁぁっ……!? ぁんっ、ぁっ、ぁんっ、あぁぁっ……! そっ、そうよユエさんっ……! ぁんっ、あぁんっ……! 好きにっ、ンんっ、はぁンっ……好きに動いてぇっ……! ぁあぁっ……!? はっ、はげしっ……ひゃぁんっ……!」


 ――長い一日が、始まった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

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次回、「アノ日~薔薇銀姫と黒猫従者~」

えちえち警報発令です!

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