089.ステキな自分勝手~正妻パワーは偉大なり~

まえがき


いつもありがとうございます。


始めの方、閲覧場所注意です。

3章のこれまでの中では一番長いお話であり、重要回。

――――――――――――――――――――――――――――――――





 夜。


 僕はこの寮の部屋の防音性にとても感謝していた。


 と、いうのも……。


「あぁぁぁんっ! ぁんっ……! ユエさぁぁんっ、はんぁんっ……! すきぃっ……すきよユエさんっ……くぅぅんっ……! ちゅっ、ハァッ……ちゅむっ……れろぉっ……ぁっ、ひゃぅぅんっ!」


「ア、アイネさん……声が……」


「んぁぁぁんっ……! ぅんっ……だって……だってぇっ……! そっ、そこぉっ……ユエさぁん、そこっ……ゃんっ……もっとぉ……! もっとさわってぇっ……!」


 僕の腕の中に収まった一糸まとわぬ姿のアイネさんが、片腕をしっかりと僕の首に回してい啄むようにキスを求めてくる。


 さらに『もっと』とおねだりされるままに、その柔らかでしっとりとした魅惑の感覚をもたらしてくれる胸を僕がふにふにと弄べば、アイネさんは背筋をピーンと伸ばして身体を震わせ、その口からは熱い吐息混じりの嬌声が上がった。


 最近のアイネさんはこういう行為にも慣れてきたのか、快感に対する戸惑いや遠慮がなくなったようで……特に今夜はアイネさんから誘われるようにして始まり、とても積極的に求めてくれた。


 僕自身は女の子の身体の時は身体的に快感を得ることはできないけれど、それを分かってくれているのかアイネさんは僕の心を満たすように積極的にキスをしてくれるし、僕が触れる度に敏感に・素直に反応を見せてくれるので……愛しさとドキドキでどうにかなりそうだ。


「んっ、ちゅっ……」


「ひゃぁぅぅっ!? ユ、ユエさんっ……そんなっ、ぁんっ……! さきっぽぉ、なめちゃっ……んぅぅっ、んぁぁぁんっ……! ビリビリって……! ど、どうっ……? わたし、のぉっ……ぁんっ……むね、はぁ……? ひゃんっ!? い、いいのぉっ……もっとぉっ……!」


 今夜のアイネさんは、なぜかやけにお胸にこだわりがあるようだ。

 僕が別のところに触れようとすると、お胸をもっとと可愛くおねだりをされてしまう。


 僕はアイネさんが気持ちよくなってくれて可愛い反応を見せてくれれば満足なので、その片手には少し収まりきらないくらいの大きくて形の良いお胸様に、おねだりされる以上のご奉仕することを楽しんでいる。


「あぁぁんっ!? そっ、そんなっ……両方いっぺんになんてぇっ……!? ビリビリがっ、つよすぎてっ……くぅぅんっ……!」


 僕って、Sな人だったのだろうか……?


 でもSっていっても大切な人が痛がるのはいやだから……優しく丁寧に相手への思いを込めているつもりなんだけれど……これってSなんだろか?


 ご奉仕型のS?


 アイネさんの柔らかなお山のてっぺんにあり、可愛く膨らんで主張をしていたさくらんぼを口に含んで舌で転がし、片手でもう片方を優しく弾きながら、そんな馬鹿なことを考えていると……大きく身悶えるアイネさんの片手が、自分のお股のほうに向かっていっていた。


 どうやら僕の恋人は、いつの間にやらイケナイことを覚えてしまったようだ。


「アイネさん……僕にお胸をおねだりしておいて、ソコ、自分で触っちゃうんですか……?」


「ひぅんっ……! だってぇ……ユエさん、優しくてぇっ……ぁんっ……きもち、よくてぇっ……! ユエさんを、思い出しちゃって……んぅっ、せつなくなっちゃうですもの……ぁっ、ぁぁんっ……!」


 僕が手や舌を動かす度に、アイネさんの指が湿った音を響かせた。


 そりゃ僕だって……したいけど、できなくてもどかしい思いをしているっていうのに……アイネさんはアノ日の僕を思い出して自分を慰めているという。


「……いつのまにそんなにえっちになっちゃったんですか? アイネさん……」


 ちょっとイタズラ心が湧いて、そんな可愛い事を言うアイネさんの耳元にそう囁やけば、アイネさんはゾクゾクと身体を震わせながらそのトロけた瞳で僕を見つめてきた。


「ぁんっ……そ、それはぁっ……ハァッ……ユエさんが、いけないのよっ……ひぅんっ……!? ユエさんが、わたしをっ……こんなに愛しい気持ちに、するからぁっ……ぁぁんっ、んぅぅっ……! ユエさんにシてもらうと、こんなになっちゃう、くぅっ……なんて知らなかったんだからぁっ……!」


「そうですか……でも、せっかくこうしてふたりで愛し合っているというのに自分でしちゃうなんて……今夜は僕は、ソコは触れたらダメってことですか?」


「やっ、やぁぁっ……そんなっ………………し、して、ほしいの……。ユエさんの、いじわるぅっ……あぁぁっ!?」


「ふふっ……わかりました。えっちなことに素直なアイネさんも可愛いですよ?」


「そんなっ、私のゆびでなんてぇっ……!?」


 お股のほうにやられたアイネさんの手に自分の手を重ねて、アイネさんの指を動かすようにしてソコをこすり上げれば、アイネさんの身体は今日一番の反応を見せてくれた。


「ぁぁんっ、んんっ、ひゃぅぅんっ……! ぁぁっ、あっ、あぁっ――――!!」


 自分の指の感覚なのに、自分の意思以上の動きにアイネさんはあっという間に上り詰めていき……。


「くぅぅぅぅ、ひゃぁぁぁぁぁ――――――ッ……!」



*****



 しばらくして。


「はぁっ……はぁ…………はぁ……ぅぅっ、今夜のユエさんは、いつもよりも意地悪だったわ……」


「あはは……すみません。アイネさんこそ、とっても積極的でしたよ? ……心配しなくても、言ったじゃないですか。僕はアイネさんのお胸も好きですよって」


「ぅっ……ごめんなさい。さすがにわかりやすかったかしら……」


 アイネさんに『意地悪』を連発させるほど翻弄し倒してから、アイネさんの息が整ったところで、僕たちはアイネさんの部屋のベッドで抱き合ってそんな会話を――これがいわゆるピロートークというやつだろうか?――交わしていた。


 行為中に胸をやたらと強調されたのは、きっと昼間のことがあったからだろう。

 ちょっとした、可愛いらしい嫉妬である。


 まぁこういっては何だけど、そもそも今夜は僕にそういうことをするつもりはなかった。


 放課後に戻ってきたツバキさんからの報告を二人揃って聞き、僕はどうするべきなのかを悩んでいて……。


 なんやかんやあってアイネさんの求めに応えてしちゃったけど、正直に言うと行為中も……今も気になってしまっていた。


 そんな僕の様子に気づいたからこそ、アイネさんが嫉妬しちゃって求められたのかもしれないけれど……それはともかく。


 こうして悩んでいても、現状ではなんの解決にもなっていない。


「はぁ……もぅ、ユエさんもわかりやすいんだから……マリアナさんのことでしょう?」


 僕の胸に頬を擦り寄せながら、アイネさんは『仕方がないわね』といった様子で大きく息を吐いた。


 うっ……こうして二人で抱き合っているのに、他の女の子のことを考えるのは……良くないことだというのは分かっているのだけれど……。


「すみません……」


「……くすっ、いいのよ。今夜は……その、私もちょっと強引だったわ……」


 気まずさを覚えて謝った僕を、アイネさんはあっさりと許してくれた。

 きっとその顔は恥ずかしさで染まっているのだろうけれど、許してもらえてちょっとホッとしてしまった。


「私もツバキさんから話は聞いたのだし、ユエさんが心配するのも分かるわ……」


 そう言ったアイネさんの抱きつく力がぎゅっと強くなり、回された手が僕を安心させるかのように優しく背中を撫でてくれた。


 そして、僕の心配をアイネさんの視点で改めて言葉にしてくれた。


「たぶん、マリアナさんはこれから大変よ……。エーデル家が小さな子爵家とはいえ、家業を取り仕切っていた人がいなくなって、その負担が全てマリアナさんに来るとしたら……私の家とは規模が違うから比べられないにしても、もし私が同じ立場だったら……なんて、想像もしたくないくらいよ……」


「……そう、ですね」


「以前にユエさんから聞いた話からすると……これがもし普通の貴族家の子供だったら、投げ出してしまうかもしれないけれど……家を残すことに腐心しているマリアナさんはそうはしないのでしょうね」


 そう。マリアナさんが感じている恩というものを僕も理解できるからこそ、それを止めろとは口が裂けても言う事は出来ない。


「言いにくいけれど……例の嫌な噂のせいで、マリアナさんには貴族社会で頼れる人や家はいないわ。こんな状況になった以上、差し出されたカネスキー家の手を取るしかなくなるかもしれないわ……」


「…………」


 マリアナさんは、カネスキー家の悪評のことは知らない様子だった。

 知らない上に、『支援を惜しまない』と追記された手があるとしたら……家を残すために当主としてとして婿を迎えることになれば……。


「でもそうなれば、マリアナさんはカネスキー家の誰かと結婚して、この学院にはいられなくなるわ。このままでは……もうすぐ開催されるパーティーで二者がお見合いを済ませてしまったら、それが現実になってしまうでしょうね……」


「…………」


 アイネさんが語ってくれた未来予想図は、あまりに現実的で。

 僕は無意識に、ぎゅっと拳を握ってしまっていた。


「ユエさんは……どうしたいの?」


 気がつけば、僕の胸から顔を離したアイネさんが優しい瞳で僕を見つめていた。


 アイネさんはまるで僕がどう答えるかをわかっているかの様子だけれども……あえて優しく問いかけてくれたことで、僕は自分の胸に渦巻いていた身勝手な考えを、言葉に変えていくことが出来た。


「それはもちろん、助けたいです……なんとかしてあげたいです……! でも、それは自分勝手ではないでしょうか……?」


「自分勝手……? どうして、かしら?」


「それは……」


 ただの同級生のクラスメイトの『ルナリア』であれば……しかも月猫商会という後ろ盾があるとは言え名誉子爵家程度の娘であれば、今回の件はいくら友達とはいっても『大変だね、頑張ってね』程度の対応が正しいのかもしれない。


 一方で……あの孤児院時代に、僕の心に確かな光をさしてくれていたマリアナお姉ちゃんを知る『ユエ』としては、そうはしたくなかった。


 でも……。


「僕は……『ルナリア』でもあります。マリアナさんがお友達として話してくれた事情なのに、『ユエ』としても一方的に知っていて、解決できる力があるから手を差し伸べるなんて……」


 これまで彼女との約束を果たせずに居る僕が、急に現れて困っているから助けるなんて……そんなことが許されるのだろうかと、葛藤してしまうのだ。


 僕がそんな葛藤で表情を苦しいものにしてしまっていると……アイネさんはまるで子を諭す母のように優しい微笑みを浮かべながら、そっと僕の頬を撫でてくれた。


「ユエさん……あのね、力がないと手を差し伸べることもできないのよ……? それに……くすっ、それを言うなら私のときも同じじゃないかしら?」


「ぅっ……それは、そうですけれど……」


 確かに、アイネさんのときも僕が一方的に知っている状況で……それでも好きになったからこそ、あの校外実習の日の事件で覚悟を決めて助けたわけだけれど……。


「ふふっ、ごめんなさい。ユエさんを困らせたいわけじゃなくて……結局は、ユエさんの気持ち次第だと思うの」


「僕の、気持ち次第……?」


「そうよ……。ユエさんは、マリアナさんのことが、好きなの……?」


 アイネさんは相変わらず優しい微笑みのまま、ゆっくりと、核心に迫るように……僕の気持ちを聞いてきた。


「それは……」


 問われて、僕は自分の胸の内に意識を向けた。

 そして一言一言、アイネさんに引き出されるように、正直な気持ちを言葉にしていく。


「好きか嫌いかで言えば、もちろん好きです……。でも正直に言いますと、アイネさんに対して感じているほどのものではないので……この気持ちがアイネさんが言う『好き』と同じなのかは、わかりません……」


 僕が吐露した気持ちを聞いたアイネさんは、なぜかどこか誇らしそうに微笑みを濃くして……でもその微笑みは文字通り『勝ち誇った』というようではなく……。


「ふふっ……ユエさん、それはそうよ? だって、私には誰にも負けないほどの想いがあって、運命的な出来事を経て、私たちは結ばれたのですもの。その後だって、こうして……ちゅっ……」


「んっ……!?」


「くすっ……こうして、愛を深めてきたのよ? だからユエさんは、私に対してそう想ってくれているの。とても嬉しいわ……ってそうじゃなくて。ユエさんが好きと想っていながらその強さに疑問を持っているというなら、マリアナさんとはまだその機会がなかっただけよ。マリアナさんだって、その機会がいつか来ることを望んでいると思うわ」


「そう、でしょうか……?」


 人の想いに対して自信を持つ……なんてことは誰だって出来ないのかもしれないけれど、まるで確信を持っているかのようなアイネさんの言い様に、僕はつい素直な疑問を返してしまった。


「そうよ? だって……私のこの髪飾りと同じよ。マリアナさんは、私よりも前から……ユエさんからもらった手紙を大事に取っていたのでしょう? いつか、約束が果たされるのを夢見て……それが証拠よ」


 アイネさんとマリアナさんは同じ……なのだろうか?

 だからこそ、その気持ちが分かると……そういうことなのだろうか。


「だから、その『機会』を作るかどうかは、結局はユエさん次第なのよ。そしてその一歩を踏み出せば……ユエさんのことだから、きっと深く愛してくれるわ」


「アイネさん……?」


 僕のことを分かってくれているというのは嬉しいけれど、アイネさんが背中を押してくれるということは……。


「アイネさんは、それでいいのですか……?」


 その問いに……お胸の話で嫉妬してしまう、僕の可愛いお嫁さんは……。


「ふふっ……言ったでしょう? 私のユエさんへの想いは、誰にも負けないもの。それに、マリアナさんだから良いと思えるのよ? マリアナさんなら……優しくて、がんばり屋で、義理堅くて、昔のユエさんも知っているマリアナさんなら……きっとユエさんに寄り添ってくれるわ」


 そう言って、僕以上に僕のことを考えてくれている様子で、僕が好きな綺麗な笑みを見せてくれたのだった。


「さぁ……ユエさんはどうしたいの?」


「アイネさん……僕は……」


 アイネさんの微笑みに背中を押され、僕は再び自分の胸に……素直な気持ちに意識を向けた。


 思い出されるのは、過去の天真爛漫なマリアナお姉ちゃん……そして今の、魅力的な女性に成長したマリアナさん。


 そして、その笑顔。


「僕は……手を、差し伸べたいと思います。そしてその手を取ってもらえたなら、この気持ちを素直に伝えて……お嫁さんになってもらいたいです。知らない貴族ほかのおとこなんかに渡したくないですっ……! マリアナさんには……希望を捨てること無く、笑っていてほしいですっ……!」


 一度口から出た言葉は……自分勝手だけど素直なその言葉は、不思議と止まることはなかった。


 眼の前にいる愛しい人に、真剣に告げた僕の言葉を聞いて……アイネさんはまた、『仕方がない人ね』というように微笑んだ。


「ふふっ……ほら、ユエさんにはもう、そんな十分な気持ちが……『想い』があるじゃない。素敵な顔をしているわよ、ユエさん?」


「あっ……そ、そうです、か……?」


 僕自身、もうこれだけの想いを抱くことが出来ていることに、少し驚いてしまった。


 新しいお嫁さんができるかもしれないというのに、正妻の余裕というか貫禄すらあるアイネさんが上手く引き出してくれたからだとは思うけれど……。


「ええ。いいじゃない。自分勝手って言っても、それで女の子が夢見る白馬の王子様が自分をピンチから攫っていってくれるなら、それはステキな自分勝手だわ」


「……ありがとうございます、アイネさん」


 自分でバシッと決めて……ではなく、婚約者に本音を引き出された上で、さらに許された形なのが男としてはイマイチ格好がつかないけれど……。


 おかげで、心は決まった。


 あとは、行動あるのみだ……!


「くすっ、カッコイイわね、ユエさん。いい顔をしているわ」


 い、いちいち僕の表情を読まないでくださいよ……ちょっと恥ずかしいです。


「ああそうだったわ……さっき、する前に聞かれていた……今度の慈善活動の場所だけど――」


 アイネさんは唐突に、僕が聞きそびれていたその慈善活動の場所とやらを……イタズラ心いっぱいといったような、可笑しそうな微笑みで教えてくれた。


 正直に言って、とても驚いた。


 しかし……なるほど。


 アイネさんがそんな表情になるのも、今それを言うのも分かる。


 確かにさっきまでの話の流れで……僕とマリアナさんにとってこれ以上『おあつらえ向き』の場所は無いだろう。


 アイネさんは、僕にこう告げたのだ。


 ――西区のにある、聖光教会付属のよ。








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あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

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次回、「夢~やくそくの、その先は~」

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